65話 鱗の状態と情報逃避
普通の人が出てこないな…
あまりの光景に目を背けたくなったが、考えてみれば俺が不正をしたわけではないし寧ろ良い事をしてるわけだ…でも早いとこ仕舞ってもらおう。麻袋は積みあがってるのに毛皮からはみ出そうな量とか心臓に悪い!
「本当に凄まじい量ですな」
「こりゃアイツは相当重い刑になるだろうね…一先ず仕舞っておくかい?」
「ああ、予備のマジックバックに入れておくとしよう。よろしいですかな?」
「はい!この量を持っておくのは怖いので…」
またマジックバッグに戻すのはごめんだ!
そんな訳で、フォルクさんが既に納戸から持って来ていた手のひらサイズのマジックバッグに毛皮ごと着服金は仕舞われた。あんな小さなマジックバッグもあるのか…ポンと出してきたけど、あれも良い性能してそうな気がするし値段もとんでもないんだろうなぁ。
「さて、これで預かるものは以上ですかな?」
「そうですね。肩の荷が下りた気分です」
いや本当に…あ、そうだ。ついでにこれも見て貰うか…気になってそうだったし。
「預ける物ってわけじゃないんですけど、これで何か分かることってありますかね?」
軽い気持ちでワイバーンの鱗を取り出してみると。
「ほう…こちらはあの時に伺った鱗ですかな?」
モルトの手に顔を近づけ、緑色の卵状でギザギザした葉のような鱗をじっと観察し始めた。手に出した瞬間に目がギラリと光った気がするのは気のせいじゃないはずだ。
「手に取らせていただいても?」
「あ、はい」
言われたままに鱗を手渡すと、さらに食い入るように見始めた…その距離は目に刺さるんじゃないか?
「ふむ、色を見るに属性のあるワイバーンではなく普通個体か。更に濃さから推察するに若い個体…気にするほどの強者ではないが、それだけでは我々が気配を感じなかった理由にはならない。ただこの鱗に傷が一切ない事から、縄張り争いに敗れ弱った状態であの山にやって来た可能性が高い…大きさから考えると首周辺の鱗であると考えられるし――」
…おお、これは熱烈だ。
「こりゃ時間が掛かるよ。鱗の観察のついでにあたし達が見逃してた理由も考えちまってるし」
「実際下位とはいえ竜種が村のすぐ近くに居たわけですもんね。一大事ですよ」
「普通はそうだけど、この村からすればボーナスみたいなもんさ!肉は旨いし他の素材は高く売れる…ついでに旦那の腕試しにもなったろうからね!」
「えぇ…というかフォルクさんが戦うんですか?」
「そうさ。旦那は竜種に憧れを持ってるけど、一番はその強さを求めてたのさ!落ち着いた今でも近くに竜種が現れたとなれば即行動さ…今回はもう逃げちまったのと、プロングがもう山の近くにいたから止められたけどね!」
結構血の気が多いのが判明したぞ…いや、あの体格の村の人たちを率いていた人が弱いわけがないんだけどさ。そして麓にプロングさんが居てくれて良かった、そのまま山頂に向かわれてたら収拾がつかん!
「あの鱗は明日返すのでもいいかい?多分集中しすぎて周りの声は聞こえてないのさ」
「そこは大丈夫ですけど…明日採取に行けますかね?」
「問題ないよ!いざとなったら一撃お見舞いすればいいのさ!」
問題しかない気がするが他に方法が無さそうだと思い曖昧に笑いながらそうですねと頷いて、眠るフェルのが居る部屋に戻りベッドに潜り込んだ。ちょっと身じろぎしたけど起こさずに済んだな。
<ログアウトしますか?>
「今回も色々と濃すぎた…少しリアルで休んでから夕食の準備をするか。そんじゃログアウト!」
MCOからログアウト後、ベッドから起き上がりトイレに行った後に部屋に戻り柔軟運動…それと勿論植物たちに異常がないかを確認…よし、こんなもんでいいだろ!
「ただまだ4時にもなってないし、少し休むって感じじゃないよな…流石に今から下味付けたりしたら漬かりすぎるし」
ならガッツリ休むつもりで掲示板でも見るか…えーっとスマホの方で公式にログインしてと。何かしら面白い情報が入っていないだろうか?
「えーっと何々…ウェンスの第1エリアで妖精騒動か、結構前の情報だしもう片付いてそうだな。次はフィールドはボスを倒さなくても移動可能!?」
これなら割とすぐに合流できるかも…他の奴らも早いとこ会っておきたいしこれは嬉しい。連絡が来てないから全力で遊んでそうだけど、流石に第3エリアを過ぎるってことはないだろ。
「さて次は…ウェンス第2エリアで轟音とともに落石発生。1人が跳ね返そうとしてリスポーン……うん」
ポン
手に持っていたスマホのボタンを押し電源を落とすと、大きく伸びをした後に部屋を出た。
「少し散歩してくるか!ついでにもう少しヨモギと菜の花を摘んでこよう!」
本日何度目かの現実逃避である。
次回微飯テロ回。春の間に上げたかったけどもう夏やん!
ブックマークや評価を頂けると嬉しいです!