60話 料理と葛藤
何故かキャラが濃いよこの親子達…
「さぁ、まずは自慢の料理を召し上がって下さいな~」
その言葉とともに、注文した料理が個々の前に浮遊しながら近づきコトリと置かれた。一旦バーンベリーはしまっておくか…おお、水の入ったコップも零れることなく置かれたぞ。
「俺のもちゃんと出てくるのか」
「当たり前じゃない、注文された料理はちゃんと出すわよ。故意に美味しくない料理を作るのは矜持に反するもの~」
そう言ったプロングの前にはキャロットラペとカルボナーラが置かれている。ちょっとカルボナーラの量が多い気がするのはプロングさんが食べるからってことなのだろうか。
「それとドライアドの…フェルちゃんで合ってるかしら?」
『…』コクン
「ええ、フェルで合ってます…すみません少し緊張してるみたいで」
「大丈夫よ。生まれたばかりの妖精なんだから気にしてないわよ~」
ならば良かったとホッとしたモルト。基本的には優しい人っぽいな…さっきのを見たから少し警戒しちまったよ。
「ああ、そういえばまだご挨拶がまだだったわね、私はそこの頓珍漢の妻でピリンの母のパネットよ~。この豊沃の恵みの店長兼料理長でもあるわ」
片手で手を振りながら挨拶をしてくれるパネットさん。
「こちらも忘れてました…異転人のモルトです。それで先ほども紹介しましたが、ドライアドのフェルです」
『…』ペコリ
「ええ、よろしくね~!」
明るい顔でそう返答してくれるパネットさん…この村の人って良い人ばかりだなぁ。
「それでフェルちゃんのカチャトーラはいつも作っている物より辛くしてあるけど、もし足りなかったり逆に辛すぎた場合は教えて頂戴ね?」
『ん』
「お返事できて偉いわね~」
観察して、この人に危険性はないと判断したのか少し緊張がほぐれた顔で返答した。
「いいわ!その顔もかわいい!」
多分緊張が完璧にほぐれてないのはこの人が原因だろう…めっちゃフェルをガン見してるし。
「ピリンはもう少し落ち着きなさいな。確かに生まれたての妖精は珍しいけど~」
「そうなんですか?それに生まれたてだってよく分かりますね?」
「そりゃ精霊族だもの!中でも私やお母さんは妖精の判別が上手いのよ…お父さんには負けるけど!」
「生まれたての子は物音を伝える意思が弱めなのよね~そこで判断できるのよ~」
成程。便利な種族特性だけど、意志の判別の有無以外にも強度的な物も差があるのか…割とややこしいな。
「というかプロングさんが一番分かるんですね」
「不思議なことにな」
「羨ましい!」
「ならもっと妖精や精霊に出会うこった」
「気合で頑張る!」
「多分無理ね~」
なんとなくだけど俺もそう思います。
追加注文でペペローニ・クルスキとデザートにティラミスを頼み、乾杯をして夕食を食べ始めた。
「あの時フォルクさんの家で頂いたミネストローネも旨かったけど、このラタトゥイユめっちゃ旨いです!」
またもや青いトマトが入って何とも言えない色合いだが、それが気にならないほどの暴力的な旨味!ニンニクにセロリ、そして少量の唐辛子が入ってるのかコクが凄い…そしてブーケガルニの香りも相まってドンドンパンとして頼んだフォカッチャが進む!
「そりゃ高位の料理スキル持ちには敵わないさ!でも旨いと言ってくれるのは嬉しいもんだね!」
「愛情をもって畑の野菜を育てていますからな…これからは魔力も戻りますしさらに美味しくなるでしょう」
「素晴らしい!」
この野菜たちがさらに旨くなるというのか!めちゃくちゃ楽しみだぞ…原因がフェルに無くはないがフォルクさん達は気にしていなさそうだし素直に喜んでおくか。
あ、勿論兎肉のソテーもめっちゃ旨いぞ。付け合わせのザワークラウトの酸味がハニーマスタードのかかったソテーを食べた口をさっぱりさせてくれる…最高だ!
ただ…
『♪~』モグモグ
「じー…」
見てるな。
『…?』モグ…
「じ~~」
物凄く見てる。
「じ~~~…」
『!?』ヒュッ
「あ!」
ピリンさんが隣のテーブルからずーっと見ているのに気が付いたのか、ご機嫌に食べていたフェルが椅子に伏せてしまった…
「お前なぁ」
「だって可愛いんだもの!」
いやまぁ子供が頬張って食べている姿って微笑ましくはあるんだけど、そこまでガン見する必要はないと思うんだ。
「てか接客はどうした接客は」
「お客さんが来たらちゃんとするよ!でもこの時間からはほぼ来ないし~」
だら~んとしてるなー。フェルを見つめようとするのは諦めてないようだけど。
「相変わらずですな」
「この子は妖霊種に出会ったことがあまりないからねぇ…反動なのかこんな感じになったのさ」
「…もしかして出会えたとしても」
「おう、面白いぐらいにおとなしい奴や臆病な奴にしかこいつは会えないんでな。この調子で接しようとするもんだから逃げられんだよ」
あ~…居るよなそういう人。生き物が好きで仕方がないけど、自分の行動が原因で避けられたり威嚇されたりするんだよな…身近に居るからその時の光景が目に浮かぶわ。
「その妖霊種への感情をもう少し抑えては…」
「そうしたいんだけど、偶にしか出会えないし私が会う子って生まれたて程じゃないけど若い妖精だったりするから可愛くて…」
「結果、妖精と共に過ごすためにテイムのスクロールを購入したというのに仲間が居ないのですよ」
「貯めこんだお金を放出してやっと覚えたのに!」
「あたしが言えたことじゃないけど、もっと落ち着くのがいいさね」
「今日はまだ抑えてますー!」
これでも大人しいのか…
近いうちに料理パートが出ることが確定しました。夜食でも準備しておこう…
因みにこのラタトゥイユはニース風ラタトゥイユの方で、カルボナーラも生クリームを使わずチーズが多いローマ風になります。
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