独りの夜
夜の部屋は、蛍光灯の芯が微かに震える音だけを孕んでいる。壁の時計は秒針を進めるたびに、私の胸の奥へ小さな釘を打ち込むようだ。踏ん張れなかった。百パーセント、私が悪い。頭の中でその言葉は、錆びたレコードの溝をなぞる針のように、繰り返し、繰り返し、溝を深くしていく。
なぜ頑張らなかった? なぜ逃げた?
問いかけは、いつしか私の声ではなく、どこか遠くの誰かの声に変わっている。鏡に映る顔は、知らない女のそれだ。頬は落ち、目は濁り、唇は乾いてひび割れている。間違ったことをした。取り返しのつかない選択をした。そう思うたび、喉の奥に鉄の味が広がる。
一人で考える。いつも独りだ。パートナーの肩に頭を預け、家族の前で泣き崩れる人たちの話を、SNSの片隅で覗き見る。羨ましい。ほんの少し、ほんのわずかだけ。こんな感情を抱く自分が、ますます汚らわしくなる。だから私はダメなのだ。ダメなまま、朝を迎える。
「心が壊れる前でよかったね」
誰かがそう言った。優しい声だった。
けれど、その言葉は私の皮膚の下に潜り込み、じわじわと腐っていく。
今も続くこの地獄のような苦しみの中で、壊れずにいる私は、どこかおかしいのではないか。壊れるとは、死を意味するのか? わからない。何もわからない。信じられるものは、もう何一つない。自分の言葉も、他人の言葉も、すべてが硝子の破片のように鋭く、触れれば血を流すだけだ。
窓の外、街灯がぼんやりと滲んでいる。雨は降っていないのに、ガラスは涙で濡れているように見える。私は立ち上がり、冷蔵庫の前に立つ。扉を開けても、中は空っぽだ。空腹すら感じない。ただ、冷たい空気が頬を撫でる。それだけが、今の私に残された現実の感触だった。




