58話 注文と確保
プロング家大集合!
一先ずプロングさんの娘――名前はピリンだそうで、既に成人してるらしい――に奥の席に座って頂戴と言われたので向かうことにした。あ、1つだけ座面が広い椅子があるな。
「この場所はあたしの指定席みたいなもんだね!村以外の客はあまり来ないからこのまま置かせてもらってるのさ!」
「基本は家で作りますが、たまに外食もしたくなりますから」
確かに。俺はそれなりに料理は出来るし母さんに姉ちゃんも出来るけど、外食はまた違うからな…父さんはどうなのかって?あの人をキッチンに立たせてはいけない。
「今子供用の椅子を持ってくるから待っててねー」
「ありがとうございます…というかあるんですね」
「そこの強面の人が幾つか作って置いてあるのよ」
「余計なことを言わずにさっさと持ってこい!」
「はいはい…そうだ、お母さんが何かで呼んでたよ?」
その言葉と共にメニューをテーブルに置き、直ぐに戻ってくるわとキッチン等に繋がるスイングドアに下がっていった。
「おいおい…あいつにもうバレてるってのかよ」
顔に手を当てそう呻くプロング。
「そりゃあんたがコソコソしてたら直ぐに伝わるだろうさ」
「村の話の伝播は早いからな。特にお前さんのことはすぐに広まるぞ」
「俺が何をしたってんだ…」
そりゃ詰め寄ったりとんでもない劇物を作ったりじゃないですかね…まだ出会ってから短い時間ではあるが、直ぐに話が広まるということに納得がいく。今までも変な物を作ったりしてきたんだろうなぁ。
「持ってきたよー!」
振り返ると、まさに幼児用の椅子とでもいうべきな半円状に手すりが付いた物をピリンが運んできていた。
「わざわざありがとうございます」
「いいのいいの!この椅子って子供にしか座れなくてほぼ置物になってるからこういう時に使わなきゃ!」
「ならありがたく使わさせていただきます…ほらフェル、これに座ってみな」
抱っこ状態のフェルを既存の椅子に設置した子供椅子に座らせてみると、気になってはいたのか案外すんなりと納まってくれた…これ何って顔をしてるな。フォルクさん達も座ってるけど、バルク村人達の接近を防いだからなのか緊張せず結構落ち着いてるな。
「かわいい!」
そう少し離れた距離で発するピリンさんは鼻息が荒い気がする…ちょっと危ない人に見えるし、驚いてるからやめていただきたい。
「足が着いてねぇな…」
「まぁ本当に小さい子ですからね」
この体格なのに俺のHPをほぼ消し飛ばしたのだから驚きだ…いや本当に。
俺も席に着きメニューを眺めてみると、かなりの種類があるしその殆どに雑貨屋の畑で育てられてるのだろう野菜や果物の名前が書かれている。
「地場産ってことか」
「ええ、自慢の食材たちですよ」
「兎肉なんかもここら辺で狩ったものだね」
「他の肉にミルクやらは行商人たちから買ったものだがな」
「お母さんが容量の大きいマジックバッグを持ってて、そこに保存しているから鮮度も安心安全よ!」
あ、マジックバッグって物が腐らない仕様なのか。考えてみれば討伐で肉とかが出てくるし、現実よりも3倍で進んでるんだから寝てる間に普通は駄目になるよな。
『む~…』
何やらメニューを見ながら唸っているフェル。言葉は分かってるから文字も分かると思ってたんだけど、違うのかな?
「辛いのはどれか探してるな」
「ドライアドなのに珍しい好みね」
あ、そういう唸りなのね…
「因みにスープはメインを頼むと少し付いてくるわ。今日は村の玉ねぎを使ったオニオンスープね!」
「ここのはきちんと飴色になるまで炒められた玉ねぎを使用されているのでコクもあり美味しいですよ」
「いいですねぇ」
実際にやると飴色になるまで30分ぐらい炒めるのが手間で手間で…レンチンとかしても5分ぐらいしか短縮できんし。でも時間があればやる!その方が旨いからな!
『う!』
「それがいいのか?」
「兎肉のカチャトーラの…えっと、指の場所からして辛くしたいのね?」
『ん!』
「しかもうんとして欲しいと…かしこまりました!」
「じゃあ、あたしもそれにしようかね。ただ辛さは普通でいいよ」
「俺はラタトゥイユと兎肉のソテーで」
「パンはどうされますか?」
3人とも頷いたので追加で伝票に書き留める。
「私はカプレーゼにピラフをお願いします」
「俺はラぺとカルボナーラ」
「かしこまりました!食前酒とかデザートはどうされますか?」
「俺はまだ未成年なので…」
「ではジュースでもいかがですか?キュアベリーの物があったはずですが」
「はい!誰かさんのおかげで常備しています!」
誰かさん…誰だ?流石にプロングさんじゃないだろうし。
「じゃあそれを頂けますか?」
『う!』
「勿論貴方のも…赤い実のがいい?」
食前酒の代わりにあれを絞ったのを飲む気かフェルよ。
「流石にキュアベリーのジュースにしておけって」
『う~』
「メインで辛いのを頼んでるんだから最初から辛いのを飲んだら楽しめないだろ」
『む…ん!』
理解してくれたようだ…もし旨いからこれも飲んでって渡されたらちょっと困るからな。構えておけば普通に飲めなくはないだろうけど。
「じゃあベリージュースにしておくわね…あと赤い実って何かしら?」
「山の麓で採取したバーンベリーですね」
「元々それをここの店主に渡すのも目的でして」
「プロングは隠そうとしたけどね!」
「成程…だからそこで捕まっているのね」
「え?」
ピリンの目線の方を見ると――いつの間にか逃げようとしていたプロングの腕を引っ張っている、コック帽を被ったエルフの女性がいた。
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