54話 人見知りと好物
早いとこ山からは出したい…書いていると私自身が暑く感じるのです。
5分ほどかけて腰のタオルの染みは血じゃなくてバーンベリーの果汁だということを説明したが…結局はそのタオルをフェルに渡し恐る恐るその部分を確認したところ、これは血じゃないとやっと分かったようだ。
「最初からこうすりゃよかったな」
「ですね…ベリー系の香りがするから一発で血じゃないって判断できますし」
『むー』
「なんか不満な顔をしてるけど、種の時に震えてた耐性薬の原料の1つはこの汁の実だぞ」
『!!』
肩越しにそう教えると恐る恐るモルトの左横にやってきて、ポーションベルトに付いている瓶を指さした。
『う~?』
「そうそれ。因みに作ったのは、今目の前にいるプロングさんだぞ」
『!?』
随分と驚いた顔をしてるな…まぁ製作者がすぐ近くに居たらびっくりするよな。姉ちゃんが、イベントで制作物のご本人に会うのはテンションが上がるって言ってたし。
「つってもお前さんが持ってこなけりゃ作れなかったがな」
「でも近いうちに見つかっていたとは思うんですけど…」
「そうでもないぞ。山は冬にしか近づかんし、そっちにばかり目が行って周囲を見るやつなんかほぼいねえからな」
そんなもんか。でも結構赤と緑のコントラストが強いから分かりそうな気も…いや山という圧倒的な赤が有るから目に入らんか。
『……』
「このドライアドはどうしたんだ?俺の周りを飛んでるが…というか本当にドライアドでいいんだよな?」
「突然変異種らしくて、最初から火魔法とかを覚えてるんですよ。他にもいろいろ使って飛んでるみたいです…周りを飛んでるのは耐性薬の製作者だから気になってるんじゃないですかね」
つかず離れずのの距離をぐるぐる回ってるのがちょっと面白い。
「おいおい突然変異ってことはユニークだろ!?それに火魔法を覚えたドライアドとは、随分と珍しい個体を引っ掛けてきたもんだ…テイムはしてあるのか?」
「ええ、きちんとテイムをしてフェルって名前をつけました」
『うー?』
「あん?」
フェルがプロングの目の前で止まったかと思うと、先ほど受け取っていた布を手に持ち見せだした。
「これの実を持っているのかって?そりゃマジックバッグに入れたまま来たからな…たんまりとあるぜ」
ニヤっと笑いながらあの赤い実を取り出すプロング。あれも濃縮されるのだろうか…こう見るとサンザシやクランベリーの実なのに、辛いんだよなぁ。
『ん!』
「1つくれって…お前の主人も持ってるんだが。まぁ取りきれんぐらいあるから構わんが」
中々に図々しいなフェルよ…というか
「言葉が通じてる?」
「そりゃ俺はドワーフだからな。言葉が拙かろうと何となくわかるぞ」
「え、結構すごいことでは?」
「別にそうでもないぞ。ドワーフ以外にも精霊族の奴らの中にはそれなり理解できるのがいるからな」
「そんなもんですか」
てかドワーフって精霊族ってやつなのか…いやそれでも凄いよ。多分種族スキルなんだろうけど普通の人が理解できない言葉が理解できるんだから、精霊族のプレイヤーは精霊や妖精のイベントの時とかかなり有利なのでは?他で釣り合いは取ってるんだろうけど…俺のレベル上げみたいに。
パクッ
「あ!」
「おい!そいつは結構辛いぞ!」
ピュン!
受け取ったバーンベリーをコロコロしていると思ったら、いきなり口に入れたので声を上げてしまった。特にプロングさんにびっくりしたのか俺の後ろに戻ってしまった…やっぱ人見知り?
ぷるぷる
むぐむぐと噛んでいると思ったら、ぴたっと止まり体を震わせている。種の時もこんな動きしてたけど、やっぱあの時から味覚がある?いや辛味は痛覚だっけ…てかまた震えるならなんで食べたんだ。
「言わんこっちゃない…ほれ、この布に出させてやれ」
プロングが新しい布を取り出しモルトに手渡した…俺もこういう布は持っていた方がいいかもな。味見をした植物がとんでもなく渋いとかあるかもしれんし。
「ありがとうございます。フェル、ここにペッってするんだぞ」
興味本位で食べたんだろうが、これに懲りたらいきなり食べるとかはしなくなる――ゴクン。
『ん~~!!』
ビュンッ ヒュンッ
「あれ?」
まさかのそのまま飲み込んだと思ったら、興奮したように腕を振りながら周囲を飛び交っている。しかもとてもいい笑顔だ。
「えーっと…もしかして気に入った?」
『ん!』
近くを飛んだ時に聞いたところ、笑顔が強くなった…マジかー。
「この顔からしてそうだろうな…俺は勘弁願いたいぜ」
プロングさんあんな恐ろしいものを作った割に辛いの苦手なのか…もしかして麓付近で合流したのって、耐性薬を飲むのを渋ってたわけじゃないよな?
フェルの好物判明!
そして地味に役に立ち続ける称号たち。ここまで意味があるものになるとは考えておりませんでした!
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