85話 大樹の正体と厄介さ
元気な大樹さん。
たまにある前後編なしになります。
突如として大きく割れるような音が響きはじめ、困惑するモルトにフェルとピリン。フォルクとパネットは自身の武器である長杖とハンマーを構え周囲を警戒しだす。
ビシッ…ピキ
またもや何かが割れる音が響き、その音の発生源を探ると――ウィーツさんが今まさに切ろうとしている大樹だ!
「ウィーツさん!」
「あん?なんだい?」
ピシピシ…
細かく割れる音がしだし、パラパラとウィーツさんの近くから樹皮の破片が落ちていってる…急かさないと!
「ウィーツさん!早くそこから離れて!」
「私もそこは危険だと思いますよ」
「旦那までかい?そこまで気にするもんじゃっと!確かに危ないね!」
ウィーツがフォルクからの警告を受けゆっくり退避をすると、ビュオッとそれまでいた場所に太い枝が振り下ろされ、さらに大きくバキバキと音が鳴り響いた。
「若干嫌な予感が…一応アースウォール!」
ズズッと目の前に現れ伸び始める土の壁と共にパキンッ!と高い音が周囲に響く――ドゴン!ガガッ!
ギリギリ出来上がった土壁に硬質なものが突き刺さる…一部貫通してるな。いやー爆発するんじゃないかと思ってたけど対策できてよかっザグ!
『ぴぃ!』
「ロックウォール!」
ゴォン!…カランカラーン……
「……ふぅ。間に合ってよかったよ!怪我はないかい?」
「は、はい」
あっぶねぇ!貫通はしてるけどきちんと防げてるから安心と思ってたら、もっとデカくて尖ったナニカが簡単に突き破ってきたわ…ウィーツさんがこの石壁を作ってくれなかったらどうなっていたことか。というか生成めっちゃ早くない?
「一応と思って準備しておいてよかったよ。魔力の増量による瞬時の生成だから普通の物より脆いのが欠点だけどね!」
「いやいや、それで防げたんだから十分すぎですって」
「それにしても煙いんですけど!周りが何も見えないー!」
「すごい量の蒸気ね。抑えられていたのが一気に解放された感じかしら~」
「して、その中身は…晴れてきましたな。ウィーツ」
「あいよ」
フォルクさんの声がけにより石壁が崩れ、前方に漂う蒸気のモヤが少しずつ無くなっていくのがわかり――なんかこのモヤというか蒸気、スイカみたいな香りがするな――壁があった目の前には飛んできたモノが割れた状態で落ちている。でっけぇ…こんなの土壁で防げるわけないじゃん。
モヤが完全に晴れると共に、中に潜んでいたモンスターが露わになった。蒸気の爆発により炭化した樹皮は綺麗に剝がれ、見えるのは健康そうな茶色の樹皮…こいつ自分の外見も偽装してやがったな!
【エルダートレント・再生変異種Lv?? :木から魔化したトレント種の中でも長く生き残った個体であり、外的要因により再生特化に変異している。トレントの中では高い知性を持ち、魔力の放出を抑える行動や擬態などを行い他の生き物を捕食する。遭遇数が少ないため市場に出回ることが少ないが、魔力への親和が高いため杖や触媒に使われる】
「え、エルダートレントの再生変異種?」
フェルも特異変異種っていうのが書かれてたけど、もしかしてそんなにレアじゃない…いやユニークって書かれてたんだしそれはないか。にしてもエルダーって老齢とかそんな意味だよな?ただ長く生き残って頭が良くなったトレントなんじゃ。ついでに高い知性とか遭遇数が少ないとか書かれてるから、レアなだけとか!
「エルダー!?確かハイトレントのさらに上位種よそれ!」
ですよねー…現実逃避してたけどこれで確定だ。いろんなゲームとかでエルダーって言えば強者の証みたいなもんだしな。
それにレアとか関係なく俺よりも強いってのがわかる要素が1つある――レベル表記が【?】なんだ。何でこんな第3エリアっていう序盤のエリアに居やがるんだ!…隠しエリアだからか。
「まさかのエルダーなのね。ちょっと厄介だわ~」
「それに身体の再生に特化している変異種ですか…これは対策が必要ですな」
「対策ですか?皆さんなら問題なく倒せるんじゃ?」
「普通のやつなら何とかなったさ…ちょいと見てな」
そういうとウィーツさんは少し大きめの手斧を取り出したかと思うと、ブンッ!っと大樹に投げた!
ザクッ!
エルダートレントは下ろした枝を戻すのに集中していたのか、不自然なほどに簡単に切られた。
「おお!ぶっとい幹の端の方だけど切れて…なんじゃありゃ?」
切れたところから逆再生みたいにどんどん直っていくんですけど。
「再生変異種だからね。こんな感じにすぐ塞がっちまうんだよ!」
「ええ!?早すぎませんか?」
「それが対策が必要な理由なのですよ。元々再生能力が高いトレントの上位種であり、さらに再生特化とななるとこの有様でして」
もしかして斧が投げられたってのに何もしなかったのってそれが理由か?もし切れてもすぐに治るから気にする必要がない…めっちゃ面倒な敵じゃん!
「なら魔法でってなるんだけど、困ったことに植物系に効く魔法は私たち持ってないのよ~」
「水や土の上級なんかでも倒せなくはないだろうけど、水はこの熱さで弱まるだろうし…アイツの後ろは傾斜がキツイから、両方とも使ったら山が崩れる可能性が高いのさ!」
土砂崩れの可能性も考えなくちゃいけないってことね。さらに面倒が追加された…
「ただこのまま放置もできないわよね?その魔法って何なの?」
「火魔法ですな。今まで焙られ続けてきた事で耐性はついているでしょうが、最も効果的な筈です」
「火魔法となると…フェルちゃんの出番ね!でも、さっきから姿が見えないんだけど?」
「ここですここ」
俺が指さす先は背中。そこにエルダートレント登場からビビッて一言も発さず隠れてるフェルが居る…今更になって分かってきたけど、好奇心旺盛な割に臆病な所があるな。
――こいつが打開策って大丈夫かね?
フェルは救世主となるのだろうか?
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