第一話 東京ダンジョンと四畳半の古龍
以前友人にキャラクター原案だけ貰った作品を投稿しました!
ほのぼの系をずっと書ける話と言う事だったのですが、僕が書くと妙に古くなりました!
ユウサクとミヤシゲの凸凹コンビのバディモノです!よろしくお願いいたします!
2025 5/3 5話から登場するキャラクターと佐藤さんの名字が被ったので1話の佐藤さんは改名して香川さんになりました…なんだろう…何故か嫌味な感じがよく似合う、倍返されだ
それは1年前、誰もが日常を当たり前に過ごしていた日のことだった。
東京の雑踏の中、新宿の高層ビル群の隙間に、突然異様な影が落ちた。最初は誰もが目を疑った――コンクリートの壁に食い込むように、苔むした石造りの遺跡が現れたのだ。
古代の彫刻が刻まれたアーチと蔦が絡まる柱は、まるで何世紀も前からそこにあったかのように不自然に馴染み、しかし明らかに現代の都市風景とは異質だった。
通行人たちは立ち止まり、スマホを手にその奇妙な光景を撮影し始めた。「何だこれ、CGかよ?」と笑う若者もいれば、「地震の前兆じゃないか」と不安げに呟く中年男性もいた。
同じ頃、渋谷のスクランブル交差点では、アスファルトの隙間から別の遺跡が這い出すように出現。
石畳の通路と崩れかけた門が、ビルの看板や電線と混ざり合い、異様なコントラストを描いた。信号待ちの群衆は一瞬凍りつき、次の瞬間、逃げ惑う者と好奇心から近づく者で混乱に陥った。「映画の撮影か何か?」と冗談を飛ばす声が聞こえたが、門の奥から響く低いうなり声に、その笑いもすぐに消えた。
そして、東京の空を見上げた者たちが息を呑んだ瞬間があった。
都心のビル群を突き破るように、巨大なタワー型のダンジョンが姿を現したのだ。灰色の石でできた尖塔は、霞む空にそびえ立ち、先端からはかすかな光が漏れていた。
まるで中世の城塞が現代に転移してきたかのようなその存在感に、交通は麻痺し、SNSは「#東京ダンジョン」のタグで埋め尽くされた。
「やばい、マジでやばい!」と叫ぶ学生、「終末だよ、これ」と呟くサラリーマン、興奮気味に「ゲームみたいじゃん!」と目を輝かせる子供たち。
町の人々の反応は恐怖と好奇心が入り混じり、秩序は一瞬にして崩れた。
数時間後、政府は緊急声明を出し、「未知の現象」と名付けられたこれらの遺跡を「ダンジョン」と呼ぶようになった。
出現直後から、自衛隊が周辺を封鎖し、テレビでは専門家が「異次元からの侵入か」「地球の歴史が歪んだのか」と議論を繰り広げた。
だが、封鎖線を越えて中に入った一部の若者たちが、ダンジョン内で神話生物や魔道具を発見したとSNSで拡散すると、恐怖は一転して冒険心に火をつけた。「一攫千金のチャンスだ!」と息巻く者たちが現れ、ダンジョン周辺には野次馬や物売りが集まり始めた。
1年が経った今、ダンジョンは現代に溶け込みつつある。
ビルの隙間に張り付いた遺跡型のダンジョンは、観光名所と化し、近くには「ダンジョンカフェ」や「冒険者グッズ」の露店が並ぶ。
一方で、タワー型の巨大ダンジョンは未だ立ち入りが厳しく制限され、その周辺では自衛隊のヘリが飛び交い、時折漏れ出る異音に住民たちは慣れっこになった。町の人々は当初の混乱を乗り越え、「ダンジョンがある日常」を受け入れつつあるが、その裏で、ダンジョンが世界に何をもたらすのか、誰もまだ知らない。
~ユウサクの解雇~
夕暮れ時のオフィス。蛍光灯がチカチカと点滅し、デスクには書類と空のコーヒーカップが散乱している。
ユウサクは24歳、くすんだスーツにネクタイを緩めた姿で、パソコンの画面を睨んでいた。残業続きで目の下にはクマができ、指先はキーボードを叩くたびに微かに震えている。
隣の席では上司の香川が、鼻歌交じりにスマホゲームをやっているのが聞こえてくる。
「…お前まだその資料終わってねえのか?」
香川の声が響き、ユウサクの手が一瞬止まる。
「……もう少しで終わります。昨日の分も含めて、今夜中に提出しますよ。」
声は低く抑えているが、喉の奥で何かが詰まっているような響きだ。香川は鼻で笑いながら椅子を回して言う。
「いやいや、無理すんなって。お前、ミスばっかでさ、クライアントからクレーム来てんだよ。もういいよ、明日から来なくていいから。」
ユウサクの目が見開く。頭の中で「明日から来なくていい」という言葉が反響し、時間が一瞬止まったように感じる。
「は? 何ですか、それ?」
言葉が口をついて出る。香川は面倒くさそうに肩をすくめる。
「だから、クビだって。悪いな、お前じゃこの会社のペースについていけねえよ。荷物まとめて帰れ。」
その瞬間、ユウサクの中で何かが切れた。
普段は我慢して感情を押し殺してきた分、一度溢れると止まらない。立ち上がり、デスクの端を握り潰す勢いで掴むと、叫びにも近い声で言い放つ。
「ペースについていけない? 冗談だろ! お前らが無茶な納期押し付けて、残業代も払わず、ミスが出たら全部こっちのせいかよ! 3年我慢した俺がバカだったんだ!」
声がオフィスに響き、他の社員が顔を上げる。香川は一瞬怯んだが、すぐにニヤリと笑って言い返す。
「おお、怖い怖い。まあ、そうやって吠える元気があるなら、次の仕事探せば? じゃあな。」
ユウサクは息を荒くしながら、デスクの上の書類を乱暴に鞄に突っ込む。最後につま先で椅子を蹴り倒し、「くそくらえ」と吐き捨ててオフィスを出る。ドアを叩きつける音が背中で響き、廊下の薄暗い照明の下、拳を握り潰したまま階段を降りていく。
外に出ると冷たい風が顔を叩き、解雇された現実がじわじわと胸に広がる。
「終わった……俺、どうすんだよ……」
呟きながら、空っぽの目で夜の街を見上げるのだった。
~新たな生活~
東京の片隅、古びた木造アパートの四畳半に、ユウサクはスーツケースを放り出した。24歳の彼は、数日前までブラック企業で心身をすり減らしていたが、内向的で激情的な性格が裏目に出て解雇された。
元職場に近かったアパートを引き払い、貯金を切り崩して流れ着いたこの狭い部屋で、彼は畳に寝転がり、天井の染みを眺める。
「これからどうすりゃいいんだ…。」
憂鬱な気持ちでビールの缶を開けたその時、スマホが鳴った。画面には「シンタロー」の名前。
シンタローは中学から付き合いのある幼馴染みだ。昔から要領の良い奴で、今は大手の商社に勤めている。ユウサクがブラック企業に勤め出してからは以前の様に遊ぶ事は少なくなったが、今でもこうやって連絡は取っている。
「もしもし?シンタローか。」
「あ、ユウサク。クビになったって聞いたんだよねぇ。元気にしてる?」
中学時代からの幼馴染みの柔らかい声が、沈んだ心に響く。
「元気なわけねえだろ。仕事も住む場所もなくなったんだぞ。」
「うん、そうだよねぇ。じゃあさ、気分転換にダンジョン行ってみない?」
ダンジョン、現代に突如現れた異次元の災害。神話生物や魔道具を内包する危険な空間だ。
シンタローは趣味で冒険者をやっているらしいが、ユウサクは危険な場所だと言う認識しかなく、実際に死者、行方不明者も出ているらしい。ニュースでしか知らないが。
「お前…死にたいのか?」
「うーん、そういうのも悪くないよねぇ。」
と笑われた。自暴自棄に近い気持ちで、彼は誘いに乗ることにした。
~初めてのダンジョンと不思議なおっさん~
翌日、ユウサクはシンタローと共に「東京近郊ダンジョン入口」に立っていた。
雑木林の奥にやはり遺跡の様な、だが都心にあるものとは趣が違うダンジョンの入り口があった。朽ちた仏社に似た和風の要素も感じる。
「低層なら安全だよぉ。」
シンタローが装備を整える中、ユウサクは半信半疑で後をついていく。
ダンジョンの中、低層の「空の階層」は青い空が広がり、浮島が漂う幻想的な世界だった。ユウサクは思わず足を止め、ゲームのような景色に見入った。
遠くで翼の音が響き、目を凝らすと、ドラゴンの群れが浮島の間を飛び交っている。鱗が光を反射し、まるで生きる宝石のようだ。
「こりゃ…すげえ…。」
「ねえ、見とれてる場合じゃないよねぇ。」
呆気に取られたユウサクをシンタローが笑うが、その声が途切れた瞬間、近くの浮島から鋭い怒声が突き刺さった。
「おい、何やってんだ! こっち来い!」
土方企業の親方のような野太い声が響き、ユウサクとシンタローが振り向くと、巨大なエンシェントドラゴンが浮島の上に仁王立ちしていた。
白金色の鱗と知性溢れる目を持つそのドラゴンは、若いドラゴンたちを叱りつけている最中だった。
「テメェら、もっとキビキビ動け! この階層がグチャグチャになったらどうすんだ!」
怒鳴りつつ、手には指示棒のようなものを振り回している。
若いドラゴンたちが慌てて飛び回る中、一匹がユウサクたちに気づき、「親方! 人間がいるよ!」と叫んだ。
「あぁ!?」
エンシェントドラゴンがこちらを睨み一喝。
「うわっ、やばいねぇ。逃げた方がいいよぉ!」
慌ててユウサクの腕を引くシンタロー、だがユウサクはエンシェントドラゴンを見つめたまま動かない。
「…ユウサク…?」
「…こんな幻想的な場所で、ふざけたトカゲに殺されて終わるのも悪くねえか…。」
「ちょっと…!本気!?」
動こうとしないユウサクをシンタローがどうにか引き連れて行こうとしてる内に、凄まじい旋風が吹く。
上下18mはあろうか、ユウサクが子供の頃はまっていたゲームの神話生物が巨大な翼を拡げそのまま2人の前に滞空している
「おいおい、ガキィ。何だぁその目は? 死にに来たのか?」
エンシェントドラゴンが荒々しい口調で話しかけてきた。
「別に。どうせ死ぬなら派手な方がいいだろ。」
ドラゴンは一瞬怪訝な顔をする。
「…ハッ! 変な野郎だなァ。お前、ちょっとこっち来い。」
ユウサクがエンシェントドラゴンに近付くと、彼はユウサクを眺め回して続ける。
「で、何だってんだよ? その死にそうな顔は。」
エンシェントドラゴン。古龍とも呼ばれる神話生物が全身の鱗を白金に輝かせながら、ユウサクに向かって話し掛けてきた。
泣いてる近所の子供に話し掛けるおっさんその者である。
シンタローは眼を丸くするが、自棄になっているユウサクが大きく溜め息をついて答える。
「…ハァ…。仕事クビになったんだよ。ブラック企業でさ、上司がクソで残業200時間とか当たり前で、体壊す前にキレちまって…もう何も残ってねえ。」
黙って聞いていたエンシェントドラゴンは指示棒をユウサクとシンタローが立っている浮島に叩きつける。シンタローが小さく悲鳴を上げた。
「ハッ! そんなクソみてえな会社なんざ捨てちまえ! オメェみてぇな若いモンがそんな顔してたら世の中終わりだぞォ?俺なんか何百年生きてきて、何度も世界がダンジョンに飲まれる現場だって見てきた。それでもこうやって生きてるんだ。オメェもよぉ?そんなくそくらえな目に負けんな!」
古龍が若者に熱弁を振るう。
その言葉に、ユウサクは目を丸くしつつも、なぜか心が軽くなった。
「…おっさん。」
「誰がおっさんだコラ! このドラゴン共の親方だぞ!」
笑いながら返す。
「ふぁ~、びっくりしたぁ。」
シンタローがユウサクの足元に座り込みながら笑った。
空の階層、青い空が広がるダンジョンで出会った。
ユウサクはこの古龍が気に入り始めていた。
数時間後、ユウサクの木造アパートの自室の四畳半で3人──。
ユウサクとシンタロー、それに2m位の人間サイズに自らを圧縮した先程の古龍がゴツいリザードマンの様な風体で、コンビニのツマミとビールを囲っていた。シンタローと古龍の間には先程まで説明されていた現代のダンジョンに纏わる図解が紙に書かれている。
古龍から現代でのダンジョンの扱いを教えて欲しいと言う話が出たので、帰還がてら家に招いたのだ。
「するってェと、オメェら冒険者はこの『市役所』ってとこで登録しとかねぇと、ダンジョンで活動出来ねぇって事か。」
「そうだねぇ~。あ、でも今日みたいに危険度が低そうなダンジョンの入口は自衛隊の警備もないのがほとんどだから。まだまだ例外は多いと思うよ。」
「それじゃ、俺みてぇにダンジョンから出て来ちまう奴は?どうだ?」
「今のところ噂でしか聞かないねぇ~。」
「そうかァ…。」
──、少し考えてから口を開く古龍。
「実はよォ、ダンジョンってのは…。」
古龍がコップに注がれたビールの泡を爪で操りいくつかの泡を一つにまとめる。
「…まぁこんな風に、ある世界が他の世界に重なった事で起きる災害の事だ。オメェらが神話生物とか魔道具って呼んでるのは全部元々他の世界の生き物や科学技術の結晶ってこったな。」
ほろ酔いで頭が纏まらず、黙って聞く事にしていたユウサクに頭にはこの世界の神話にヒュドラやメドゥーサ、目の前のエンシェントドラゴン等が登場する理由に思い当たった。
どうやら同じ疑問をもったシンタローが古龍に質問をする。
「大昔の神話に出てくる怪物は実際に居たって事かな…一度重なった世界は元に戻るの?」
「そう言う何の脈絡もなく他所の世界に渡っちまう奴は言う程珍しかねェなァ…異界渡りって俺達は呼んでるが、そう言う話はどの世界にもあンだろう?
んで、重なった世界が元に戻るのか?こいつが厄介でよォ。
方法は在るのかも知れねェンだが、さっきも言った様にダンジョンには未知の生物、科学技術がたっぷり詰め込まれてるだろ?」
古龍が一つにまとめていたビールの泡が弾ける。それを見たユウサクとシンタローはダンジョンが最終的にもたらす物を何となく把握した。
「…昔よォ、まだケツの青かった俺が資源やら技術やらを重なった世界の連中に解放して、お互いの世界がこうならねぇ様に協力しようとした事もあったンだが…
重なった世界がダンジョンに依存しすぎてダンジョンとの境界が消えちまってよォ。…全部飲み込まれた。
今のお前らの世界も、同じ道を辿るかもしれねえ。」
ユウサクは驚いていた。少し前に現れたアトラクションの様に扱われている遺跡群が、まさかそんな時限爆弾だとは思ってもいなかったからだ。
シンタローが腕を組みながら人差し指を唇に当てる、よく考える時のシンタローの癖だ。
そうして考えてから口を開く。
「なるほど~、じゃあどうしたら注意喚起をこっちの偉い人達に聞いてもらえるかが大事なんだねぇ。それには、僕達をよく知らないといけない。」
なるほどな。ユウサクは素直に尊敬していた、そんな世界に関わる大問題に直面しながらもこの古龍は自分を励ましてくれていたのだ。
素直にこの気の良い古龍を応援する気持ちになっている。
「じゃあちょうど良いねぇ!ユウサクのこのアパートに住みながらこの世界の事を知っていくと良いよ~!」
──んん?、ちょっと待て?
「オイオイ、そこまで世話になるわけには…。」
古龍は遠慮しているが、シンタローが畳み掛ける。
「僕達はおじさんの事をエンシェントドラゴンって知ってるけど、誰も知り合いが居ないのに外で調査なんかしてたら野良モンスターとか思われちゃうよ?
それにユウサクも仕事クビになったばっかりで何しでかすか心配だからさぁ~。おじさんが居てくれたら安心だなあ!」
「そうかァ?…そこまで言われちゃァ、世話になっちゃおうかなァ…。」
古龍は居住まいを正し、ユウサクに頭を下げた。
「よし、兄ちゃん!これからしばらく世話になるぜ!よろしくな!」
困惑するユウサクにシンタローが耳打ちをする。
「(これから再就職するにしてもお金は必要でしょ?冒険者で稼ぐならダンジョンに詳しいこのおじさんが居れば色々助かると思うなぁ。)」
まぁ確かに…。貯金を切り崩してジリ貧になるよりは余裕がある内に出来る事はやっておくべきだろう。
いつの間にか前向きになっていたユウサクが考えている内にシンタローが話を進める。
「兄ちゃんじゃなくこいつはユウサク、僕はシンタローって呼んでよ!おじさんは名前ってないの?」
「俺は%$@>+_ってェんだが…オメェらには発音出来ねぇんじゃねェか?」
「けっけぅーぼぁ」
「カチカチブルル」
…一瞬微妙な空気になったが、シンタローが代案を出す。
「…人柄としゃべり方が泉谷しげるそっくりだから!ミヤシゲって呼ぼう!」
まぁ好きに呼べや、と古龍改めミヤシゲは笑った。
こうして、奇妙なルームシェアと冒険者生活が始まり、四畳半でのほのぼのとした日常と世界の危機が交錯していく──。
四畳半の木造アパートは住んだ事あるのですが、とにかくのんびりした感じの場所だったのを覚えています。あそこもいつかはこういう住人同士の繋がりがあったのかなぁと思いながら書きました!
不定期更新ですが、よろしくお願いいたします!
もう一つの物語、雪と絆の冬物語は予定通り公開していきます!あちら次は4/1夜8時です!よろしくお願いいたします!