そう言う事になった
今までの投降と比べたら短いけどキリが良いので更新する
綾華の様に装具を抜いで身軽な姿になっていた涼介は、クラスメイトの1人である田中の頭を撃ち抜いて殺害した際に用いたFN-FALの手入れをする為に弾を抜いている所であった。
標的の正体は不明。
手掛かりも無し。
容疑者は32人も居ると来てる。
解っている事は狡賢いクソ野郎だって事ぐらい……
つーか、それ以前にジェーンと世界の主であろう女神ですら解らない相手って何者だよ?
思考を巡らせながら、FN-FALから樹脂製の弾倉を抜いてチャージングハンドルを引き、右側の排莢口から薬室内の7.62ミリNATO弾を抜いた涼介は標的の正体が不明な事に引っ掛かりを覚えると、分解作業の手を進めながら更に思考を巡らせていく。
仮にも神相手に正体を隠せる様な奴が弱いなんて、そんな都合の良い展開はありえないだろうな……
そうなると、あのクソアマと同等のクソ不愉快ぶりと強さを兼ね備えた厄介な敵として診るのが妥当だ。
そうじゃなかった場合は、取り越し苦労で済んでくれる。
標的の脅威度を今は亡き怨敵と同等として判断した涼介は慣れた手付きでFN-FALを直ぐに分解し終えると、ボルトとガンオイルを着けたブラシを手に作業を進めていく。
確りと磨いて火薬汚れを落とし終えてウェス代わりのボロ布で拭うと、既にSIG P226のクリーニングを済ませていた綾香が涼介に言う。
「意外ね。てっきり、今夜の内に出立するかと思ったんだけど?」
「休める余裕が有るんなら休みたいのが人情ってもんだ」
遠回しに意外じゃない。
そう返した涼介に綾華は「成る程」と、相槌を打って納得すれば、次の疑問をぶつけて来た。
「既に殺してる時点で聞くだけ時間の無駄なのは理解してる。だけど、敢えて聞くわ……クラスの連中を殺れるの?」
今更過ぎる事を敢えて聞いて来た綾華に涼介作業の手を止める事無く、正直に本心を答える。
「正直言えば、殺したくない。殺っても何も感じなかったとは言えな……」
「私には解らない感情ね」
綾華は調教された結果。
親しい友であっても、ソレが飼い主の意志ならば殺す。
ソレが己にとって唯一の存在意義となっている、ロクデナシのクズ共の憐れな被害者であるが故に涼介の感情が理解出来なかった。
そんな綾華にバレル内を清掃する涼介は淡々と言う。
「理解して貰うつもりは無い。勿論、お前に押し付ける気も無いし、お前を殺そうとして来た奴を殺すにしても必要に迫られない限りは止める気も無い」
己を殺そうとする敵を殺すな。
必要に迫られぬ限り、そんな事は言わない。
そう淡々と告げた涼介の事が、綾華は益々解らなくなってしまった。
「それなのにクラスの連中を皆殺しにしたくないって言う……矛盾してない?」
「人間、矛盾した事つうかダブスタを平気な顔して宣う生き物だぞ。気にするだけバカを見る」
清掃したばかりのバレル内の点検をする涼介の身も蓋も無い答えに綾華は呆れてしまう。
「ソレは認めるけど、身も蓋も無いわね」
「正直者と言ってくれ。で、俺は俺の決めたルールに従って戦い、生きる事にした」
「流石に日本ではしないけどな」そう締め括れば、涼介は話しながら手を動かしてクリーニングし終えたばかりのFN-FALを組み立てていく。
程無くしてFN-FAL組み立て終えた涼介に綾華は涼介の言うルールを尋ねた。
「アンタのルールって何よ?」
「越えちゃならん一線を越えた奴や、俺達を殺そうとして来る奴には一切容赦しない……実にシンプルだろ?」
涼介のルールは実に単純なモノであった。
だからこそ、綾華は気に入った。
「解りやすくて良いわね」
「物事はシンプルな方が良いからな……だが、殺しに関しては例外を設けてる」
補足する様に例外がある事を涼介が言えば、綾華は言う。
「身を護る為の殺し。コレに関しては例外扱いするって所かしら?」
綾華の答えを涼介はアッサリ肯定した。
「そうだ。生命の価値が低い上に倫理観や道徳が期待出来ない様な無法が罷り通る世界じゃ、生き残る為の殺しは避けて通れない……」
涼介の答えに綾華は尋ねる。
「ソレは貴方の経験則かしら?初めての異世界での?」
「そうだ。だから、自衛の為に殺しをしてるだけの奴に関しては敵に含めたくないし、殺したくもない」
独善的にも、偽善的とも思えるだろう。
だが、己が殺される時に生き延びようと必死に抗う者を責める権利は誰にも無い。筈だ。
それ故に涼介は自身の経験則も交えた上で自衛の為に手を汚した者達に限り、殺さない事を選んだ。
「と、言う訳でそう言う連中には手を出すのは無しだ」
涼介が改めて告げれば、綾華はソレを受け入れた。
「ソレが指揮官の意志であるなら反対はしないわ。でも、ソイツ等が武器を向けて来た場合は敵として殺害する例外は認めなさい」
受け入れた上で例外を認めろ。
そう告げれば、涼介は条件付きで承認した。
「その前に投降勧告は絶対にしろ。殺さずに済むんなら、それに越した事は無い」
涼介が条件付きで承認すれば、綾華はその条件を呑んだ。
「良いわよ。可能な限りしてあげる」
綾華が自分の条件を呑んでくれた事に涼介は内心ホッとすると、今後の事に関して語り始めた。
「さて、俺達の標的候補達が居るオルドヴァの王城に関してだが……俺の見立てが正しいなら、当面……短くても一ヶ月ぐらいか?兎に角、暫くの間は国外に対して動きを見せる事は無い筈だ」
オルドヴァと言う国を簒奪したクラスメイト達が国外へ進出する事が暫くは無い。
涼介がそう語ると、綾華はその理由を指摘する。
「オルドヴァ国内の権力地盤作りに奔走する為かしら?」
「そうだ。王家の連中を制圧しました。国を獲りました。ゲームなら其処でステージクリアだろうが、生憎と現実はそうじゃない」
綾華の挙げた理由を肯定した涼介は更に言葉を続ける。
「王家の血が王城に全てある訳じゃない。王家の血を引く貴族は大なり小なり存在する以上、クラスメイトに反発して王家の血を引く誰かしらを神輿として担ぎ上げて反乱を起こす可能性だって有るのが現状だ」
可能性を交えた上でクラスメイトによる国盗りは未だ終わりを迎えてない事を涼介が語ると、綾華は涼介の挙げてない可能性を指摘する。
「王達を殺さずに傀儡化させてたとしたら?」
綾華の指摘は涼介の想定内であった。
それ故に涼介はその際の可能性をスラスラ答えていく。
「その場合は内乱は起きない。起きる可能性は否めないが、起きたとしても王が存命である以上は反乱は直ぐに鎮圧されるだろうな……何せ、王という国家元首が生きてるんだから」
「つまり、反乱を起こしたら王という権力に付き従う諸侯達によって袋叩きにされると……」
「そう言う事。さて、話を戻すぞ……王の存命の是非に関わらず、風真を始めとしたクラスメイトが地盤固めに奔走する事に変わりはない。ソレが完了する迄に俺達は標的を見付け出す必要がある」
風真を始めとしたクラスメイト達が権力地盤を固めに奔走している間の時間を利用し、標的を見付け出す必要がある。
涼介がそう告げれば、綾華は尋ねる。
「具体的にはどうやってよ?」
綾華に尋ねられた涼介は困った様子で答える。
「其処が問題なんだ……ジェーンとジェーンの友人と思わしき女神は標的に関する情報を出して来ない。否、本当に手掛かりすら持ってないってのが正しいと見るべきだな」
「何でそう言い切れるのよ?」
「単純な話だ。ジェーンを介して俺達に標的殺害を依頼した本来の依頼人であるジェーンの友人にすれば、標的は頭痛と胃痛の種でしかない。そんな奴をさっさと取り除いて貰いたいからこそ、女神は友人であろうジェーンを頼った。それなのに、頭痛と胃痛の元凶を具体的に誰なのか?教えないってのはソレこそ矛盾してる」
ジェーンとジェーンの友人が本当に標的の正体が解ってない事の根拠を涼介が理路整然に語れば、綾華は納得する。
「それもそうね」
殺し屋をしている綾華にすれば、解りやすい話であった。
だからこそ直ぐに納得した。
「で、俺達は残された僅かな猶予で何の手掛かりも無い標的を見付け出し、始末しないといけない」
改めて涼介が告げれば、綾華は首を傾げる。
「どう言う事よ?」
「標的が目眩ましの捨て駒として風真を始めとしたクラスメイトを利用する前に始末出来なかったら、目眩ましの捨て駒として利用される連中がバカをヤラかすのは明らかだ。俺としては、皆がバカをヤラかして一線を越えてしまう前に終わらせたい」
クラスメイトを3人死なせたとは言え、涼介はコレ以上の死人は出したくなかった。
だからこそ、短い猶予の間に標的を捜し出して殺害したい。
そう告げれば、綾華はソレを受け入れた。
「私は構わないわよ。アンタの正義の味方ごっこに付き合っても」
皮肉交じりに認めてくれた綾華に涼介は感謝の言葉を述べた。
「ありがとう」
「礼なら要らない。早く終われば、貴方との再戦が直ぐに出来て都合が良いだけの事よ」
そう。
綾華にすれば、この仕事が速く終わる方が都合が良かった。
仕事が終われば、自分に訪れた報いと救いを台無しにした涼介にその報いを受けさせる機会が訪れるのだから……
そんな綾華の都合に涼介はハッキリと告げる。
「安心しろ。約束は守るし、その時は俺の手でキッチリと地獄へ送ってやる」
涼介に告げられた綾華が満面の笑みを浮かべると、アレクシスとアリアがやって来た。
2人は椅子に座ると、アリアが口を開いた。
「ついさっき、彼女から聞いて知ったのだが……夜が明けた後に向かう山中に盗賊達が居るそうだ」
アリアがそう言うと、引き継ぐ様にアレクシスが続きを語っていく。
「ソイツ等はオルドヴァとロムルリスの両方で荒稼ぎしてる連中で、規模もそれなりにあるのよ……」
其処まで聞けば、涼介には充分であった。
「つまり、俺達にソイツ等を始末しろ……そう言いたいのか?」
涼介の言葉を肯定する様にアリアは言う。
「殺す利点はある。ソイツ等は賞金を掛けられていて、首を持ち帰ればカネになるし、冒険者として登録する際の後押しにもなる」
アリアが利点を明示して盗賊達を殺害する様に促せば、涼介は綾華に尋ねる。
「俺は殺るが、お前は?」
「法皇は森でクソするかしら?」
綾華の答えに涼介は呆れてしまう。
「何処のCJだよ……」
涼介は呆れながらも綾香も参加する事を理解すれば、アレクシスに尋ねる。
「盗賊の具体的な居場所は解るか?」
「連中は山中の深くにある遺跡を根城にしてる。場所の案内も出来るわよ」
アレクシスが盗賊達のアジトを具体的に知っている事を聞けば、涼介はアッサリと決めた。
「なら、決まりだ。早速で悪いが、今から狩りに行くぞ……良いな?」
涼介がさも当然の様に言えば、アリアは驚いてしまう。
「今から行くのか!?夜も遅いのに!?」
「だからこそだよ。今なら寝込みを襲える」
「夜の闇に包まれ……」
そう言い掛けたアリアは思い出した。
涼介と綾華が夜の闇をモノともしない道具を持っていた事を……
「そう言えば、君達には闇を見通せる装備があったな」
アリアの言葉にアレクシスが首を傾げる。
「何それ?」
「彼等は魔力を使わずに闇の中を見通せる装備を持っているんです」
「そんなのがあるの?凄いわね」
アリアの答えに興味深そうにすると、涼介と綾華はアレクシスとアリアを他所に支度を進めていく。
「寝込みを襲うが、万が一の際はプランBだ」
涼介がそう言うと、綾華は確認する。
「具体的には?」
「ライフルグレを何発かブチ込んで盗賊達を混乱させる。んで、混乱させた後に弾をしこたまブチ込むから、その間に態勢を整えろ」
困った状態になった時は、火力で一気に押し切る。
涼介がそう言えば、綾華は告げる。
「なら、貴方は援護で私のバックアップして。私が連中を永遠に眠らせてやるわ」
「OK。なら、接近する感の見張りは俺が始末する」
簡単ながらも2人が当たり前の様に盗賊達を殺すアッサリと算段を決めれば、アレクシスは同行したいと言う。
「私も同行して良いかしら?異なる世界の戦士の戦い方を見てみたいから……」
アレクシスが理由を交えて同行の許可を求めれば、アリアも同行する事に決めた。
「私も行こう。私達も行けば、そのままロムルリスに入国も出来るだろう?」
同行を求める2人を涼介は認めた。
「なら、行こう」
そう言う事になった。
依頼人達は片や邪神。片やこの世界の主…
そんな依頼人達から正体を隠し続けられる時点でヤバさ天元突破してる
そんなクソヤバい相手に関して解ってるのは、狡賢いクソ野郎だって事のみ…だからこそ、腰が引けてる程に慎重にもならざるを得ないのが涼介の本音でもある
因みにだけど、良心やら道徳やら全て投げ棄てて皆殺しを強行すればリスクは高いけど、作中でも言う様に直ぐに終わる
それこそ、深夜に城内へ潜入した後に核爆弾仕掛けるなり、サリンやマスタードと言った毒ガスを散布して廻れば能力やらチートやら使われる前に虐殺は完了だ
しかし、涼介は自分に未だ残る良心やら人の心からソレを選ばなかった。と、言うよりは非情になりきれなかったとも言えるかな?
要するに正義の味方コースが一番苦労するって事である