72話 背後と不審者
どっちも背後。
ぷ~っと頬を膨らませてベリー摘みを再開させた食いしん坊をよそに、俺はちょっとした危機に瀕していた。――それは
「……パネットさん。何か御用でしょうか?」
気が付いたら背後にパネットさんが居たのだ。しかも大分いい笑顔で!この人が笑顔な時って今のところ良くない時ばかりだから怖いんだが!?
「えーっと、品質の良いものがあったって聞いたから反射的に来ちゃったのよ~…いきなりごめんなさいね」
「さいですか」
気持ちは非常に良く分かるが、音を立てずに背後に立たれているのは心臓に悪いので止めていただきたい…自覚はあるのか、頬を指でかきながら謝ってくれたからいいけども。
「ただ、フェルにも言ったんですけど数が無いんですよね…」
「それは仕方がないわ。その手元にあるような大きさで綺麗に熟してる品質なんて、野生下ではかなり珍しいもの~」
「ですよねーこれはどう活用するか悩むな…」
「一体どうしたんだい?パネットが荒ぶるのは久しぶりに見たよ」
「あ、ウィーツさん」
パネットさんの奇行を見ていたウィーツさんがこちらにやって来た。その横にフォルクさんも居る。
「このベリーがあったのを聞いたからつい近づいちゃったのよ~」
「モルトが持ってるベリーかい?…おぉ確かに他のより大きいね!」
「ただそれを聞いたからと言ってモルト殿の背後を取るのは感心せんがね」
「どうしてもこれだけは抜けないのよね…気が抜けないようにするわ~」
「そこはあたし達も抜けてないから仕方がないね!」
背後に音を立てずに近づくのは昔からなのか…多分プロングさんと同じで旅団の団員だったろうけど、斥候とかが役割だったのかな。
「ま、まぁ害はありませんでしたし…それにフェルも怖がってなかったので大丈夫ですよ」
「なら良いのですが」
「本当にごめんなさいね~」
「問題ないってのも分かったし、戻るとしようか!」
「あ、その前にモルト君に1つお願いがあるのだけど~」
お願い…まぁこれしかないよな?
「このバーンベリーが欲しいとかですかね?」
「……可能かしら?」
「あー、流石に最初の1粒なので…」
「他の場所のでもいいのだけど…どうかしら?」
「それなら大丈夫です!後で摘んだものを分けましょう!」
「本当!?嬉しいわ~!」
一番最初のはコレクションとして欲しいけど、高品質のバーンベリーを使ってさらに良い料理が出来るってんだから断る理由はない…それに親ぐらいの人にしょぼんとした顔されて頼まれたら断りずらいわ!
因みに、バーンベリー摘みを始めてからピリンさんが大分静かなのに気が付いただろうか?そんな彼女だが。
プチップツッ…チラ…プツップチ…チラ…じ~~
「っは!いけないいけない!」
こんな感じでフェルから一番離れている茂みの実を摘みながら煩悩に負けるのを繰り返してる。その光景は間違いなく不審者である…保護者は興奮状態で使い物にならんしどうしたもんか?
「その見られてるフェルは気が付いてないっぽいし」
『?』
「ほれあそこ」
『う?…!?』
やっぱ気が付いてなかったか…でもびっくりした割には隠れる様子もないな?
「あれはいいのか?」
『んー…う!』
「手を広げろって…なにするんだ」
かごに入ったベリーを2つ取り出したかと思うとモルトの手にコロンと接触する形で並べておいた。
『や!』
そして手でバツ印をつくったかと思うと、今度は離れた距離で置き
『あい!』
腕を使って丸印を作った。
「成程?離れてるから別に良いってことか」
『ん!』
コクリと頷いた様子から見て正解なようだ。確かに近くで奇行をしないでくれって伝えてたけど、そこまで離れてもない気がするな?村の外なら自分が飛べて逃げられるってのもあるから許容範囲が広いのだろうか。
「そういや変な行動をしないでってだけで、別に近くにいてもいいんだよな?」
『…う』
若干間があったけど構わないようだ…まぁ突然動く可能性はあるから考えるか。
「ただまぁ…ピリンさーん!」
「はい!?何が御用かしら!?私はベリーを積んでるだけで他は何もしてないわよ!」
それはもう何かしてるのと同義なんよ。取り敢えずその口についてる涎を拭いてくれ。
「そこは追及しないんでこっちに来てくださーい」
「え…大丈夫かしら?」
「変な行動しなけりゃ大丈夫ですってー!フェルも近くに居てもいいって言ってますよー!」
「ならお邪魔するわ!」
欲望に忠実である。
ピリンは真面目なキャラの予定でした…今や立派な妖霊種ジャンキー。
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