32話 姉と夕食
現実パートです…初手漢詩!
仮想不覚暁 仮想暁を覚えず(四つ葉探しで)
処処聞啼狼 処処啼狼を聞く
今来我姉文 今来我姉の文
雷落知多少 嫌な予感しかしねぇぜ!
そんな孟浩然が生きていたらあっつあつの茶をぶっかけられそうな五言絶句を頭の中で作り出しながらも、急いでファティリ村に戻ってゆくモルト…何故押韻が出来ているのか。
銀月がきれいだなぁ――あ、ゴブリンの群れだ。
ザシュ!
ギャ!? ギャギャア!?
「ヨシ!」
駆ける直線上に居たゴブリン1体のみを傷つけ、恐慌状態にさせた隙を狙って横を駆け抜けてゆく。やっていることが通り魔。
「急げぇ!確か部屋の鍵も掛けてねぇんだ!」
そのまま走り抜け、藪の間の道を抜けながら大鎌をマジックバッグに仕舞って村までたどり着き、迷わずウィンドウを開きログアウトを押した。
<ログアウトを開始します>
「怒ってないといいなー」
あの通知数の数からしてその希望は通らなさそうである。
ログアウトから目が覚め、急いで横を確認すると――姉が机の上で育てているハーブのポットの1つを掴んでいる所だった。
「バジ郎に何をするだぁ!?」
「何をって…ただ眺めていただけよ。相変わらずこういう栽培はきちんとしているわよねー」
「あったりまえよ!自分が育てている植物は最高のコンディションにしておきたいからな!」
ブルーベリーは枯らしたのにって?人は自然には勝てん!
「それを他のことにも気にしてくれたらいいのに…私へのメールの返信とかね~?」
気のせいでなければ笑顔の姉ちゃんの背後に黒い雲と雷が見える…ひ、人が起こした自然現象なら勝ち目が
「取り敢えずそこに正座」
「はい」
勝ち目はないですね。
"ちょっとーリビングにタンポポを置いたままほったらかしにしているのは誰かしらー?"
「あ、母さん帰ってきてんだ」
「ちょっと前にね」
"誰も来ないのなら捨てちゃうわよー"
「アカン!俺の天ぷらが!?」
「……夕飯の後にきちんと話してくれるのなら解放してあげるけど?」
「隅々まで話させていただきます!」
お手本のような姿勢で膝の上に手を添えて頭を下げる。
「ならいいわ」
「あざっす!」
ガタッ!―バタン!
「さぁて…言質も取ったし私も早く下りないと。にしても相変わらず植物がいっぱいの部屋ね…1個ぐらい癒やしとして持っていっても…面倒事になりそうだし、せめてちゃんと聞いてからにしようかな」
キィ
「……あんた何してるの?そんなにゆっくりじゃ本当に捨てられちゃうわよ?」
姉の目の前には正座から起き上がって直ぐにドアに向かったかと思うと、変わった姿勢で少しずつ2階の廊下から階段に向かってゆく耕司の姿が。
「ぜ、全力で正座をやっていたもんだから血の巡りが悪くなっていたみたいで…足が痺れた」
これは間に合わんかもしれんね。
結果的に、姉にタンポポを守ってもらうように頼み込み捨てられるのだけは回避できた。
「ただ、なんで天ぷらじゃなくてお浸しになってんだ?」
「今日のご飯はカレーだから付け合わせにいいと思ったの。それに今から天ぷらの用意をするのは面倒よ」
「私はお浸しの方がカロリー少ないし大賛成ー♪」
「くっ!多数決には勝てんか…今度はもう少し前にログアウトしなくちゃなぁ」
そう言いながらも、タンポポの葉を塩を一つまみ加え沸騰したお湯に入れてゆく。1分から2分ほど湯がいたら、箸などで取り出してボウルに張っておいた水にさらす…ここで水に漬けておく時間が長いほど苦みが抑えられていくから重要だぞ!ただ長すぎても栄養が抜けちまうから苦味が好きなら1分から2分、そんなになら5分程度がおすすめだ!
カチャン…ガチャ
"ただいまー"
「父さんも帰ってきたか」
「それじゃあ食べる分をよそってテーブルに運んで頂戴」
「「はーい」」
父親が部屋に仕事道具を片付け席に着いた頃には、夕食の準備はすべて整っていた。
「お、いい香りがしていたから分かっていたけど今日はカレーか!」
「愛情込めて作らせて貰いましたとも!」
「嬉しいねぇ…明日も頑張れるってもんさ」
「明日は休みでしょ♪」
「そうだったそうだった!じゃあ何処かにデートにでも行こうか?」
「嬉しい!桜を見に行きたいと思っていたの!」
そう話しながら食事をしながらも自分たちの世界に入ってゆく夫婦。
「いっつも思うんだけどさ」
「なに?」
「ここまで仲がいいのに、何で俺の弟や妹は居ないんだろうな?」
「それは私も疑問に思っているわねー。妹がいたらもっと楽しかったのかなぁ」
「それ俺が苦労するだけな気がする…お、今回のお浸しは良い具合だな」
これぞ滋味深いって味わいがする。
「私はもう少し苦みが少ない方がいいかなーもっと水に入れおいてくれたらいいのに」
「この苦みが残っているからいいんだろうに。タンポポの苦みはダイエットにも良い成分が含まれてるぞ」
「うっ…このままでいいです」
「私もこのままでいいわー」
さらっと母さんが砂糖空間から帰ってきた…いつの世もダイエットに良いものは大事なんだな。
「目は口程に物を言うのよ?」
「気を付けます!」
「ははは、耕司はもっと女性の心を覚えないとなぁ」
女性の心より植物の心の方が知りたいとか言ったら、説教されそうだからやめておこう…
こんな甘々夫婦にしたのは誰だぁ!いや本当に何故がこうなっていました…私が胸焼けするので今後の両親の登場は少ないかも?
タンポポってかなり生命力が強く全草(花・葉・根)が食べられるのですが、ブタクサや菊にアレルギーがある人や犬の散歩コース、工場近くやその近くの土手とかに生えているのはなるべく食べないでおこうね…場合によってはアナフィラキシーや重金属中毒になる可能性がありますので。
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