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3/10

得意技は不意討ちです

まぁ、タイトル通りかな?


とりま、予定ってな色々ゴチャゴチャとしていきなり変更になったりするもんだ


 この地の夜は到る所に街灯がある日本とは違い、満天の星と月の仄かな明かりしか無い真の暗闇であった。

 街や村に住まう真っ当な者達は地味に高い光熱費を掛けない様にする為、夜はさっさと眠りに付いてしまう。

 そんな夜に外へ出歩くのは娼婦を買いに行く元気な者と気持ち良く愉しんで帰る者達。それから、闇に包まれた夜の街中を防犯の為に見廻る衛士(この世界の警察官)達ぐらいだろう。

 ソレ以外だとするなら、碌でもない悪巧みを企てるロクデナシのクズかオバケぐらいだ。

 要するに夜になれば、街の中であっても物騒と言う事である。

 ならば、街や村と言うコミュニティの外ではどうなのか?と、誰もが思うだろう。

 簡潔に言うならば、余程の事情が無い限りは人々は絶対に出歩かない。

 旅人も野営する時は命懸けだ。

 暗闇に覆い尽くされた人の手が入ってない地上は野生の動物やモンスターと言った人ならざる存在達が支配するのだから……

 だからこそ、涼介と綾華には()()()()()()()

 1メートル先すらも見えぬ深い闇に包まれた平原を2人は気にする事無く歩みを進めて行く。

 先頭を進むのはサプレッサーとATACRスコープを装備したFN-FALを携える涼介。

 その後ろへ5メートルほど離れた所から後を追う様に歩みを進めるのは当然ながら綾華であった。

 2人は暗闇の中を迷う事無く歩みを進め、オルドヴァ王都へと向かっていた。

 結論から言うならば、ジェーンによるターゲット特定は未だ続いており、今日中に潜入は無理と判断せざる得なかった。

 だが、だからといってその場で手をこまねく理由は見当たらない。

 それ故に作戦実行地域へ潜入する方が建設的と判断した涼介は綾華と共に来た道を戻り、オルドヴァ王都へ向かう事を選んだのであった。

 先頭を進む涼介は目に嵌めた暗視ゴーグルを介して昼間の様に見える視界を以て、前方と左右を注意深く警戒しながら歩み進めて行く。


 視界が完璧に確保出来る遮蔽物が無い見通しの良い所では500メートル先まで安全確認してから、半分進む。

 それを繰り返しながら進む。


 涼介は師から教わった事を思い出すと共にソレを忠実に護りながら夜の闇に包まれた平原を進んで行く。

 そんな涼介の背を見るのは当然、綾華だ。

 綾華も涼介と同様にこうした場所での移動方法を学んでいた。

 それ故に涼介の師が相当高いレベルの兵士であったのではないか?

 そう感じても居た。


 アイツの師匠ってどんな人なんだろ?

 この件が全部片付いたら聴いてみよ……


 暢気に終わった事を考える綾華を他所に先頭を進む涼介は警戒を怠らずに歩み続ける。

 そんな歩みを1時間ほど続けると、涼介は静かにゆっくりとしゃがんで右の拳を挙げた。

 ソレは停止を意味するハンドサインであった。

 涼介は声を出さずに停止を命じると、右の拳を開いてパーにしてゆっくりと下に動かしていく。

 ソレは伏せろを意味するハンドサインであった。

 涼介から伏せるように命じられると、綾華はゆっくりとしゃがんで地面に伏せた。

 それから静かに地面を這って進み、涼介へと近付いて行く。

 そうして涼介の隣まで来た綾華は小さな声で涼介に尋ねた。


 「どうしたの?」


 その問いに涼介は声を出す事無く沈黙と共にある方向を指差す。

 涼介が指し示した方向。約200メートル先で焚火に照らされる剣を手にした独りの女が、3人の"誰か"に囲まれて居る様子があった。

 ソレを見た綾華は涼介が停止を命じた事に納得すると、どうするのか?尋ねる。


 「どうするの?」


 綾華の問いに涼介は小さな声で答えた。


 「終わるまで待機だ」


 ソレは3人に襲われる女を見捨てる事を意味していた。

 そんな涼介の判断を綾華は責めなかった。

 寧ろ……


 「そりゃそうよね。私達、正義の味方じゃないし……」


 さも当然の様に思っていた。

 そんな綾華を他所に涼介は暗視ゴーグルを目から外すと、FN-FALを構えてATACRスコープを覗き始めた。

 最低倍率のままのスコープ越しに3人を見ると、涼介は驚きを露わにしてしまう。

 涼介の異変に気付いた綾華は尋ねる。


 「どうしたの?」


 「女を襲ってる奴等……()()()()()()だ」


 返って来た答えに綾華も驚いてしまう。


 「嘘でしょ?」


 「マジだ。見ろ」


 そう返した涼介の言葉を確かめる為に綾華は暗視ゴーグルを外すと、M4A1を構えてマグニファイアを覗き込んで確認する。

 4倍率のマグニファイアとホロサイト越しに見えたのは、焚火の灯りで照らされたのは見慣れた顔の男子3人の姿であった。

 そんな3人が下卑た顔で女を辱めんとしようとしてるのを目の当たりにした2人は、顔を見合わせてしまう。


 「どうする?」


 M4A1を構えたままの綾華が先に口を開いて判断を仰げば、涼介は決断する。


 「予定変更。あのバカ共から情報を取るぞ」


 ソレは女を助ける事を意味していた。

 急遽、女を助ける事を選んだ涼介に綾華は確認を取った。


 「殺すの?」


 「いや、殺さん。殺さんが、痛い目は見て貰う……お前は這って奴等の近くまで近付け。気付かれるなよ」


 涼介の指示に暗視ゴーグルを嵌めた綾華は「了解」と返しながらバックパックをその場に下ろすと、静かに地面を這って行く。

 先行する綾華を他所に涼介はFN-FALを静かにゆっくりと構えた。

 FN-FALを構えた涼介は静かにATACRスコープを両目で覗き込み、照準を合わせ始める。

 ゆっくりとATACRのレティクルを3人のクラスメイト達の1人の右膝に合わせていく。

 ゼロインは既に完了している。

 後は完全に狙いを定めて引金を引けば、相手の右膝を粉砕出来る。

 そんな状態にすれば、綾華がインカムを介して報告して来た。


 「配置に着いた」


 その報告を聞いた瞬間。

 涼介は静かに息を軽く吸って留めた。

 すると、今まで小刻みに揺れていたスコープのレティクルが嘘みたいに完全にピタリと止まり、中心に標的の右膝が収まった。

 それと同時にくぐもった銃声が響けば、涼介の右肩に7.62ミリNATOの強いキック(反動)が伝わり、約200メートル先で悲鳴が夜の闇を斬り裂いた。


 「ギャアアアァァァ!!?」


 約200メートル先から右膝を撃ち抜かれて地面に倒れた青年は激痛の余り泣き叫ぶ。

 そんな突然の状況に2人が撃たれた仲間を見て困惑したと同時。

 今度は2人の膝がくぐもった銃声と共に9ミリルガーで射抜かれ、またも悲鳴が挙がった。


 「「嗚呼ァァァぁ!!?」」


 それは一瞬の出来事であった。

 悲鳴を挙げて撃ち抜かれた膝を押さえる3人に困惑する女は剣を振り上げ、手近な1人を刺し殺そうとする。

 だが、それよりも早く綾華の制止の声が響いた。


 「辞めろ!!」


 その制止の声で女が動きを止めると、綾華は更に大声で告げる。


 「私は敵じゃない!!今から姿を見せる!!」


 そう告げた綾華はゆっくりと立ち上がると、硝煙臭うサプレッサーとSUREFIREのX400と呼ばれる大型のフラッシュライトが付いたSIG P226を然りげ無く女に向けながら歩みを進めて行く。

 そうして、剣を振り上げる女と相対した綾華はジェーンから支給されたP226の銃口を女の腹部に合わせながら言う。


 「私としては貴女がこのバカ共を殺すのに反対しないんだけどさ、殺す前にコイツ等から話を聞きたいのよ」


 そう告げると、クラスメイトの1人が身を起こして怒声を挙げた。


 「そ、その声は麻倉か!!?テメェなんのつもりだ!!」


 その怒声から女は綾華が襲って来た者達の仲間と判断したのだろう。

 警戒心を露わに剣の切っ先を向けて来た。

 そんな女に視線が行ってる綾華へ身を起こしていたもう1人の青年は右手を翳し、魔法を放とうとする。

 魔力光が仄かに掌に現れた瞬間。

 綾華に魔法を放とうとした青年の頭が弾け、辺りに頭の欠片が飛び散った。


 「「ヒィッ゙!?」」


 目の前で仲間が惨たらしく死んだ事に2人は情けない声を挙げてしまうと、綾華は2人に解るように語り掛ける。


 「アンタ等をおっかないスナイパーが狙ってるわよ。ソイツは今見た通り、容赦も躊躇いも無くアンタ等を殺す……言ってる事は解るわね?」


 綾華の言葉で2人の戦意は完全に砕け散り、その心も折れた。

 そんな2人を他所に綾華は今の状況に困惑する女へ改めて告げる。


 「改めて言うけど、私は貴女の敵じゃない。だから、此方の用が済むまで大人しくしてて貰えると助かるわ」


 丁寧に大人しくして下さい。

 そう頼めば、女は剣を下ろしてくれた。


 「解った。助けてくれた事に感謝する」


 「どういたしまして」


 丁寧に言葉を返した綾華は後ろを振り向くと、未だ息のある2人に向けて尋ねる。


 「さてと……御二人さん、こんな所で何してるのかしら?私に解るように教えて貰えると助かるわ」


 綾華が優しく尋ねれば、2人は聖歌隊の如くペラペラと喋っていく。

 要点を纏めるならば……


 涼介と綾華が追い出された後。

 オルドヴァの王家が自分達に隷属の首輪と言う奴隷にする首輪を嵌めようとして来た。

 それをクラスメイトの1人が鑑定スキルで見破り、自分達は反乱を起こしてオルドヴァ王国を簒奪に成功した。

 クラスメイト達の大半はオルドヴァ王国を自分達の国とする為に色々と動き、一部は元の世界へ帰る方法を捜す事を選んだ。

 自分達は付き合いきれないから好き勝手にする事にしたら、この女を殺して持っている文書を確保しろ。確保したらカネをやる。

 そう言われたから愉しむ事にした。


 そんな以上の要点を聞き出せば、綾華はインカムを介して涼介に報告する。


 「連中から聞き出せたのは以上よ」


 「鑑定スキルを使った奴の名前と書類に関して聞いてないぞ」


 涼介から抜けてる事を指摘されれば、綾華は早速それを知る為に2人へ尋ねた。


 「おっと、忘れる所だったわ……ねぇ、鑑定スキルで隷属の首輪を見破ったのは誰?」


 「お、俺達は知らねぇ!!けど、誰かが言ったのは本当だ!!嘘じゃねぇよッ゙!!」


 助かりたい。

 死にたくない。

 そんな強い感情と無様な泣き顔を見せて必死に答えるクラスメイトの男子に対し、綾華はニッコリと笑顔を見せると、次の書類に関して質問した。


 「アンタ達が回収を命じられたって言う書類の内容は?」


 「風真から何も聞かされてねぇ!!だけど、回収したら俺達にカネを払うって言ったんだ!!」


 書類の内容を知らされてない事を回収を命じたクラスメイトの名前と共に答えれば、綾華は大人しくしていながらも己を警戒をする彼女へ告げる。


 「用は済んだわ。後はお好きにどうぞ」


 綾華の言葉にクラスメイトは必死に叫んだ。


 「嘘だろ!?なぁ!?話したら助けてくれるんじゃないのかよ!!?」


 「俺が悪かったの認めるよ!!改心もする!!だから……グベ……カ、ハ……」


 助けてくれ。

 そう叫ぼうとした矢先。

 ソイツは女の剣で心臓を串刺しにされた。即死だ。

 女の怒りを傍から眺める綾華はインカムを介して涼介と話して居た。


 「殺さないんじゃなかったの?」


 当初は殺さないと言っていた張本人が平然と躊躇いなくヘッドショットを決めてクラスメイトを殺害した事を茶化すように綾華が問えば、涼介は吐き棄てる様に返した。


 「女を集団でレイプしようとする最低のクズは殺して良い。って、知らなかったのか?」


 「そんな法律、初めて聞いたわ」


 涼介の答えに綾華が呆れると、涼介はバツが悪そうに言う。


 「今回は流れから3人殺っちまったが、今後はこう言う事が無い様に心掛けたいもんだ」


 涼介の言葉に綾華は益々呆れてしまう。


 「躊躇い無くヘッドショット決めた男が言うと、説得力無いわよ」


 綾華の援護の為とは言え、躊躇い無くクラスメイトをヘッドショットした涼介が言うには流石に説得力に欠いていた。

 そう言われた涼介は益々バツが悪くなってしまった。


 「ソレを言われたら何も言い返せねぇ」


 バツの悪い様子の涼介に綾華はある事を聞いた。


 「クラスメイトを狙撃で殺した訳だけどさ……気分は?」


 約数時間前に踊る人魚亭でジェーンからクラスメイトを殺せと要求された際。

 涼介は突っ撥ねた。

 だが、今は綾華を殺害しようとしたクラスメイトを綾華への援護の為とは言え、躊躇いも迷いも無くヘッドショットを決めて殺害した。してしまった。

 そんな罪悪を犯した事に対して問われると、涼介はウンザリとした様子で正直に答えた。


 「()()()()()()()()


 本当に何も感じなかった。

 そういや『敵なら殺せ』って師匠から教わって、実践し続けた生き残る為の秘訣だけど()()を安楽死以外で撃ち殺した時の事までは教えられなかったな……


 自分のしでかした事だと言うのに涼介は何処か他人事の様に思えてしまった。

 そんな涼介を気にする事無く綾華は部下として尋ねた。


 「風真がこの国を自分の物にしようとしてるみたいだけど、どうする?」


 3人に女から書類を奪え。

 そう命じた風真と言う人物がオルトヴァを簒奪し、完全に自分の物にしようとしている事に対してどうするのか?

 綾華から問われた涼介はハッキリと答えた。


 「放置して良い」


 「理由を聞いても?」


 「恐らくだが、俺達の標的に利用されているの捨駒だろうな……目眩ましとしては十分過ぎるし、放置しても面倒な事態になるから対処せざる得なくもなるだろうが、俺達は正義の味方じゃないので知ったこっちゃない」


 指揮官として涼介は風真なる人物を目眩ましの捨駒。そう断じると、敢えて放置する事を指揮官として選んだ。

 そんな涼介を綾華は好ましく思いながらも、茶化す様に尋ねた。


 「貴方、冷血漢とか血も涙も無い外道って呼ばれた事ない?」


 「あるぞ。戦友以外で言った連中は皆死んでるけどな……」


 そう返して通信を終わらせると、自分を襲ったクラスメイト達を殺して返り血を浴びた女が綾華に語り掛ける。


 「助けてくれた事。改めて感謝する」


 「気にしなくて良いわ。成り行きでこうなっただけだから……」


 綾華が正直に事実を伝えると、女は思った事をそのまま尋ねた。


 「貴女は何者だ?それに貴女に仲間が居るのは何となく察してはいるが、何処に身を潜めて居るのか?さっぱり解らないんだが……」


 仲間が居るのは察しては居るが、涼介が何処に居るのか?解らぬ。

 女がそう言えば、綾華は答えた。


 「私?私は通りすがりの人殺し。仲間はシャイだから姿を見せたがらないのよ」


 綾華がはぐらかす様に答えると、女は気を使ってくれた。


 「素性を聞かれたくないならコレ以上は聞かない」


 「そうしてくれると助かるわ」


 そう返して立ち去ろうとすると、女は綾華を呼び止めた。


 「待ってくれ!!何か礼をさせてくれないか?」


 「そんな律儀に恩を返そうとしなくて良いわよ。」


 綾華がコレ以上は相手にする気は無い。

 そう言わんばかりに返すと、女は言う。


 「仮にも私は貴族の末弟だ。生命の恩人達に恩を返さなければ、我が家名の名折れになる」


 面倒臭くなった綾華はSIG P226を貴族である事を明かした女に向けようとする。

 無論、殺す為に。

 しかし、ソレを涼介が止めた。


 「辞めろ。その女は使えるかもしれん」


 「どう言う事よ?」


 「貴族だって言うんなら、身元保証人として都合が良い。俺達は此処の住人から見たら、身元が真っ当とは言い難い」


 涼介が語った理由に綾華は納得すると、SIG P226を向けるのを辞めて右腿のホルスターへ収めた。

 そんな綾華に涼介は指示を飛ばした。


 「彼女が何処の貴族か?確認しろ」


 「失礼だけど、貴女の名前と出身を聞かせて貰っても良いかしら?」


 「失礼した。私はロムルリス十三貴族の1つであるビーテフェルド家の三女……アリア・レイエス・ビーテフェルドだ」


 女が己をアリア・レイエス・ビーテフェルドと名乗れば、綾華は涼介にその名を伝えた。

 アリア・レイエス・ビーテフェルドの名とロムルリスの貴族である事を知ると、涼介は早速と言わんばかりにジェーンにビーテフェルド家に関する情報提供を要求。勿論、標的に関する情報の催促も忘れなかった。

 そうしてジェーンに要求メッセージを送ると、アリア・レイエス・ビーテフェルドは綾華に尋ねる。


 「私が追われてる具体的な理由は聞かないのか?」


 「語るは不要。聞くは無作法ってスタンスを貫いてるから聞かない。けど、予想は付いてる」


 「どの様な予想だ?」


 「オルドヴァ王国が異世界から召喚された勇者達によって乗っ取られた。それを貴女の住まうロムルスの偉い人へ急いで報せる為こ報告書を貴女が持っている……って事ぐらいね」


 綾華はバカじゃない。

 露わになった幾つものピースが有れば、其れ等を繋ぎ合わせて何が起きてるのか?考え出すぐらいは出来る。

 そして、ソレは正鵠を射ていた。


 「詳しくは話せないが、君の言う通りだ」


 アリア・レイエス・ビーテフェルドが己の言葉を正直に認めると、綾華は呆れてしまう。


 「私の様な人間に言わせれば、自分の課せられた任務を見ず知らずの他人に喋るのはどーかしてると思わざる得ない。後、得体の知れない相手に本名を名乗るのも辞めた方が良いわよ」


 暴力に満ちた汚い世界で生きて来た綾華にすれば、アリア・レイエス・ビーテフェルドは何で未だに生きてるのか?解らない程の素人にしか見えなかった。

 だが、何で自分がアリア・レイエス・ビーテフェルドにアドバイスをすると共に何か引っ掛かるモノを感じているのか?

 その理由が自分でも何故か解らなかった。

 そんな感情を頭の片隅へ追いやると、綾華は涼介に爾後の行動をどうするのか?問うた。


 「この後はどうするの?」


 「()()()()()()()()()ぞ」


 突然の予定変更に綾華は反対はしなかった。

 だが、その訳は尋ねた。


 「どう言う事?」


 「今、連絡が来てな……発端となった奴は既に死んでたそうだ。俺としてはこのまま継続させて、城内に残ってるクラスメイト達から情報を集めようと思ったんだが、拠点確保を優先する方を選んだ」


 涼介が指揮官として語った理由に綾華は納得した。


 「そう言う事なら反対しないわ」


 「そう言ってくれると助かる」


 予定変更を認めてくれた綾華に感謝した涼介は儘ならない状況に溜息を漏らすと、排出されて地面に転がったままの空薬莢を2つ回収してから静かに立ち上がり、2人の元へと歩みを進める。

 2人の元へやって来た涼介は綾華に焚火を消させると、周囲の警戒とアリア・レイエス・ビーテフェルドの護衛を指示した。


 「火を消せ。後、彼女の警護と周囲の警戒しろ」


 その指示と共に綾華は焚火をクラスメイトの死体で潰す様に覆って消すと、暗視ゴーグルを嵌めてM4A1を手に警戒に当たり始める。

 そんな綾華を他所に涼介はツールナイフを手にすると、2つの死体の膝に残る9ミリルガーを抜き取っていく。


 本当なら死体を埋めたい所だが、次の追手が何時来るか?解らない以上、銃が使われた事を悟られない様にするだけに留めるしかない。


 相手は自分達の同郷である日本人(クラスメイト)

 それ故に銃の事も知っていても別段おかしくない。

 寧ろ、知らない方があり得ないくらいだ。

 そんな日本人達。チートを持った連中に敵が銃を用いる事を知られれば、何かしらの対策を講じて来るのは火を見るよりも明らか。

 それ故に物証となる放たれた弾頭を回収する必要があった。

 無論……


 「おい、薬莢は回収したか?」


 潰れてマッシュルーミングを起こしたホローポイント仕様の9ミリルガーの弾頭を2つ銃創から抜き取った涼介が問えば、綾華はさも当然の様に返した。


 「とっくに回収したわよ」


 そう返すと共に2つの空薬莢を涼介に見せる綾華に涼介は「それなら良い」と、素っ気無く返してから腰に差す長年使い慣れたマチェーテを引抜いて3つの死体の両の膝を斬り落としていく。

 程無くして3対の脚が地面に転がれば、涼介はマチェーテを鞘に収めながらアリア・レイエス・ビーテフェルドに自己紹介した。


 「俺の事はロンと呼んでくれ」


 「解った。所で、何故に(死体)の脚を斬り落としたのだ?その必要は無いと思うのだが?」


 少しばかり引いた様子で問うて来たアリア・レイエス・ビーテフェルドに涼介は「気にすんな」と、返せば更に続けて尋ねた。


 「アンタ、ロムルリスに帰るんだろ?」


 「そうだ」


 アリア・レイエス・ビーテフェルドが肯定すれば、涼介は提案と言う形で告げる。


 「俺達を雇わないか?腕はさっき見た通りだ」


 涼介の提案にアリア・レイエス・ビーテフェルドは当然の様に警戒心を露わにした。

 そんな彼女を気にする事無く、涼介は言葉を続ける。


 「アンタは書類を祖国であるロムルリスへ運ぶ任務に就いてる。ソレを確実に遂行するのに俺達は役に立つぜ?」


 己を売り込む様にセールストークをした涼介に懐疑しながらも、アリア・レイエス・ビーテフェルドは考える。


 例の勇者達の同胞の可能性が高い2人を祖国へ連れて行って良いものか?

 この2人が実はオルドヴァを簒奪した者達の仲間である可能性は否めない。

 その場合、我が国は大き過ぎる代償を支払う事となる……


 涼介と綾華の腕はアリア・レイエス・ビーテフェルドから見ても、見事なモノとしか言えなかった。

 自分と3人に一切気付かれる事無く暗闇に溶け込む様に潜むばかりか、直ぐ近くまで接近して一瞬の間に3人を無力化。

 その際には約200メートル先からこれ以上無い程に正確な初撃を加えもした。

 だからこそ、2人を愛する祖国へ連れて行っても良いのか?

 アリア・レイエス・ビーテフェルドは悩んでしまった。

 そんな彼女の心を見透かしたかの様に涼介は告げる。


 「俺達は貴女の察しの通り、召喚された勇者達37……今、3人死んだから34名の内の2人だ」


 自分の予想が当たった瞬間。

 アリア・レイエス・ビーテフェルドは腰に差した剣を抜かんとする。が、剣は抜けなかった。


 「落ち着け。後、話は最後まで聞いてくれると助かる」


 抜こうとした剣をアリア・レイエス・ビーテフェルドよりも素早く強い力で押さえていた涼介はそう言うと、剣から手を離して言葉を続ける。


 「貴女は知ってる筈だ。勇者達の内、2人の無能力者がオルドヴァの王城から追放された事を……」


 「話には聞いていた。それが貴様等だと言うのか?」


 「そうだ」


 涼介はアリア・レイエス・ビーテフェルドの言葉を肯定すると、更に続ける。


 「俺達は俺達の都合で同胞達と敵対する羽目になってな、残念な事に俺達は同胞を殺さないといけない状況下にある」


 同胞。もとい、クラスメイト達の中に潜む首謀者を殺害しなければ、元の世界に帰れないのだ。

 嘘は言ってない。


 「その事情とは何だ?」


 「単純な話さ。連中を殺して欲しい奴が居て、ソイツが俺達を雇った」


 簡潔明瞭に事実を答えれば、アリア・レイエス・ビーテフェルドは一旦は納得してくれた様であった。


 「そう言う事か……だが、貴様等は同胞を殺して何とも思わないのか?」


 真っ当な感性を持つ者ならば、同胞を殺す事に忌避感を持つだろう。

 アリア・レイエス・ビーテフェルドもその内の1人であった。

 そんな彼女に涼介は正直に答える。


 「実際に殺してみたが、何も感じなかったよ。それに同胞が同胞を殺すなんて、珍しくもない話だと思うんだが?」


 同胞が同胞を殺すのは珍しくない。

 そう言われると、アリア・レイエス・ビーテフェルドは納得するしか無かった。


 「否定はしない。それで?貴様等が私を我が国まで護衛する見返りは何だ?」


 当然の疑問をぶつければ、涼介は答える。


 「俺達には後ろ盾が無い。カネも住まいも無い。勿論、仕事も無い」


 その答えが意味する事をアリア・レイエス・ビーテフェルドは直ぐに察したのだろう。

 確認の為に尋ねた。


 「つまり、私に後ろ盾になって貰うと共にカネと住まい、仕事も用意して貰いたい訳か?」


 アリア・レイエス・ビーテフェルドの確認を涼介は肯定すると共に譲歩した。


 「悪くない話だと思うぜ?あ、ロムルリスに居る間に俺達を監視してくれても構わねぇ……その方がそっちも安心出来るだろ?」


 「…………私だけでは確約は出来ない。だが、希望に沿うように善処する事だけは生命を救われた者として確約しよう」


 こうして簡単ながらも支払いが不安な交渉が成立すれば、涼介は右手を差し伸べる。


 「交渉成立なら握手してくれ」


 その言葉にアリア・レイエス・ビーテフェルドは素直に従って涼介と握手した。

 互いに手を握った直ぐ後。

 涼介は言う。


 「じゃ、ずっと此処に残るのも危ないから早速移動だ」


 「貴様、正気か?」


 夜の街や村の外は危険極まりない。

 ソレがこの世界の常識だ。

 それなのに涼介が移動する事を進言すれば、アリア・レイエス・ビーテフェルドが正気を疑うのは当然と言えた。

 だが、涼介が気にする事は無かった。


 「今は急いで報告したいんだろ?それとも腐り始める死体3つと一緒に一夜を過ごしたいのか?向こうが新たな追手を差し向けるかも知れないのに?」


 不安を煽る様に涼介が捲し立てれば、アリア・レイエス・ビーテフェルドは折れるしか出来なかった。


 「解った。貴様の指揮に従おう」


 「じゃ、出発するとしよう。俺が先頭を行く。お前(綾華)は後方警戒と彼女の護衛しろ」


 「りょーかい。私の事はサーサウ(殺手)で……」


 綾華が了解すると共に偽名を兼ねたコールサインを告げれば、涼介は立ち上がってFN-FALと綾華のバックパックを持ち、来た道を戻る様に歩き出すのであった。




殺手(サーサウ)は中国語つか広東語で殺し屋って意味の言葉だったりする…

だが、綾華の出身は広東語を使う圏内ではない模様←

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