55話 下山と迎え
称号はどこまで増えるのだろうか…
ついでに俺もバーンベリーを取り出して渡してみたところすぐに手に取って食べだしたので、フェルの好物は辛いものっぽい…まぁペッてされて無駄になるよりは全然いいか!
『ん!』
「まだ欲しいのか?もう山を下りるし、後でこれを使って何か旨いものを作るから我慢しな」
『む~』
貰えないのがわかったのか不満そうな声を上げたが、旨いものというのが気になったのかそれ以上催促することはしなくなった。ただプロングの方をちらっと見ているので、こっちで強請れば貰えるかもと考えてるかもしれない…たださっきとは違って勢いがないためか行かないようだが。
「かなり懐かれてんなぁ。妖精が言うことを聞くのは好かれている証拠だぜ?」
「嬉しいことですけど、何でここまで懐かれたのかは分からないんですよね」
「そりゃ簡単だろ。ずーっと独りぼっちだったのを救った奴に懐かねぇわけねぇし、それに」
「それに?」
「精霊の加護にゴブリンの恐怖なんてものを持っていたら、精霊や妖精達からの印象は最初からバカ高いぜ?」
ああ、そんなのあったなぁ…ついでに新しく増えたんだよなぁ。
【特異な絆:ユニークモンスターを戦闘行動なしでテイムをした際に贈られる称号。珍しい出来事に出会いやすくなる。スキルポイント2追加】
鑑定スキルを取得したからかスキルポイントの項目が増えてるな。これでチュートリアルやゴブリン狩りで2ポイント多かった謎が解けたぞ…そして珍しい出会いは嬉しいかもしれんが、植物系だけにしてほしいなぁ。
『う?』
「ちょっと考えていただけだよ。早いとこ山から出よう」
『んー』
山の方に指を向けた後に少しホバリングを緩めた。
「こいつはもう少し居てもいいってよ」
「フェルは火と熱耐性か高いから余裕でしょうね…でも長居するとプロングさんはもう一度耐性薬を飲むことに」
「早いとこ戻るぞ!団長たちも待ってるからな!」
やっぱり辛い物苦手なんだな。
<フェニス山からファティリ村へ移動しました>
そんなエリア移動の表記が現れ、フェニス山の赤い景色から抜けたモルト一行。
「これで薬の効果が切れても一安心と。ただ、気温が変わったのが認識できないですね」
「そらあの濃縮薬を飲んだらそうなるだろ。ここもまだ暑いと言えば暑いからな…効果は発揮されるんだよ」
「結構範囲広いんですね…」
現実の世界で欲しいぞこの薬。これがあれば夏場とか余裕で過ごせるじゃん…でもその度にあのフルーティーな後味辛めの穀物茶を飲むのは微妙な感じだ。濃縮薬?あれは人が飲むもんじゃない!
「それと外に出ても景色が赤いので、戻ってきた実感が湧かないです」
「今は夕方だからなぁ」
無事に戻っては来たが、外の景色もまた赤い…現在時刻は18時30分。もう夕食も間近といった時間だ。
”戻ってきたかい!”
「え」
その声が聞こえた方向に振り向くと、バーンベリーの茂み付近にウィーツとフォルクの2人が立っていた。
「待ってるって聞きはしましたが、まさかここに居るとは」
「いや、本当は村の門で待っているはずだったんだが…ここまで来ちまってたのか」
「私も最初の内はそのつもりでしたよ」
こちらに近づきながらそう話すフォルク。
「門もこの場所もそんなに変わりゃしないさ!誰か来たとしても何となく気配でわかるさね!」
「この調子でしてね…まぁ私もワイバーンが居たとなれば心配になりまして、ここまで来たのですよ。それに山から岩も落ちてきたとなっては、村で大人しくしている必要はないでしょう?」
「そこは大人しくしてほしいんだがなぁ…」
頭を掻きながら苦笑するプロングさんを見て、昔からこんなことがあったんだろうなと思うモルト。
「そうだ、落石はどうなりましたか?畑に被害が出たんじゃ」
小さい石だったりが畑に落ちたって話だし、是非お手伝いをさせて欲しい。
「少しは落ちてきたけど丁度作業中だったからね。砕いて土に混ぜてやったよ!」
「あの山の石ならば土壌に悪いことにはなりませんからな。ただ一応ということで途中から物理用の結界を張って対処しましたが」
「雑貨屋の畑は元々その結界を張ってるから被害はゼロだぜ!」
もう終わっちゃってたか…まぁ修復は早い方がいいもんな…農業スキルはいつ上げられるのか。
「それで、モルトの後ろに居るのは誰だい?」
「後ろ…あぁ」
振り向いてみると、蝉の幼虫のような状態で背中に引っ付いているフェルが見えた。若干ぐずってるようにも見えるし、どうしたもんかな。
少し辛いぐらいで暑さに耐性が出来るのなら私は欲しい…
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