73話 制御訓練と空腹
ダメだピリンが止まらない。
嬉々として近づいてくるピリンさんではあるが、フェルとの距離が近づくにつれて鼻息が荒くなってきてる気がする…ここまでかな?
「ピリンさん、そこでストップです!」
「ええ!?ストップって何よ!」
「自分の鼻息の粗さと目の開き具合を自認してください…」
「そんなに激しくは…ありそうね?」
「多分パネットさんが冷静だったら、また一撃食らってましたよ」
いや~こう見ると、改めてプロングさんの雑貨屋裏の畑での行動ってやばかったなぁ…詰め寄り+周囲が聞こえない+変わった動き=俺の暴走ってことになりそうだし多少は反省するか。寝たら忘れてそうだけどな!
「それは嫌だから落ち着くことにするわ…」
『んー?』
「はぅ!?かわいい…」
『むぅ』
スッ
「あぁっ」
ピリンさんが近づいたことによりアウト判定になったのかフェルが俺の背後に隠れた…今気が付いたけどジェットの炎が熱くないな?パーティー内のダメージはないとかか?
「う~ん、ピリンさんもう少し離れましょうか」
「どうして!?」
「フェルの判定が駄目だってのと…その距離で萌えなくなることって出来ます?」
「……今は無理ね!」
「今はってことは時間が経てば何とかなりますかね」
「どれ位掛かるかはわからないけど!」
なるべく早い時間でお願いしたい…何故なら。
「ならフェルの訓練と同時並行でお願いしますね」
『あう?』
「俺も?って顔してるけどお前が一番鍛えるべきなんだぞ。俺はこの村の住民じゃないし、なんなら色んな植物を見てみたいし育ててみたいから他の町に行ったり国を移動したりするんだ…今のままで付いて来れるか?」
『!…』
おおっと固まったぞ。正直この村でやるべき事ってもう無いと言えば無いんだよ。一番重要な魔力草だって花が咲いたりするのは結構先だろうし、宴会が終われば第1エリアを目指して出発する気だ…まだまだ道の植物たちが俺を待ってる!
「どうする?少しなら滞在を伸ばせるけど、結局は慣れないといけないぞ」
『……んぅ!』
悩んだ末に、両手を握ってこちらに顔を上げて力強く返事をしてきた。目にも力が入ってるし頑張るってことでいいのか?
「置いていかれるのは嫌だ!だそうよ」
「お、ピリンさん翻訳ありがとうございます…じゃあ少しずつ村の人たちとも交流してかなくちゃな!」
『うーんぅ!』
「良い!その頑張るって動きは非常に良いわ!!」
『ぴぃ!?』
頑張るぞ!とえいえいおーという動きに感化されたのかまたもや興奮した様子を見せるピリンさん…こりゃ両者ともに前途多難だな。ついでにピリンさんはもう少し離れてください。
その後所々でピリンさんが開放したりしてフェルがビクンと反応することがあったりはしたが、概ね平和的にバーンベリー摘みは進んでいった…まぁ途中で落ち着いたパネットさんによって、また暴走しだしたピリンさんが回収されそうになる事態もあったりしたけども。
『ふ~ぅ』
「お疲れさん。大分荒療治ではあったけどマシにはなったか?」
『う』
まぁそりゃそうだよな。いい考えだと思って実行してみたけど、遠くにいる不審者が近くにいる不審者に変わっただけだったよ…なんなら鼻息が荒くなる間隔が短くなったし悪化した。そんな中でビクリとしながらも黙々と摘んだんだから成長したと言えるんじゃないかな…摘むのに集中していただけかもしれんけど。
あと微妙に脇腹つまむのやめてくれ。ストレスだったのは分かったから…
「最後にピリンさんが摘んだベリーを直接受け取ったし成長と言えるよな?」
『ん!』
「私が試練みたいな扱いなのが納得いかないんだけど!」
「実際凄い動きをしているときもあったし妥当だと思うわ~」
つまみ食いしたフェルがニコッと笑ったときに声を出さないように両手で口を押えていたんだけど、それがボクシングのポーズにしか見えなかったりするもんな。
「大分取れたね!」
「これなら当分積む必要は無いでしょうね」
「それでもまだまだ有りますけど…他は村の人が摘みますかね?」
「多少は摘むでしょうがこの量は必要ないでしょうし、他は食事処での期間限定メニューとして使われるでしょうな」
「腕が鳴るわ~」
「少しは繁殖のために残すだろうけどさ!運が良ければもっと実の大きい木が出来るだろうからね!」
「なるほど!」
ブルーベリーとかの繁殖って挿し木が一般的でほぼ同じ実の生り方になるんだけど、それだと変化がないからな。よりいい品質の物を育てるとなったら種から育てるべきだよな…ただ実が生るまで結構が時間かかるんだけど、農業のスキルとかで何とかなるかな?グロウで芽はすぐに出せるだろうし希望はあるか!
クイックイッ
「ん?どうしたフェル?」
『んーむぅ…』
くぅ~…
「え、もう腹が減ったのか!?」
満腹度を確認してみると既に40近く。ここまで減りが早いのか…
「あら、早めに終わると思っていたからお昼の準備はしてなかったのよね。何か作ってこようかしら〜?」
「そこは大丈夫です。一応作っては来てるので…これです!」
皿が取り出されたかと思うと、その上に乳白色で少し焦げのある小さな円形の物が積み重なっている。
「こりゃなんだい?」
「おやきです!」
そんな訳でおやつはおやきでございます…なんじゃそらって人は次回に軽い説明を入れる予定ですのでお待ちを!
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