第2話 古龍とフリーターの日常
狭い4畳半にユウサクとでっかいドラゴン・ミヤシゲが押し込まれた共同生活、スタートから2ヶ月!
面接に走り回るユウサクと、ダンジョン親方のミヤシゲが繰り広げるドタバタ劇。
朝のケンカ、目玉焼き、ダンジョン大騒動――凸凹コンビののんびりライフが幕を開けます!
ミヤシゲと暮らし出して2ヶ月程経った朝。
狭い木造アパートの4畳半で、ユウサクが目を覚ます。隣にはミヤシゲがでかい図体を部屋に無理やり押し込んで寝ていて、鼾がうるさい。
ユウサクが「うるせぇな…」とぼやきながら布団を出ると、部屋が狭いせいでミヤシゲを蹴ってしまう。だがユウサクは気にしない。
「あぁ? 寝てるときくらい静かにしろよ。」
蹴られた古龍が不機嫌そうに目をこすって起きる。
朝から軽い言い合いが始まるが、結局ミヤシゲが「ふう、朝メシでも作るか。」と立ち上がる。
キッチン(というより流し台と小さなガスコンロしかないスペース)で、ミヤシゲが慣れた手つきで目玉焼きを作り始める。
「また目玉焼きかよ。」
「文句言うなら自分で作れ。オメェ昨日もカップ麺だったろ。」
そうなのだ、ユウサクは再就職の為あちこちへ面接に通いながら出来るだけ貯金を崩さないようダンジョンの冒険者としても活動しているのだ。
不摂生も仕方なかろうが、ミヤシゲの言う事も分かっている。
結局、二人でちゃぶ台に座って黙々と朝食を食べる。外では近所のおばちゃんが
「ミヤちゃん、おはよう!」
部屋の窓側で食べていたミヤシゲに、外から同じアパートのおばちゃんが洗濯かごを持って声をかけて来る。
「オウ、おはようさん!」
ミヤシゲが気さくに応える。ユウサクは「俺より馴染んでんじゃねぇか…」とちょっと拗ねた。
~ミヤシゲの臨時子守り~
面接の返事待ちで予定を立てられず、ユウサクがアパートの4畳半で昼過ぎまでダラダラしてると、外からドタバタした足音と子供の泣き声が聞こえてきた。
窓から覗くと、隣の部屋に住むシンママの娘(たぶん5歳くらいの女の子)が階段で転んで泣いてる。母親らしき人が慌てて出てくる。
「ごめんね、ママ仕事で遅くなるから…」
オロオロしてるのが見えた。仕事でかなり困ってるみたいだ。
そこへ、ミヤシゲが帰ってきた。ステテコに腹巻きと下駄と言う時代錯誤も甚だしいどこぞの天才の父親の風情である。
「おいおい、何だこの騒ぎは。」
「ミヤちゃん、悪いんだけど、夕方まで見ててくれない?」
シンママに頼まれると、ミヤシゲは「なぁにぃ? 俺が子守り!?」と一瞬目を丸くするが
「ったく、仕方ねぇな。昔は若手育ててたようなもんだ、任せとけ。」胸を叩いて引き受けた。
「いや、お前ドラゴン育ててただけだろ」とユウサクは内心ツッコミを入れる。
そうして夕方、ユウサクが部屋でカップ麺すすってると、ミヤシゲが娘を連れて入ってきた。
娘はミヤシゲの尻尾にしがみついて
「ドラゴンさん、もっと遊んで!」
「ったく、うるせぇガキだなあ。」
ニコニコ言いながらちゃぶ台に座らせて「ほら、これでも食ってろ。」と近所のおばちゃんからもらったおにぎりを渡す。
「お前、意外と世話焼きだな。」
「うーるせぇ! お前も手伝えよ!」
結局、ミヤシゲが「昔、若手に教えてたみたいに遊んでやるか」と娘を肩に乗せて部屋中歩き回る。
でかいリザードマンが子供担いで「オラ、もっと高くしてやるぞ!」とかやってる姿は、ダンジョンの親方ってよりただのオッサンだ。
「ドラゴンさん強い!」
娘が喜ぶ。
「当ったり前だ、俺はなぁ、エンシェントドラゴン様だぞ。」
ユウサクは「普段は運動音痴なくせに…」と呆れるけど、ちょっとほっこりした。
~アパートの夜~
シンママが仕事から帰ってきて、娘をミヤシゲから引き取る。
「ミヤちゃん、本当に助かったわ。お礼に今度何か作るね。」
「オウ、サンキューな。ガキは元気でいいよ。」
「また遊んでね!」と娘が手を振ると、「ああ、またな。」と意外と優しい声で返す。
ユウサクは少し面白くなって
「ミヤシゲ、お前って実は子供好きなのか?」
「うるせぇ! ただの暇つぶしだよ!」
と誤魔化された。
~翌日の朝~
朝、ユウサクが目を覚ますと、ミヤシゲがちゃぶ台で娘が描いたらしいドラゴンの絵を眺めてる。
「何だよ、それ」
「昨日ガキが置いてったんだよ。俺に似てんだろ」
自慢げ。確かにミヤシゲっぽいゴツいリザードマンが描かれてた。
「似てるっちゃ似てるけど、ビール持ってねぇな。」
「うるせぇや、子供にビール描かせるかよ。」と笑顔で返される。
クエストに向かおうと支度してると、外ではシンママがミヤシゲに声をかけていた。
「ミヤちゃん、昨日はありがとうね」
「いいよ、また困ったら言え」
気前よく返す。ユウサクは「オレより住人と仲良いじゃねぇか」と嫉妬しつつ、ミヤシゲがアパートの「頼れる親方」みたいになってるのが何だかんだ嬉しい。
~5階層の拠点防衛クエスト~
「5階層の拠点防衛クエスト、報酬いいよぉ。」
幼馴染みのシンタローから誘われて、ミヤシゲと一緒にダンジョンに潜った。
正直、再就職がうまくいかず、小遣い稼ぎでもしないとヤバい状況だ。ミヤシゲは「俺はどうすっかなあ、面白そうだけどなぁ。」とか言ってたけど、結局ついてきた。ビール片手に。
5階層は薄暗い洞窟で、拠点となる結界石を守るのが任務。
結界石はダンジョン毎の境界を生成出来る石だ、ずれたり破壊されたりすると他の階層のモンスターと混じって強力なモンスターが発生する様になったり階層の攻略方法が大きく変わったりしてしまう。
敵は素早い狼型のモンスターの群れで、ユウサクとシンタローが剣や魔道具で応戦してる中、ミヤシゲは「うぜぇな、このチビども!」とイライラMAX。でかい拳を振り回すけど、当たらない。
「ミヤシゲさん、落ち着いて!」
「チマチマやってられっか!まぁとめて潰れやがれぇッ!!」
地面をドカンと殴る。確かに範囲攻撃でモンスターの大半を吹っ飛ばしたけど、次の瞬間、地盤がガラガラと崩れ始めた。
「お前、何やってんだよ!?」
「あーハハァ!スッキリしたあ!!」
スッキリしたらしい。
「まあまあ、ピンチだけどまだなんとかなるよ。」
そう言いながら魔道具で結界石を補強し始める、だがモンスターがさらに増えてきて、もうダメかと思ったその時。
「親方ぁ~!」と聞き慣れた声。若手のドラゴンが、いつものように仕事の相談で飛んできた。
「お前、いいタイミングだ! 仲間連れてこい、急げ!」
「え、えぇ!?」
慌てつつ飛び去り、数秒後。ドドドッと地響きを立ててドラゴンの群れが現れた。
上位サモンでもありえない、大量のドラゴンが狭い洞窟を飛び交う。
でかい翼と炎でモンスターを一掃して、崩れた地盤も熱で固めてくれるおまけ付き。
「…お前、こんな手札隠してたのかよ。」
「へっ、俺が呼べば来るんだよぉ。全員、俺の子分だからな。」
得意げだけど、若手ドラゴンがボソッと「親方、最近遊んでばっかだから僕ら困ってて…」
そう言うや否や
「なぁにィ…!? お前ら、まぁだ俺がいねぇと何もできねぇのか!!」
また怒鳴る。結局、事なきを得て、ユウサクたちは疲れ果てて拠点に座り込んだ。
~アパートでの夜~
クエストから帰って、木造アパートの4畳半にミヤシゲと並んで座ってる。
「もうダンジョン行きたくねぇ…」
ユウサクは床に転がって愚痴った。
「文句言うな。お前、あそこで俺がいなけりゃ死んでたぞ」
ミヤシゲはビール飲みながらドヤ顔。確かにそうなんだけど、地面殴ってピンチにしたのもお前だろ、とは言わないでいる。
ユウサクが恨みがましい目線をトカゲのオッサンに送っていると、外から近所のおばちゃんの声。
「ミヤちゃん、今日のご飯のお裾分けよ!」
「オウ、サンキューな!」
ミヤシゲが受け取りに行く、ユウサクは自分より先にアパートの住人と仲良くしてるのがちょっとムカついているが。
「ほら、お前も食え」
…煮物を分けてくれるから、まあいいかと箸を伸ばす。
狭い部屋でちゃぶ台囲んで飯食ってるうちに、今日の疲れも少し和らいできた。
~アパートの朝~
朝、ミヤシゲの鼾で目が覚める。
「うるせぇ…」
ユウサクは起きてミヤシゲを蹴ると
「あぁ? 朝から元気だな」
目をこすって起きるミヤシゲ。
「今日また面接行ってくるわ。」
ユウサクが言うと、「焦るなよ。仕事ってのはな、コツコツやるもんだ。」とか言い出して朝食の準備を始める。
外から近所のじいさんが「ミヤちゃん、将棋やろうぜ。」と声かけてきた。
「オウ、飯食うからちょっと待ってろ!」
朝食後、ユウサクは自分よりずっとこのアパートに馴染むトカゲのオッサンに見送られながら面接に向かって行った。
面接にダンジョン、疲れ果てても続くユウサクの奮闘と、アパートの顔になったミヤシゲの豪快ライフ。
ケンカしながら、助け合いながら、狭い部屋に絆が芽生える。
トカゲのオッサンと不器用男のハートフルな毎日が、ここから加速する!
ぶっちぎるぜ!!
東京ダンジョンと四畳半の古龍は不定期更新を予定しています。
雪と絆の冬物語 は次回予定通り4/1夜8時公開していきます!よろしくお願いいたします!