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魔女


 その日の夜。

 鮮やかなエメラルドグリーンの長い髪を持ったネグリジェ姿の女はベッド脇で椅子に座り、蝋燭の仄かな明かりに照らされながら何時もの様に寝る前の習慣として本を読んでいた。

 読んでる本は何度も読んだ読み古した小説であった。

 だが、彼女は未だに飽きる事無く物語を読み耽り、自分の淹れた特製のハーブティーを啜っていく。

 彼女は寝る前に本を読み、ハーブティーを飲む。

 そんな他愛の無い時間が一番好きであった。

 だからこそ、己のテリトリーである森に喧しい音を立てながら入って来た邪悪な気配を纏わせる余所者に邪魔される事に対し、実に不愉快極まりない気持ちになってしまう。


 「何処のバカかしら?でも、邪悪な気配に混じって()()()()()()()()()()のが気掛かりね……」


 邪悪な気配をさせる余所者に混じって同性で歳下の友の気配を感じ取った彼女は独り言ちると、森の中に住まう梟を介してやって来た者達を視ていく。


 「何アレ?モンスターじゃ無さそうだけど……」


 森の中に入って来たモノは初めて見る解らないモノであった。

 そんなモノの正面に見える友の顔と生物とは思えぬ双眸を持つ男らしき顔を持つ男女の姿を確認すると、()()()()()()()()()()()()()彼女は益々首を傾げてしまう。


 「乗り物なのかしら?で、中に居るのは明らかにアリアよね?」


 自分の最も好きな時間を台無しにした事に腹は立った。

 だが、ソレよりも自分の知らぬモノを伴ってやって来た友から聞けるだろう話に対して好奇心が勝ってしまった。

 それ故に静寂の字名を持つ魔女は、友を連れてやって来た招かざる客を自分の住まいに通す事を選んだ。





 「本当にこの森で良いのか?」


 運転席でゆっくりと慎重にハンヴィーを徐行で進めて行く涼介が問えば、アリアは肯定する。


 「えぇ、そのまま進んで」


 彼女が肯定すると、早速と言わんばかりにハンヴィーのボンネット上に1匹の梟が止まった。

 その梟は車内に居る涼介とアリア。それに警戒心を露わに銃座に立つ綾華を一頻り見詰めると、語り掛けて来た。


 「今晩は。アリア……」


 梟から女の声で語り掛けられれば、呼び掛けられたアリアは涼介に告げる。


 「停めて!」


 彼女の声と共に涼介がゆっくりとブレーキを踏み込んで停止させると、アリアはシートベルトを外した。

 それから直ぐにドアを開けてハンヴィーから下車したアリアは歩みを進めてフロント脇に立つと、梟を確りと見据えた上で丁寧な口調で語り掛ける。


 「お久しぶりです」


 「アリア。この人達と其処の五月蝿い金属のデカブツは何か?教えてくれるかしら?」


 アリアから挨拶された梟から問われると、アリアは正直に答える。


 「中に居るのはオルドヴァの王城で起きた件の関係者で、貴女の安らぎを台無しにしてるのは関係者の世界では移動手段となるジドウシャなるものです」


 アリアが正直に嘘偽り無く答えれば、梟はちゃんとした客として迎える事を告げた。


 「そう。私の大事な安らぎの時を台無しにした事は不問にしてあげるから、梟の後を追って来なさい」


 アポの無い訪問に対して許しが得られた事にホッとしたアリアは再びハンヴィーに乗り込むと、飛び立った梟を指差して涼介に告げる。


 「あの梟を追って」


 アリアから告げられた指示に涼介は「了解」と、返してからサイドブレーキを解除してゆっくりと徐行でハンヴィーを進め始めた。

 梟の後を追って森の奥へとハンヴィーをゆっくり進めて行く涼介はアリアに尋ねる。


 「君の友人と言うのは何者なんだ?」


 「一言で言うなら、魔女だ。彼女は私や君達の百倍は生きている」


 畏れと共に答えたアリアに涼介と綾華は「流石はファンタジー」そう嘯くと、自分達が異世界に居る事を改めて認識した。

 梟に誘われる内に1件の小さな家屋とランタンを手にする魔女であろう女の姿を暗視ゴーグル越しに確認すると、涼介はステアリングとアクセルを駆使して森から出られる様に慎重に向きを変えてからハンヴィーを停めた。

 そして、ギアをパーキングに入れてサイドブレーキを掛けてエンジンも沈黙させれば、シートベルトを外してアリアと共に下車する。

 そんな2人を他所に降りる事無く銃座でM4A1を手に綾華が魔女なる人物を警戒する中、涼介は暗視ゴーグルを外して素顔を露わにしてから挨拶を兼ねた自己紹介をした。


 「今晩は、初めまして。私の事はロンとお呼び下さい」


 自己紹介を兼ねた挨拶と共に親愛と相手への信頼を込めて右手をスッと差し出せば、魔女はその手を握って握手に応じてくれた。


 「初めまして。私に恐れる事無く手を差し伸べる男は久し振りに見たわ」


 握手した涼介にそう返した魔女は涼介を興味深そうに見ながら、自己紹介して来た。


 「私はアレクシス。アリアから聞いてると思うけど、魔女よ」


 魔女は己の名を明かして涼介の手を離すと、3人に向けて告げる。


 「立ち話も何だから中で話しましょう。丁度、良い茶葉が入った所よ。其処のお嬢さんも、武器から手を離しなさい。私達は未だ敵同士じゃないわ」


 にこやかに告げたアレクシスに誘われれば、3人は魔女の住まいへと歩みを進める。

 住まいの中は綺麗に整理整頓されており、実に清潔感に満ちていた。

 そんな室内の中心にあるテーブルに据えられた3つの椅子へアレクシスは座る様に促す。


 「其処に掛けて。今、御茶を淹れるわ」


 アレクシスはそう告げると、テーブルに置かれたガラス製のティーポットを手に取って3人の前に置かれたティーカップに優雅な手付きで注いでいく。

 程無くして3人と自分の分のハーブティーを淹れれば、アレクシスから口を開いた。


 「さて、色々と聴きたい事があるんだけど……先ずはアリア、貴女のお願いは何かしら?」


 「オルドヴァで勇者召喚が成され、その召喚した勇者達によってオルドヴァが簒奪されました。私はソレを祖国に伝える任を帯び、祖国へ急いで帰らなければなりません」


 アリアが自分の事情をオルドヴァで起きた事を含めて正直に答えれば、アレクシスはアリアの頼みを察してくれた。


 「つまり、私にロムルリスへの密入国を手伝って欲しい。そんな所かしら?」


 「願わくば、今宵の宿を貸して戴ける事も……」


 畏まった様子で恐る恐る願えば、アレクシスはアリアの頼みを受け入れる。


 「良いわよ。でも、流石に人数が多いから2人は床で寝てもらうわ」


 今晩泊めてくれる事にアリアと涼介は感謝する。


 「「ありがとうございます」」


 アリアと涼介が感謝の言葉を述べれば、アレクシスは確りと対価を要求して来た。


 「さて、私は貴女達に手を差し伸べる対価だけど……貴方達の話を聞かせて貰えるかしら?」


 涼介と綾華の2人を見ながら対価を告げれば、涼介が指揮官として尋ねる。


 「話と言うのは?」


 「そうね……貴方達の故郷とも言える世界がどんな所なのか?とか、貴方達は故郷で何をしていたのか?かしら?」


 聴きたい話の具体的な内容を聞けば、涼介は対価を支払う事を選んだ。


 「私の故郷はこの世界と違い、魔法がありません」


 涼介の言葉にアレクシスはとても興味深そうに耳を傾ける。


 「魔法が無い。ソレだけでも興味深いわ」


 「魔法が無い代わりに科学技術が発達しています」


 「カガク?ソレはどう言うモノかしら?」


 アレクシスに科学とは何ぞや?

 そう問われれば、涼介は胸ポケットから煙草に火を点すのに使ったトレンチライターを取り出し、ソレを見せながら尋ねた。


 「この道具に魔力は感じますか?」


 「一切感じないわね」


 アレクシスにトレンチライターから魔力が一切感じない事を確認すれば、蓋であるくり抜かれた弾頭をカキンと鳴らして開け、小さなホイールを親指で擦った。

 そうして、シュッと言う音と共にホイールと小さなフリント(火打石)が擦れて小さな火花が直ぐ其処にある芯である太い紐に引火し、火が点れば、涼介は語っていく。


 「コレが科学技術です。胴体の中には燃える液体で濡らした綿が詰まっており、液体の染み込んだ綿の中に入った芯となる紐が綿に染み込んだ液体を吸い上げる現象を利用して燃える……コレが科学を用いた技術です」


 「火打石をその小さな車輪で擦って出た火花で火を点し、ランタンと同じ原理で燃料を供給していると……成る程。便利ね」


 オイルライターの原理を噛み砕いて理解し、その利便性を認めたアレクシスは更に尋ねる。


 「カガクと言うのは他にもあるのかしら?」


 その問いに涼介は正直に答える。


 「申し訳ありませんが、私は専門家では無いので詳しくは語れません。しかし、全ての物事や現象に対し、理論を立て、実験を繰り返して証明し続けたモノが科学と言うのは断言出来ます」


 「流石に魔法は私の世界には存在しない架空の扱いなのでソレを理論付けして証明するのは無理ですがね」そう答えを締め括れば、アレクシスは好ましいと言った様子で返した。


 「貴方は正直なのね」


 「単なる面倒臭がり屋なだけですよ」


 紳士的に返した涼介にアレクシスは次の質問をぶつける。


 「貴方達の世界がカガクと言うモノで成り立ってるのは理解したわ。で、貴方達の故郷はどんな感じなのかしら?」


 その問いに涼介は答える。


 「この世界では解りませんが、貧富の差は当然存在します。勿論、罪を犯す者も当然ながら存在し、幾つもの問題を常に抱えております。しかしながら、義務教育と言うモノが私達の故郷には存在し、最低限の事を貧富の差に関わらず学ぶ事が出来ます」


 故郷である日本の事を語れば、アレクシスは益々興味深そうに言う。


 「貴方の故郷は良い所なのね」


 「その代わり、夏は病人(熱中症患者等)や死人が出る程に熱く、冬はとても寒く、人死や建物が壊れるほどの大きな地震が何の前触れも無く何度も起きますがね」


 茶々を入れる様に日本の四季と地震の多さをボロクソに言う形で補足すれば、アレクシスは呆れてしまう。


 「貴方の故郷は魔境なのかしら?」


 「魔境ですが、他の国と比べたら治安等はとてもマシな部類ですよ。それに美味くてお腹を壊さない食事が簡単に取れますから……」


 嘘は言ってない。

 実際、海外と比べたら治安等はとてもマシな部類だ。

 殺し屋が水面下で仕事をしてたりするが、ソレは言わぬが花と言うモノ。

 そんな涼介の言葉に対し、アレクシスは尋ねる。


 「魔境ながらも平和で住み良い故郷なら、人を殺して生き延びる必要が無い。そう思うのは私の勘違いかしら?」


 ソレは涼介と綾華が人殺しである事を見破っている事を意味していた。

 自分達が人殺しである事を見破ったアレクシスに涼介は正直に答える。


 「えぇ、私と彼女……サーサウ(綾華)は貴女のお察しの通り、人殺しです。現に私は此処に来る前に人を1人殺し、彼女は2人が死ぬ様に差し向けました」


 涼介がアッケラカンに自分達は3人殺した事を答えれば、アレクシスは平然としながらも何処か軽蔑した様子で尋ねる。


 「普通、罪を犯した者は自己嫌悪に陥るものだけど、ソレが無いと言う事は貴方達は人殺しが当たり前な裏の住人と言う奴かしら?」


 その問いにも涼介は正直に答えた。


 「彼女はそうですが、私は違います」


 本当に嘘は言ってない。

 綾華は殺し屋だが、涼介は違う。

 綾華に弾をブチ込む以前とブチ込んだ以降はカタギの高校生として、慎ましく法を守って生きて来た。

 信じられないだろうが、ソレは変えようのない事実である。

 そんな涼介の答えにアレクシスは納得したのだろう。


 「その様だけど、貴方の方が彼女よりも殺して来た数が多そうね。彼女も尋常じゃない数、殺してるみたいだけど……」


 納得した上で涼介が綾華よりも殺してる事を言えば、涼介はさも当然の様に返す。


 「数えた事は無いので、肯定も否定も出来ません」


 一応、嘘は言ってない……つもりだ。

 涼介にすれば、綾華が殺して来た人数なんて知らないのだ。

 知らない以上。

 多いか?

 少ないか?

 答えようが無いのは当然であろう。

 そんな涼介の答えに嘘偽りが無い事にアレクシスは益々呆れてしまう。


 「貴方が何を考えてるのか?解らないわ」


 「よく言われますが、私は可能な限り正直でありたいだけです。さて、他に聴きたい事はありますか?」


 他に質問が無いか?

 アレクシスに問えば、答える。


 「今はコレで良いわ。また、何時か機会に恵まれたら他にも聞かせて貰えると嬉しいわ」


 ソレはアレクシスが涼介の答えを対価として認めた事を意味していた。

 対価を認めてくれた事に対し、涼介は感謝を込めて返す。


 「確約は出来ませんが、機会がありましたら喜んで」


 「そう言って貰えると嬉しいわ」


 こうして会話を終えれば、涼介と綾華はハンヴィーに残したバックパックと、コットと呼ばれる折畳式のベッドをアレクシスの邸宅内へ運び込んでいく。

 程無くして運び終えた2人はコットを組み立てると、その上にバックパックから取り出したポンチョを敷いた。

 そうして寝る準備を済ませると、涼介は綾華にゆっくりと休む様に告げてから装具を纏ったままFN-FALを手に外に出た。

 夜の森を眺める涼介はFN-FALをスリングベルトで首から提げると、胸ポケットからラッキーストライクの紙箱とトレンチライターを取り出して煙草を抜き取って咥え、トレンチライターで火を点す。


 「すぅぅ……ふぅぅ……」


 大きな紫煙の塊を吐き出すと、装具をSIG P226が挿し込まれた右腿のホルスターを除いて除装して身軽になった綾華が隣にやって来た。


 「あの魔女さん、良い人そうね」


 「すぅぅ……ふぅぅ……実際、良い人なんだと思うぞ」


 紫煙と共に涼介がそう返すと、件の魔女。もとい、アレクシスが2人の元へやって来た。


 「ソレは煙草かしら?」


 涼介の吸う紙巻き煙草も永い時を生きて来たアレクシスには初めて見る物であった。

 そんなアレクシスに涼介は胸ポケットから再びラッキーストライクの紙箱を取り出すと、スッと静かに差し出す。

 差し出されたアレクシスは涼介の意図を理解して「ありがとう」そう感謝すると、煙草を1本抜き取って前後を見て吸い口が茶色と白のマーブル模様のある方だと察して咥えた。

 咥えたと共に何の前触れも無く煙草の先に火が点れば、涼介は心の中で「流石はファンタジー」と感心してしまう。

 そんな関心を他所に煙草を燻らせるアレクシスは驚きと共に言う。


 「すぅぅ……ふぅぅ……何コレ?葉の品質良いじゃない。下手な高級な奴より美味いわよ」


 「私の世界ではありふれた銘柄の1つですよ」


 実際、ラッキーストライクは世界的に見ればありふれた銘柄の1つだろう。

 嘘は言ってない。

 そんな涼介の言葉にアレクシスは改めて感心してしまう。


 「貴方達の世界って凄く恵まれてるのね」


 「その代わり、貧富の差も激しいですけどね」


 「すぅぅ……ふぅぅ……貧富の差を縮める努力は出来ても、ソレが実を結ぶか?はどの世界でも共通の悩ましい問題ね」


 アレクシスはそう言うと、2人に尋ねる。


 「アリアから聞いたけど、貴方達は貴方達を含めた勇者達を召喚したオルドヴァの王家から叩き出されたそうだけど、何をしたのかしら?」


 その問いに涼介は正直に答える。


 「何もしてませんよ」


 「嘘よ。貴方達、下手な冒険者や戦士達なんて比べ物にならない場数を踏んでるじゃない。そんな歴戦の猛者を叩き出すなんて普通じゃ考えられないわよ?」


 魔女としての慧眼から2人が歴戦の猛者である事を指摘すれば、綾華が代わりに答えた。


 「私とコイツは他の連中と違って、魔法が使えない上に凄い能力が無いから役立たずは好きにしろ……って、王城を追い出されたのよ」


 綾華の答えにアレクシスは怪訝な表情を浮かべてしまう。


 「すぅぅ……ふぅぅ……ソレは変ね。貴方達から魔力をキチンと感じるし、魔法も使える筈よ?」


 紫煙と共に2人に魔力がある事を魔女と言う魔導の専門家として告げれば、涼介と綾華は困惑と共に互いに顔を見合わせてしまう。


 「俺達に魔力が有るって言うけど、どうするよ?」


 涼介が問えば、綾華はハッキリと拒否した。


 「私は魔法使えなくったって良いわよ。今まで無いモノに頼る事無く、私は私の力で生きてきた。だから、今後もそうする事に変わりはないし、その方が動き易いから」


 己の持つ技術に対する絶対の自信と矜持から魔法を要らないと断じれば、涼介はソレを窘める様に言う。


 「そうも言ってられないかもしれんぞ?」


 「どう言う事よ?」


 綾華が首を傾げれば、涼介は根拠を述べていく。


 「俺達の標的は勇者召喚に大きく関与してる。ソレは解ってるよな?」


 「えぇ、そうね」


 「と、言う事はだ……標的は何かスゲェ()()()使()()()()()()()()()()()()って事でもある訳だ。違うか?」


 ジェーンから告げられた標的である今回の首謀者に関して、首謀者が非常に強力な魔法の力を有してる可能性を涼介が指摘すれば、綾華は「確かに」と、返して納得する。

 そんな綾華を畳み掛ける様に涼介は更に言う。


 「此処は魔法ありきの世界。だったら、"郷に行っては郷に従え"って言葉に則って、この世界で当たり前となっている魔法を覚えてみるのも悪くないと思うぜ?」


 提案と言う形で涼介が言えば、綾華は考える。

 すると、アレクシスが尋ねた。


 「貴方達の事情を教えて貰えるかしら?」


 アレクシスが尋ねれば、どうするべきか?真面目に考える綾華を他所に涼介が紫煙と共に答えた。


 「俺達の勇者召喚はオルドヴァ王家の意志によるもの。そう思われるでしょうが、実際は異なっており、召喚の首謀者が私達、召喚された勇者達の中に居るらしいんですよ……で、私と彼女はその首謀者を殺す事を対価と引き換えに請け負った」


 自分達の知る情報を交えた上で事情を語れば、アレクシスは真面目な表情で思案し始めた。

 真面目な表情の良い女2人を尻目に涼介は静かに煙草を燻らせていく。


 「すぅぅ……ふぅぅ……」


 紫煙を吐き出しながら涼介も思案し始めた。


 実際の所、ジェーンの言う標的は一体何者なのか?

 それ以前に本当に人間なのか?

 標的に協力者や部下は何人居るのか?

 コレ等も引っくるめて何も解ってないのが、正直な現状。

 解ってるのは、異世界と地球間をリンクさせて召喚魔法を行える何か凄い技術を持つ存在である事と、たちの悪い狡猾さを持ち合わせた頭の廻る奴って事だけど……

 コレでどうやって成功させりゃ、良いんだ?

 割と真面目に詰んでるよな、コレ……


 依頼に応じた涼介であったが、未だ何も知らぬ標的を強く警戒すると同時。

 殺し合って勝てるのか?ソレも含めた大きな不安があった。

 相手は異世界と地球間で召喚魔法を実行してのけた謎の存在なのだ。警戒し、不安視せざる得なくて当然だろう。

 だからこそ、涼介は引っ掛かっても居た。


 ジェーンとジェーンの友人とやらは、何で俺達にそんなヤベェ標的の殺害を依頼して来た?

 重要視するレベルで警戒してるんなら、自分達の手で始末する方が確実な筈だ。

 俺達に殺させる理由は何だ?

 殺せるけど、殺せない理由や事情があるとするならソレは一体何だ?


 依頼人であるジェーンとジェーンが何故、容疑者リストに含まれる者でもある自分達を利用する事を選んだのか?

 選んだとして、その理由は何か?

 それ以前に自分達の手で片付けない理由が何か?

 依頼人とも言えるジェーン達に対しても、涼介は疑問が尽きなかった。

 だからこそ、疑問ばかりの五里霧中に陥った涼介はアリアをこれ幸いと言わんばかりに王城へ前進するのを辞め、ロムルリスに転身する事を選んだのであった。

 誰もがコレを御都合主義と思うだろう。

 だが、大概の事は人々の思惑と都合が絡み合って良くも悪くも流れ行き、なる様にしかならないのも事実。

 そんな御都合主義に抗う力が無いのならば、流れに任せるのも1つの手だ。


 話を戻そう(閑話休題)


 今の五里霧中な状況に対し、涼介は煙草を燻らせながらボヤいてしまう。


 「すぅぅ……ふぅぅ……マジでどうしろってんだよ……」


 「どうしたの?」


 思案を終えた綾華から問われると、涼介はポーカーフェイスを保ちながら紫煙と共にボヤく様に答える。


 「ふぅぅ……色々と面倒が山積みだなぁ……って呆れ果てたんだよ」


 支援があるとは言え、指揮官として様々な要素を考慮して計算して依頼を完遂する為に全力を尽くさなければならない涼介がそう返せば、綾華は暢気に言う。


 「アンタなら出来るわよ」


 綾華が本心から言えば、涼介は感謝する。


 「ありがとよ」


 「で?指揮官としてのアンタから見て、私達が成功出来る確率はどんくらい?」


 感謝した涼介に指揮官として診た依頼の成功率を綾華が問えば、涼介は正直に答えた。


 「ゼロとは言わない。だが、限り無く低い」


 「なら良かったわ」


 己の本心とも言える言葉を聞いた綾華が平然と返せば、涼介は呆れ混じりに尋ねてしまう。


 「お前は何でそんなに暢気なんだよ?」


 その問いに綾華は真剣な表情と共に正直に答えた。


 「アンタが何を悲観してるのか?私には解らないわ。だけど、最悪な状況に悲観し続けて最悪な状況が好転する訳じゃない。するんだったら、何度でも悲観してやるわよ。でも、そうじゃない……だったら、愉しんで挑む方が精神衛生的にも良いじゃない」


 綾華の生きる意志に満ちた言葉に涼介は笑ってしまう。


 「ハハハ……」


 短く笑った涼介はフィルター近くまで燃えて更に短くなった煙草を吸うと、紫煙と共に返した。


 「ふぅぅ……ソレもそうだな」


 涼介が何処か吹っ切れたかの如くスッキリした様子になると、今まで思案をしていたアレクシスが尋ねて来た。


 「ねぇ……コレは確認なんだけど、貴方達の標的とやらが勇者召喚の首謀者なのよね?」


 「そうですが、ソレが?」


 「つまり、女神の意志に反した召喚である訳ね?」


 アレクシスが確認する様に尋ねれば、涼介は肯定する。


 「そうなりますね」


 涼介の肯定にアレクシスは意を決した、覚悟を決めた表情と共に涼介へ告げた。


 「本当なら関わりたくないんだけど、私も貴方達の依頼とやらに付き合っても良いかしら?」


 突然の同行許可の求めに涼介が困惑すると、綾華が代わりにアレクシスに問うた。


 「私達の依頼に貴女が手を貸す理由を聞いても?」


 「私の都合と趣味の為……コレじゃ駄目かしら?」


 アレクシスが具体的な理由を挙げずに答えれば、綾華は言う。


 「私は構いませんよ。アンタは?」


 綾華から問われた涼介は思案する。


 彼女の言う女神……恐らくはジェーンの友人の事だろうが、その女神の意思に反した召喚と知った瞬間に同行を志願して来た。

 そこら辺に理由が有りそうだな……


 そう判断した涼介はアレクシスに尋ねる。


 「女神と貴女の関係は?」


 「大した関係じゃないわ」


 素っ気無く答えたアレクシスに涼介がソレ以上の事は聞かなかった。


 女神とやらと、彼女(アレクシス)()()なのか?

 女神に敵対してるんだったら、彼女の邪魔をする為に俺達を殺すのを選ぶんだろうが……


 聞かずに仮説を立てると、アレクシスは言う。


 「私と女神は敵対関係じゃないし、私自身としても女神を殺す理由が無いわ」


 心を読んだかの様に言うアレクシスに涼介は「流石は魔女って言うべきか?」そう嘯くと、涼介は指揮官としてメリットがある。

 そう判断し、受け入れた。


 「良いでしょう。同行を許可します」


 アレクシスの同行を許した涼介にアレクシスは感謝した。


 「ありがとう。私は役に立つわよ」


 笑顔と共に返したアレクシスに綾華は右手を差し伸べ、握手を求めた。


 「改めまして、私はサーサウよ」


 遅くなった自己紹介を仮とは言え仲間となったアレクシスにすれば、アレクシスは綾華の手を握り返してにこやかに言う。


 「よろしく。何時か、貴女の本当の名前も聞かせてくれると嬉しいわ」


 アッサリとサーサウの名を偽名である事を見破るアレクシスに対し、綾華は微笑んで返した。


 「依頼が完了したら教えますよ。ほら、住む世界が物理的に違いますし?」


 身も蓋も無い答えにアレクシスは本心から言う。


 「その時が来る事を切に願うわ」


 こうして、魔女がアッサリと仲間になったのであった。




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