40話 建前と入山
前書きが思いつかん!
取り敢えずクエスト以前に魔力草の畑の復活はする気満々だったので、村民が眺める中で依頼を引き受けると宣言し、渡された依頼書に名前を書き終えると<クエストを受領しました>と表示が出た。
”頼んだぜ!”
”団長の演説なんて久しぶりに聞いたなー”
”あっちぃから気を付けろよ!”
”俺たちは畑を綺麗にすっかね!”
そう口々に話しながら、村民たちは自分たちの家に戻っていった。
「そんじゃ、あたしたちも始めようかね!」
「これ、その前にモルト殿が採取するのが先だろうに…しまった、皆にそのことを伝え忘れていましたな!」
「いやいや、ここだけで十分広くて色々採取できそうなんで大丈夫ですよ!」
そうですかな?と聞いてくるフォルクと遠慮することはないよ!と笑うウィーツを見て、今まで通りに戻ったなぁと思うモルト。じゃあさっきの演技は何だったのだろうか?
「ったく、相変わらず念入りだなぁ?」
「あ、プロングさん」
「おう、3日ぶりだな」
他の皆が去っていく中、一人残っていたらしい。
「普通、依頼なんざ内容を見せて納得がいったら名前書いてはいお願いしますねってなもんだぜ?だけど、わざわざ村の奴らを集めて演説をして依頼をしたわけだ。なんでだと思う?」
「何でか…その方が盛り上がるとかですかね?」
「それもあるな。だが一番の理由は大義名分ってやつだな」
大義名分…正当な理由とかそんな意味だっけか?
「言っちまえば、本来は領主に入山の許可を取る必要性があるが畑を早急に復活させるという理由をもって、代理でよそ者に入山の許可を取るが構わないかってのを団長が今やったわけだよな?」
「…そうなるんですかね?」
「ええ、簡単に言えばそうなりますね」
「そんでお前さんは指名の依頼として村の奴らの大半が肯定的な状態で受けたわけだ…こうなりゃお前さんは大手を振って山に入ることができるってわけよ」
「はぁ~、なるほど!」
扇動みたいなもんか?若干の政治臭を感じるような…気のせいか?
「まぁそいつが力のあるものだったりすると使えない手だけどね!この村なら面白そうなことには乗っかる気風だから何も問題はないんだけどさ!」
「後はケツ叩きのためだろ…随分と眉が下がって不安そうな顔をしてたもんな?」
「…そこまでは言わなくていいのですよ」
「久しぶりにやりたくなったのもあるね!」
そこまで考えられた演説だったのか…そして不安なのが完璧にバレてたよ!
「えーっと…ありがとうございます?」
「まぁ元気にはなったみたいで良かったよ!」
「では畑に戻りましょうか?植物たちが待っておりますよ」
「了解です!」
「プロング、お前さんはどうする?」
そうフォルクが目を向けながら声をかけるが、プロングは苦笑しながら首を振った。
「あー…俺は仕事があるからな。雑貨屋に戻るわ」
「そうかい!」
「そうだプロングさん!後でポーションを追加で買いに行きまーす!」
「おうよ!待ってるぜ!」
そう返事をして雑貨屋に戻っていくプロングと畑に戻る3人。
少し経ち、雑貨屋の前に立ったプロングは
「――他にゃもしご領主様の怒りに触れたとしても、指名依頼をした団長が責任を取るってのもあったんだが…まぁ、団長に言わんでいいってされちまったしなぁ」
それにまだ若そうだしなと呟きながら、ライフポーションを追加生産しようかねと中に入っていった。
畑での野草採取を終え、2人や他の村民からの応援の声に見送られながら焼山のフェニス山に続く門を抜けたモルトは、やけにキラキラした顔で鼻歌を歌いながら向かっていた。
「アキノノゲシ、オオバコ、ギシギシ!セリにベニバナボロギクとユキノシタ!ついでにあったぜウマゴヤシ!」
何の呪文だと思われることだろうが、一応植物の名前を連呼しているようだ。
「結構畑に食べられる野草があったなぁ…イタドリも生えていたけど、それはまた春にどこかで収穫しよう…ウィーツさんが外に生えてるって言ってたし!」
ダチュラ(チョウセンアサガオ)やドクゼリもあったけど、それらはウィーツさん達と半々に分けた。プロングさんが錬金によって薬に出来るってのと、肉などが食えないモンスター討伐用の塗布毒として欲しいのだそうだ…元々2人の畑なので全部持って行ってもかまわなかったのだが、使う機会があるかもしれないと分けてくれた。今度ゴブリンで試そう!
そんな物騒なことを考えながらも山に近づいていくと、気温がじわじわと上がってきて空気もカラッとしてきたのを感じる。
「でも、びっくりするぐらい暑いってことはないんだよな…不快って気温じゃないし」
あついから気を付けろと言われたがそこまでではないのではと拍子抜けをしているモルトだが、流石に山のすぐ近くまでやってくるとじわっと汗が流れて来るのを感じた。
「おおう…流石にここまでくると暑いな。そこに生えてるキュアベリーも暑さから炎みたいな色になって…」
あれ本当にキュアベリーか?周りのキュアベリーと比べるとあまりにも鮮やかな赤色なんだけど…
「まぁ、取り敢えず山に入った後にでもゆっくりと採取するか!ここに来るのは今は俺しかいないんだから観察し放題だぜ!」
そのためにはまず真面目に探索をしなくちゃなとフェニス山に入山していった…
数十秒後
ザザ!
物凄い駆け足で麓まで戻ってきたモルト。その顔は茹ったように赤くなり、滝のような汗を流している。
「熱い!!?」
どうやら気温で済ませられるレベルではなかったようだ。
まぁ、焼けまくっている場所に何の対策もせずに行ったらそうなりますよね…
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