57話 緊張と父子
元気な村の人々。
未だにモルトの後ろに引っ付いているフェルを連れながら、一行は村内に入り食事処に向かっていた。
”兄ちゃん無事だったか!”
”村は問題なかったわよー”
”この筋肉で岩なんぞ粉砕してやったぜ!”
うわぁ、見事なサイドチェストだ…あのレベルの人たちがゴロゴロ居るんだから安心感が違うな。あ、体格の良い人たちが集まりだしてポージングを繰り出し始めたぞ。
トントン
『?』
こちらが帰ってくるのを他の村民も心配してくれてたのか色々な人が外に出てきており、こちらも無事に帰ってきたことを手を振りながら示していると、フェルがあれは何なのかと村内ボディビル大会を控えめに指をさしていた。
「あー…あれは、何というか……なんて言えばいいんですかね?」
良いたとえが思いつかないため他の3人に聞いてみたが
「筋肉自慢!」
「脳筋共の馬鹿騒ぎ」
「同好の士の鑑賞会といった所ですかね」
辛うじてフォルクさんの例えが分かりやすいか?プロングさんのはもう悪口だろ…理由はありそうだけどさ。
「うーん…質がいい植物を他の人に自慢してるみたいな感じかな」
「そんなんで伝わるか?」
『ん』
「…伝わったな」
「まぁドライアドだからねぇ」
ちょっと心配だったが無事に伝わったようだ。どちらも育てるってのは変わらないから何とかなったか。
”可愛い子がいるじゃない!”
”妖精か?”
”こりゃ珍しいな!”
背中の蝉を見つけたのか、何人かが近づいてきた。
『!?』
「おおっと」
視線が集まったからなのか背中から腹側に回り、思わず抱きかかえる形になってしまった。
「これこれ、そう何人も近づくんじゃない。この子は人見知りなようでね」
「あんたらはでかくて厳ついのが多いんだから気を付けておくれ!」
”そんならちょい離れとくか”
”ウィーツに言われたかねぇな!”
”言えてる!”
「あんたら…デコピンを食らいたいようだね?」
「これ、落ち着かんか」
バチンバチンと指が鳴るのに慄いていると、プロングがしれっと離れていくのが見えた。
「あ、プロングさんが」
「おや…往生際の悪い」
ごにょごにょとフォルクさんが呟くと、突然ビターンとプロングさんが前方に倒れた…足元に穴が空いたっぽい?
「いってぇ!」
「逃がさんよ。というより、今教えなければ悪化するのは目に見えているだろうに」
「それでも俺は独占したい!」
「全く…縛って連れていくぞ?」
「……それはもっと洒落にならんことになるから御免だな」
縛られた後のことを考えたのか此方に戻ってきた。何故そんなに食事処に行くのが嫌なんだ…店主は怖い人じゃないって話なのにおかしいな?
”またなー”
”慣れたら顔を見せて頂戴ね!”
そんな言葉を背に食事処に向かうこと10分程…因みにフェルは抱っこのまま運んでる。背中の時からそうだけど、かなり軽いなー。
「ここが食事処だよ!」
「一応豊沃の恵みという正式な名前が有りますよ」
「俺の店と同じで、覚えるやつがいねぇがな」
あ、ちゃんと名前が有ったのね…この感じからして、プロングさんの店も元はちゃんとした名前が有ったんだろうな。
外観は村の住宅と同じく石を使ったものとなっているが、横に長く窓も大きく取られており開放感がある。他にも木製のプランターに植えられたコスモスやケイトウが店の前に等間隔に置かれており華やかさを演出している。この感じ、季節ごとに置く花を変えてるかもな…手入れもされてるし好感が持てるぞ!
このお店若干奥まった所にあるから気が付かなかったな…山の上から見てもプロングさんの火事場の煙突とフォルクさん達の村長宅、それと教会ぐらいが目立って少し大きいぐらいの建物は気にならなかったのが悔やまれる…この花壇を見逃すとは不覚!
丁度お客が帰る所だったようで、入れ替わりの形になった。この人も大分体格の良い人だな…口元に尖った牙が2本あるし猪系の氏族の人だろうか。
胸元に小さな円と大きな円が重なり繋がったネックレスを付けていて、フォルクさんにそれを持って挨拶していったから村の教会の人かな?こちらにも挨拶をしてくれたけど、かなり腰の低い人だった。
「邪魔するよ!」
カラーンという音を鳴らしながら一行は店に入っていく…入るときに気づいたけど、この店のドア大きいのと普通のがあるな。ちゃんと背の高さというか各種族に対応させてるってことか。
店内は暖かな光のランプで照らされ、落ち着く雰囲気を醸し出している。複数台のテーブルと1列のカウンターがあり、複数人や1人でも気軽に入れるようになっているらしい。
「いらっしゃいませー!あれ?村長さんたちどうしたの?」
店の中には店員なのだろう耳の尖った少女が1人片づけをしていた。
「山に行ったモルトが心配で外で待ってたもんでね…夕食の準備をしてなかったのさ!」
「それに、ここにはご案内する予定でしたので」
「モルト…?あっ、異転人の方ね!こんばんは!」
少し横にずれて会釈すると、話が広まっているのかすぐに思い出したようだ。
「ええ、こんばんは…どうしました?」
腕輪を確認して頷いたかと思ったら、抱っこをしているフェルを見て目を輝かせ始めた。
「妖精だ!しかもドライアド!」
その言葉とともにこちらに近づいてくる…が。
「そこまでだ」
いつの間にかプロングが店員の前まで移動しており、道を塞いだ。
「なんでよ!」
「あのドライアドを見てなんも思わんのか?」
「何も思わないのかって…」
視線を向ける少女に反応して、少し身じろぎするフェル。
『…う~』
「……もしかして…嫌がられてる?」
「そのもしかしてだな。嫌われたくなかったら近づきすぎないことだな」
ナイスだプロングさん!ちょっと服を引っ張られ始めたから助かった…
「は~い…お父さんを怖がるどころか少し懐いている気がするのが納得いかないけど」
「失礼な奴だな。誰が怖いって?」
「その凄んだ顔が怖いって言ってるの!」
なんだか微笑ましい光景が繰り広げられて――お父さん?
「お父さん?」
「ええ、彼は所帯持ちで彼女は娘なんですよ」
「あたしらよりも結婚は早かったね!」
「言ってなかったか?」
何も聞かされておりません!
そんなわけでプロングの娘が登場!
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