物資受領
混沌を名乗る女から場所を記したメモを受け取った後。
2人は手近な食堂で昼食を手早く済ませると、雑貨屋で水筒を4つと方位磁針。それと飴玉を手切れ金で購入してからオルドヴァの王都から西へ去り、舗装されてない街道を歩んで居た。勿論、4つの水筒を満水にしてからだ。
暫くの間。2人は会話を交える事無く黙々と歩みを進めていた。
そうして1時間近く歩いた頃。
涼介は歩きながら後ろを振り返ると、綾華に休憩を告げた。
「そろそろ休憩するぞ」
兵を率いる指揮官の如く休憩を取る事を告げると、綾華は素直に応じた。
「了解」
綾華が応じれば、涼介は前を向いて歩みを進めた。
それから程無くして大きな木のある平原で立ち止まると、涼介は綾華を伴って大きな木へと向かって行く。
そうして涼しい木陰に入ると、涼介はドカッと地面に座り、上履きを脱ぎ始めた。
上履きを脱いだ涼介は靴下まで脱ぐと、ブレザーのボタンを外した。
そんな涼介の姿に綾華は思った事をそのまま口にする様に尋ねた。
「貴方、軍に居た事があるの?」
涼介の様子から涼介が軍に居た事があるのではないか?
そんな仮説をぶつけて来た綾華に涼介は素っ気無く答える。
「いや、居た事は無い」
「なら、何で陸自の慣れた人がやる様な事をしてるのよ?」
綾華の問いに涼介はまたも素っ気無く答えた。
「師匠から教わったんだ」
涼介は嘘は言ってない。
実際。涼介にすれば、女が箱庭と呼んだ異世界にて師匠から教わった事を実践しているだけに過ぎないのだから。
そんな涼介の答えに綾華は「ふーん……」と、興味が失せた様に返した。
それから直ぐに目的地までどれぐらい掛かるのか?尋ねた。
「それで目的地まで、此処からどのくらいなの?」
綾華に尋ねられると、涼介は水筒の水を一口だけ飲んでから答えた。
「このまま何も問題無く、このペースで進み続けられれば夕方に差し掛かった頃には着く筈だ」
涼介の答えに「なら、良かったわ」そう返すと、綾華も涼介と同様に上履きと靴下を脱いで裸足になり、ブレザーのボタンも外した。
2人は木陰の中で心地良い微風を浴びながら休息していく。
そんな休息を15分ばかり取ると、涼介と綾華はブレザーのボタンを留め直していく。
それから靴下と上履きを履けば、2人は立ち上がって目的地に向けて歩みを再び進め始めた。
その後。
2人は1時間歩いては15分休憩。
そんなルーティンを繰り返し、4度目の休憩を終えて歩みを進めて行く内に太陽が沈み始め、大地を真っ赤に染め上げた頃。
2人は目的地である女が物資を用意したと言う、オルドヴァの王都から約20キロほど離れた森の前に涼しい顔で立っていた。
「森の何処にあると思う?」
綾華に聞かれた涼介はまたも素っ気無く返した。
「俺が知る訳無いだろうが」
涼介が返すと、涼介のスマートフォンから無機質な女の声がした。
「ビーコンを感知しました。私の誘導に従って下さい」
女の言葉に涼介が「了解」と、さも当然の様に答えると、綾華は声の主に感して尋ねる。
「今の声は誰?」
何も知らぬ綾華に尋ねられると、涼介は簡単に答えた。
「俺のナビアプリ」
嘘は言ってない。
涼介のスマートフォン内に住まう彼女は、ナビゲーターとしての役目も担っている。
だが、この世界は彼女の力を最も発揮出来る世界ではない。
寧ろ、彼女の力を存分に行使出来ない世界と言えた。
それ故に今はナビアプリとしての機能しか無かった。
だからなのだろう。
彼女は涼介の言葉に対し、沈黙で返すだけに留めて居た。
しかし、綾華は約5時間前にした女との遣り取りを忘れていなかった。
「あの女……名前を聞くの忘れてたから"混沌"って呼ぶけどさ、混沌が言ってたわね。貴方のスマホに居る彼女にナビゲートして貰え……ってさ?」
抜け目無い綾華の言葉に涼介は歩みを進めながら答える。
「初めての異世界。あの女が言ってた箱庭の事な……其処で知り合ったAIだ」
涼介の答えにどうすべきか?察したAIの彼女は綾華に自己紹介をした。
「私は人工知能です。名前はアイと申します」
礼儀正しい口調で自己紹介をしたアイに綾華は自己紹介で答えた。
「私の事は知ってると思うけど、麻倉 綾華。偽名よ。あ、私の本名を聞くのは辞めてね?私自身、親から付けられた名前なんて知らないからさ……」
サラッと重い事を言って退ける綾華に涼介が内心で驚いていると、綾華は何かを思い出して驚いたかの様に涼介に言う。
「って!?貴方やっぱり"なろう"とかで良くある異世界帰還者だったの!?混沌の言葉から、まさかとは思ってたけどさ……」
驚きながらも納得した様子の綾華に涼介はぶっきらぼうに答えていく。
「とは言っても、俺の居たクソな異世界じゃ魔法もチートも無かったし、俺自身も魔法もチートも使えねぇんだけどな」
涼介の答えに綾華は呆れてしまった。
「よく言うわよ。私の腹にボブ・マンデンも真っ青なクイックドロウで2発も撃っておいて……」
綾華は撃たれた時の事を忘れていなかった。
自分が仕事の目撃者である涼介を口封じの為に射殺しようとした瞬間。
初めて聴いた大きな銃声。
初めて目の当たりにした眩い閃光。
それ等こそ、涼介の持つ圧倒的な力が発揮したモノ。
綾華の言葉をそのまま借りるならば、ボブ・マンデンも真っ青な早撃ちによる2発の銃弾であった。
そんな早撃ちで2発のマグナム弾を腹に喰らった綾華は腹に熱い激痛を覚えながら、地面に崩れ落ちた。
その時に死の恐怖と共に救いと報いを受けるのだと、歓喜した。
だが、ソレは直ぐに打ち破られてしまった。
涼介が差し伸べた救いの手によって……
閑話休題
綾華が己の早撃ちに触れて来ると、涼介は吐き棄てる様に返した。
「早撃ちが出来ても、魔法と比べたら火力も射程もカスだろ」
アイの誘導で歩みながら卑下する様に返した涼介に対し、綾華は不愉快そうに言葉をぶつけた。
「そのカスに敗けた私は何よ?」
「知らんがな」
涼介が面倒臭そうに返すと、アイは呆れた様子で2人に言う。
「御二人共、仲がよろしいのは喜ばしい事ではありますが、そろそろ到着しますよ」
アイの言葉通り。
目的地とも言える物資が詰まっているだろうサイズ異なる多数の木箱が見えて来た。
涼介と綾華多数の大きな木箱を確認すると、周辺を見廻しながら辺りを散策していく。
そうして周囲に誰も居ない事を確認すれば、2人は木箱に備える様に用意されたバールで幾つもの釘で固く閉ざされた木箱の蓋を開けて始めた。
全ての木箱の蓋を開け終えた後。
涼介が木箱の1つを覗くと、中には2人の為に用意されたであろう多数の靴下を含めた下着上下と黒の戦闘服上下一式が4着ずつ。それから、サイズの異なるコンバットブーツが2足ずつあった。
「おー……着替えと靴があるのはメッチャ助かるわ」
「それな」
涼介の言葉に綾華は同意する。
実際問題として、着替えと靴の確保は大きな問題の1つでもあった。
ずっと同じ物を着て、上履きを履き続ける事になれば、結果的に健康を害する事になる。
靴と靴下ならば一番解り易いだろう。
水虫を始めとした例が……
そんな地味ながらも重要な問題が1つ消去されたからこそ、涼介と綾華は心の底から喜んだのであった。
2人はブレザーを脱ぎ始めた。
綾華は涼介の背に革のハーネスで留められた鞘に収まるマチェーテを見ると、呆れてしまう。
「アンタそんな物背負ってるの?」
涼介はマチェーテを留めるハーネスを取り外すお、綾華がスカートの中から太腿に取り付けられた鞘に収まるコンバットナイフを外す姿に呆れ返した。
「お前だって物騒なの持ってんじゃねぇか」
「身に付けてないと落ち着かないのよ」
さも当然の様に返す綾華に涼介はボヤく様に同意する。
「認めたくない奇遇ってあるもんだな」
制服とワイシャツ。それに上履きと靴下を脱いで下着姿になった2人は木箱にあった着替えを手に取り、着替えていく。
5分もしない内に黒の戦闘服姿になり、コンバットブーツも履き終えた2人は何処か晴々としてスッキリした様子であった。
「いやぁ、やっぱり汗で濡れた服を着替えられるのは最高だわ」
普通ならば出ないだろう感想を本心から言う涼介に綾華は同意しながらも呆れてしまった。
「どんな経験をしたら日本人でそんな感想出るのよ?」
呆れる綾華に涼介は本心から答えた。
「サバイバル生活を余儀なくされたら嫌でもなるぞ。実際、同じ服を着続けていると気分悪くなる。特に靴下とかの足回りに関しては水虫は確実になっちまうし、足のケアしなかったら二度と歩けなくもなるから靴下の替えがあるのはダンチなんだよ……」
実に実感の籠もった声でそう答えた涼介に綾華は何処か懐かしい気分で言う。
「私も昔居た所でそう言うの目の当たりにしてたから解るわ」
互いに場所や経験内容は違えど、似た様な世界を生き抜いて来たからだろう。
この時の2人は戦友同士に見えた。
そんな穏やかな遣り取りをしながら木箱内を検めていくと、長方形の長い木箱から長い銃器が露わとなった。
「M4A1と何でFAL?」
長方形の木箱にあったのは米軍が未だ制式採用し続けている軍用自動小銃のM4A1カービンと、72年前の冷戦期に産まれ出たベルギー製の軍用自動小銃であるFN-FALであった。
新旧と共に口径とサイズも異なる軍用自動小銃が合わせて2丁ある事に綾華は首を傾げてしまう。
「何で弾倉も違えば、口径も違う軍用自動小銃があるのよ?しかも、FALに至ってはATACRなんて超高級なスコープ着いてるし……」
綾華の言葉に何処か思う所があったのだろう。
涼介は言う。
「多分、そのファルは俺の為に用意した奴だろな……」
「そうなの?なら、貴方が使う?」
「あぁ、その方がお前さんにも良いだろ」
涼介の言う通りであった。
FALは良い銃ではあるが、見た目通りの長さと重さがある。
M4A1と比べ、一回り以上長い上に重さもM4A1より1キロ以上も重いのだ。
綾華にすれば、軽くて取り回しの良いM4A1が使えるならばM4A1を選ぶのは当然と言えるだろう。
そんなM4A1を手にした綾華は呆れてしまった。
「うわ、このM4……私好みのカスタムがされてる」
「どう言う事だ?」
涼介が尋ねると、綾華はM4A1を見せながら語る。
「先ずはバレルだけど、本来の14.5インチじゃなくて11.5インチと短縮された物に交換されてる。因みにだけど、11.5インチは本来の14.5インチと比べて弾の性能を完全に発揮出来ないけど、それでもメチャクチャマシなレベルではある」
「成る程。それで?他には?何か、色々とゴテゴテと着いてるみたいだが?」
「フォアエンドはM-LOKの軽量化された物で上面と右側面。それと下部にレールが取り付けられてるからオプションパーツが付けれる様になってるんだけど……右側面にはフラッシュライト、上面にはフロントサイトとPEQレーザーユニット。下部にはフォアグリップって具合に夜戦もいける様になってる」
綾華が銃身周りに取り付けられたパーツの事を簡潔に語ると、涼介はM4A1本体に触れた。
「その2つの照準器は?」
「銃口側のはホロサイト。至近距離や300メートル先の照準を着けやすくなる光学照準器よ」
「なら、その後ろにある筒は?」
「コレはマグニファイア。ホロサイトかダットサイトと組み合わせて使うと即席のスコープになる部品……コイツは4倍率みたいね。後、ストックもMAGPULの奴に換装されてるし、銃口もサプレッサーをポン付け出来るマズルブレーキにされてるわ」
涼介の聞いた筒。もとい、マグニファイアの事を語った後に他にも手を加えられた点を綾華が説明すれば、涼介は男の子みたいに少しばかり興奮した。
「スゲェな……まるでCoDのプライス達が使う様なのみたいだ」
そんな涼介に綾華は呆れたように返す。
「ホント、私好み過ぎて不気味だわ。ねぇ、あの混沌って女は何者なの?」
"混沌"と自分が呼ぶ女が何者なのか?
そう問われた涼介は正直に答えた。
「一言で言うなら邪神だ」
涼介から返って来た答えを綾華は否定しなかった。
寧ろ、スンナリと納得した。
「成る程ね。神様なら地球外で使い物にならないスマホを使える様にしたり、私の事を調べ上げるぐらい簡単に出来るわね」
アッサリ納得する綾華に流石の涼介も呆れてしまう。
「何で?そんな簡単に納得すんだよ?」
「だって、私自身が勇者召喚なんてネット小説やラノベとかのフィクションでしかお目にかかれない様な状況を現在進行系で体験しちゃってるから……かな?だから、邪神とかって普通なら出ない言葉が出ても何か納得出来ちゃうんじゃない?」
「ソレを言われたらぐうの音も出ねぇわ」
綾華の語った理由に納得するしか無かった。
その後。
他の木箱から戦闘服の上から纏うプレートキャリアや雑納等に暗視ゴーグルとFASTヘルメットを始めとした装具類や軽量な樹脂製の弾倉に詰まったのを含めた各種弾薬。
それから、各種手榴弾やC4。それにライフルグレネードや使い捨て式のロケットランチャーであるM72E10と言った爆薬類を見付ければ、2人は乾いた笑いを浮かべてしまった。
「コレだけあれば余裕で戦争出来そうだな……」
呆れ混じりに涼介がボヤけば、綾華も同様に呆れてしまう。
「流石に少数のターゲットを殺すだけにしては大袈裟過ぎるんだけどね……」
2人の言う通り、"混沌"が用意してくれた物資は戦争が出来る量であった。
そんな量に呆れながらも少しだけ"混沌"に感謝した2人は物資をテキパキと分けると、プレートキャリアに各種弾嚢を取り付けて中身を詰め込んでいく。
20分後。中身の詰まった各種装具を身に纏い終えれば、大型のバックパックに袋詰めした着替えと余った予備の弾薬等を詰め込んで背負った。
すると、涼介のスマートフォンが電子音を響かせて電話が来た事を報せて来た。
スマートフォンを手に取ってスピーカーホンで出れば、混沌の声が涼介と綾華の鼓膜を叩く。
「私の用意した物資は気に入ってくれたかしら?あ、ゼロインも既に済ませてあるわよ」
混沌の問いに綾華が答えた。
「えぇ、私達好みのが揃ってて嬉しかったわ」
「だそうだ。それで?コレから俺達に何をさせるつもりだ?」
綾華の感想の後に涼介が仕事の話を持ち込めば、"混沌"は答える。
「現状。此方が出来る事は何も無いわ」
その答えに誰もが首を傾げるだろう。
しかし、涼介は違った。
「だろうな。標的が誰なのか?解らない以上、相手の出方を待つしか俺達には出来ない。全員殺すんなら話は別だがな……」
標的がクラスメイトの誰か?未だ解らない。
だからといって、未だにオルドヴァの王城に居るクラスメイト達を皆殺しにするのは流石に非人道的過ぎるし、気分も良くない。
それ故に涼介は依頼に関して自分達に出来る事は何も無い。
そんな混沌の言葉に納得していた。
すると、綾華は涼介と混沌に向けて尋ねる。
「なら何して待ってれば良いのよ?」
依頼に関して何も出来る事が無いならば、何か出来る状況になるまで何をしてれば良いのか?
綾華が問えば、混沌は依頼人としての立場から意見する。
「先ずは安全な拠点を確保するのが良いだろう。拠点を確保した後に情報収集の為の伝手作りと、日銭調達も兼ねた仕事捜しをして暇を潰すのが建設的だろう」
先ずは依頼遂行の為に安全な活動拠点を確保。
それから、情報収集や情報収集の伝手作りと資金調達を兼ねた仕事に就いて首謀者が動くのを日銭を稼ぎながら待つ。
混沌の意見は非の打ち所の無い正論と言えるだろう。
それ故に綾華と涼介が反対する事はなかった。
「ソレが無難そうね」
「妥協な所だな」
「私の意見を採用してくれて助かる。城内の動きは私と友人で監視して、動きがあったら君達の端末に送ろう。あ、私と話をしたいならこの番号をリダイヤルしてくれたまえ……」
そう告げると、混沌は電話を切ろうとした。
だが、それよりも早く涼介が混沌に尋ねた。
「なぁ、さっきにアンタの名前を聞くのを忘れてた。アンタの事はなんて呼べば良い?」
涼介に尋ねられた混沌は少し考えると、己の呼び名を告げる。
「ジェーン・ドゥで良い」
ジェーン・ドゥ。
その名が意味する事を綾華は知っていたが故に呆れてしまった。
「女性の身元不明死体を意味する名前を名乗るのは流石に悪趣味じゃない?」
「名前など単なる呼び名にしか過ぎん。君なら、ソレを一番理解していると思ったが?」
「そうね。私の麻倉 綾華も都合が良いから宛てがわれただけの偽名と戸籍だから否定出来ないわ」
綾華が混沌。もとい、ジェーンの言葉に納得すると、涼介は話を戻す様に言う。
「なら、アンタの事はジェーンって呼ばせて貰う。良いよな?」
「ソレで構わない。私も引き続き、君をロンと呼ばせて貰う」
ジェーンが涼介の言葉を肯定すると、涼介はまたも尋ねた。
「なら、ついでにもう1つ……拠点を置く場所はオルドヴァの外。即ち、隣国としたら何処に置くべきだと思う?」
拠点を置くならば何処にすべきか?
涼介から意見を求められたジェーンは少し考えてから答える。
「そうだな……そのまま西へ向かってロムルリスに向かうのが良いだろう」
ジェーンがそう答えると、涼介は「理由を聞いても良いか?」と、理由を尋ねれば、ジェーンは理由を答えていく。
「理由としては単純だ。先ずは距離。コレは言わなくても良いな」
「もう1つは?」
「もう1つは国力差だ。ロムルリスはオルドヴァと比べて国力が段違いに大きく、それに伴って軍事力も当然ながら大きい。それ故にオルドヴァ王家が君達の友人を戦争に利用するにしても、直ぐには戦争を仕掛けない。まぁ、ソレはエウロペスを始めとした各隣国に於いても同様であるが……」
長々と2つ目の理由を答えたジェーンに涼介は納得と共に「やっぱりな」そう返すと、言葉を続けた。
「オルドヴァの連中は魔王討伐の為に俺達を召喚したんじゃなくて、各隣国への侵攻作戦の為に召喚したんだな」
涼介の言葉をジェーンは肯定した。
「そうだ。そして、ソレを君達に指定した標的が便乗する形で利用した。まぁ、恐らくは王家も首謀者の手の者に唆されたのだろうがな……」
1つの可能性を付け加えた上で……
ジェーンの挙げた可能性を聞くと、涼介は呆れてしまった。
「だとしたら、完全に後手に回り過ぎてんじゃねぇか……ん?待てよ?そうなると、首謀者は何処まで手を伸ばしてるんだ?いや、それ以前に地球とこの世界って異なる世界同士でどうやってリンクさせてるんだ?」
呆れながらも同時に浮上した疑問をそのまま口にすると、今まで静かに耳を傾けていた綾華が首を傾げる。
「どう言う事?」
「そのまんまの意味だ。首謀者が俺達の中に居る。ソレは良いとしよう。だが、異なる世界同士でどうやって召喚の儀式と日本の教室での送り出しをマッチさせた?」
涼介の言葉で漸く意味を理解したのだろう。
綾華は納得と共に疑問の声を挙げた。
「そう言われてみると……だとしたら、オルドヴァの城内にも標的の仲間が居るって事?」
綾華の疑問の声は疑問と同時に、標的に繋がる一筋の糸となった。
コレは未だ仮説の段階で、確証は無いに等しい。
だが、その一筋の糸を手繰り寄せない理由にはならない。
それ故に……
「そうだとしたら、首謀者に繋がる手掛かりだ。なぁ、予定を変更してオルドヴァの城内に潜入して良いか?」
涼介はリスクを承知の上でオルドヴァの城内へ潜入する事を提案した。
その提案をジェーンは思案していく。
「やらないよりはやった方が良いのか?」
「ソレが間違いだったとしても、ソレが違うと言う証明にもなる。違うか?」
涼介が畳み掛ける様にして意見すれば、ジェーンは納得して裁可を下した。
「確かにその通りだ。良いだろう。私の友人には私から伝えておこう。だが、良いのか?リスクはとても大きいぞ?」
「俺の居た所じゃ、危険を冒す奴が勝つんだよ」
涼介が問題無い。
そう返すと、綾華は「ソレってSASの標語じゃない」と、呆れてしまう。
本来の予定とは異なってしまった。
だが、この一手で首謀者の正体ないし手掛かりが得られるならば、やらないより、やる方が良いのも事実。
それ故に涼介はリスクを承知の上で作戦を遂行する事を選び、ジェーンに作戦遂行に必要な物を要求する。
「可能なら今夜潜入したい。必要なのは城内の見取り図と王家に勇者召喚を提案した奴の名前と顔。後、逃走用の足……直ぐに用意出来るか?」
「城内の見取り図と足は用意出来る。だが、立案の発端となった人物の特定に時間が欲しい」
流石に今直ぐに発端となった人物の特定は出来なかった。
それ故にジェーンが時間をくれと返せば、涼介はソレを認めた。急かした上で……
「なるべく急いでくれ。後、ソレをアンタの友人やアンタの友人の手下にも伝えて支援させろ」
涼介が唐突に友人を頼れ。そう言うと、ジェーンは首を傾げてしまう。
「そのつもりだが、どう言う……」
涼介にどの様な意図があるのか?そう問おうとした矢先。
ジェーンは言葉を留め、理解と共に快諾した。
「そう言う事か……是非そうしよう。では、今度こそ切るぞ」
その言葉と共にジェーンが電話を切ると、綾華は涼介に尋ねる。
「何を企んでるのよ?」
綾華の問いに涼介は涼しい顔でさも当然の様に答える。
「ちょっと、水漏れの点検をしてみようと思ってな」
「水漏れの点検?」
最初は首を傾げた綾華であったが、涼介の意図するモノを察したのだろう。
ソレ以上の事は聞かなかった。
「そう言う事ね」
「そう言う事」
涼介はそう返すと、ニンマリと笑うのであった。
皆殺しにすれば直ぐに終わるよ
でも、そんなの平然と選べる訳ないのが人情ってもんだろ?