120話 油生成と人影
便利だけど不便。
幸薄疑惑のフェルを連れて他にも逃げ遅れたモンスターがいないか探しまくったが、残念なことに追加でこちらを認識して逃走を図るゴブリンが1体いたのみだったので、少し白んできたタイミングで村に戻ることにした。そのゴブリン?さぁ――首から上が焦げて油臭かったとだけ言っておこう。
「にしても油生成で出したのって残らないんだな」
エルダートレント戦の後に失敗した壺の落下地点を見たときに染み込んでいなかったから疑問に思ってたけど、今回の戦いでハッキリしたよ。
『まーぅ』
「魔力で作ったものだから役目を終えると消えんのね……便利すぎんか?」
『ふむ!』
もう帰るだけということで、俺の肩に跨ってきたフェルがどうだ凄いだろうとドヤ顔をしてくるが実際凄い。だって地面に染み込まなければ植物たちに悪影響はないし、油物を作る時に出してもらえば処理に困ることもないんだぞ?
「フライとか作る時には食用油を頼む!」
『むぅ…んぅ!』
何?どんな油なのかわからんと……確かに実物がなけりゃどうにもならんか。スキルレベルで増えた油も少し燃えにくいとか曖昧な説明しかなかったもんな。
「それならパネットさんの所で見せてもらえないか朝食の後に頼みに行くか」
フォルクさんたちの所のキッチンでもいいんだけど、豊沃の恵みの方が使う油の種類とか多いだろうし。ただ料理人のキッチンって大事な場所だし入れてくれるかな?もし渋られたら例の苗を1本渡すのもやぶさかではない……いやこれは渋りたいか。
『ぺーくぅ!』
「あの唐辛子のスナックがまた食いたいのか。いやあの時結構な数を服に仕舞ってなかったか?」
『んぅ~…あぃ!』
ゴソゴソと服のポケット中をまさぐったがどこにもないそうだ…食うの早いな。
『んぬ?』
「どうしたフェル」
『ぬー』
「前に人?」
村近くまで戻ってきたところでフェルにそう言われた。といっても満月近くで空が白んできているとはいえ、影の多い夜に人は見えないんじゃ――居るなそこに。
「普通はあんな風にランタンとか持ち歩くよな」
ノーマ草の茂みが生え始める辺りに1人立っているのがはっきりと見える…前方を見ずに地面の野草探ししてたから全く気付かなかったわ。
「にしても微動だにしないな?」
恐らくこっちを見ているんだろうけど、ランタンの火の揺らぎがあるだけで動く気配がない。それにシルエットから見ると少し腰を屈めているような…警戒されてる?
「何でだ?」
『やぅーあむ』
真夜中に明かりを持たずに村に近づくのなんて怪しいって……その通りですねはい。
「フェル、一瞬飛んでくれ」
『む?』
「お前のことは村の人たちに伝わってるからそれで一発でわかるだろ」
『うぬ!』
そういうことならと俺の肩をまた踏み台にしてジャンプし、ジェットで蜂のように飛んだあとまた戻ってきた。
「んぐっ!勢いが良すぎだぞ」
『んふ~』
それぐらいいいじゃないかって…まぁ確かにダメージはないけどさ。
「お、ランタンを振って反応してくれてる」
前方にいた人がやっと動きを見せてくれた。というかこっちに近づいてきている?
「いやーすまんね!村の英雄さんを警戒しちまうとは」
そう言って近づいてきたのは、何度か村でも見かけた気がする馬獣人の若く見える男性だった。気のせいじゃなければ筋肉自慢の中にも混ざっていたような…
「お、君もこの筋肉の良さがわかるかい?」
「まぁ…きちんと鍛えられているんだなとは思います」
必要な所を鍛えている仕事人の筋肉って感じがする。特に脚の筋肉が凄まじい…樹齢のある木の幹ぐらいあるぞ。
「嬉しいことを言ってくれるね!プロングさんなんかは脳筋だなんて言ってくるのに。あの人も中々の物を持っているのになんで嫌がるんだろうか?」
多分暑苦しさじゃないですかねと、あの時に緊急開催されたバルク大会を思い返したモルトであった。
キレがありすぎる村民達。
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