115話 カウントと任務確認
顔をキリキリと動かして母さんの表情を確認した姉ちゃんは、どうしても仕上げたい物があって予定より時間が掛かってしまったと言い訳をしたが、尚も表情の変わらない母さんを見て
「すみませんでした…」
素直に謝ることにしたようだ。
「よろしい。もっと踏ん切りをつけなさいな…睡眠不足はお肌に大敵なのよ?」
「うっ、気を付けます」
まだ母さんも含めてそこまで気にする必要はないと思うんだが、言葉にするのはやめておこう。なので微妙にこちらを見るのはやめていただきたい…何も言ってないだろうに。
「まぁまぁ、母さん。たまにぐらいならいいだろう?」
「そうですけど、この子は注意しないと遅くまで作業をしちゃうのは分かってるでしょう?あの時のミシン事件を覚えてるでしょ」
「それを言われると弱いな…」
その時のことは俺も覚えてるな。ド深夜に隣の部屋から叫び声が聞こえてきたと思ったら、姉ちゃんが寝不足が原因で思い切り縫いをミスった声だったんだ…幸いミシン針で指が縫われる事は無かったけど、あの時の母さんの怒り様は凄まじかった。
「えーっと……ご馳走様でした!」
旗色が悪いと察したのか、一気に残りの朝食を掻き込み食器をキッチンに運んだかと思うとそう言って2階に上がっていく…敵前逃亡は重罪だぞ。
「ははは。流石に掘り返しすぎたかな?」
「別にいいんじゃない?多少は薬になるだろうし」
「そうね。ちゃんとご飯を食べてるし徹夜ではなさそうだわ…それでもカウント1ね」
おっと手厳しい…このカウントは長い休みの時に夜更かしや遅くまでに家に戻ってこなかった場合等につくペナルティだ。仏の顔も三度までって事で4貯まるとアウトでその時にハマっている事を1週間禁止される…3アウトでもいいんじゃないかと言ったけど、三度目の正直という諺があるけど二度あることは三度あるってのもあるから仏になった……3年前のミシン事件によって姉ちゃんが自制のために作った我が家の条例だ。ただ自分で言ったのに3回は大丈夫ってのが油断を生むのか、休みの間はちょくちょくカウントが増えてるんだよなぁ。
「因みに耕司もカウント1入ってるわよ」
「ワッツ!?何故!」
「昨日のタンポポね。テーブルの上にほったらかしなのはまだいいとして、葉の中にアレが潜んでたじゃない」
「ああ芋む「2にするわよ」以後摘むときは気を付けます!」
「よろしい」
ちょっと理不尽じゃなかろうかとチラッと父さんを見るけど、苦笑いしながら首を振るだけだった…こうやって俺のカウントもたまに増えるんだ。
その後、また摘みに行くときはキチンと1枚1枚の葉の裏とかも確認しないと思いながら食事を終えた耕司は、食器を片付け2階の自室に戻ると日課を終えスマホを確認し始めた。
「たまには公式の更新情報も見ておかないとな…お、掲示板のタブがその他じゃなくて独立したのか」
実際いちいちその他から入るの面倒だったからこれで楽になるな。俺は落ちる前に確認するぐらいだけど、人によっては逐一確認するだろうから不便で仕方なかったろう。
「他はレイドボス称号系アイテム配布とレアスキル取得時の修正?あー、そういやエルダートレントの時何もなかったな。んでレアスキルは体がピカッと光るのがびっくりするし、戦闘フィールドで取得することがあってモンスターに気付かれると。ついでに周囲のプレイヤーにバレて群がられるのね…あれ?」
魔力視さん?あなたレアスキルだったんですね……確かに消費スキルポイント多かったけどさ。
「そうなるとレアスキルのことはまだいいけど、称号はまた掲示板が騒がしくなりそうだ。一応確認でも――いやそれよりもログインしよう」
俺はレイドボスの全体アナウンスなんて聞いてないし、この修正が俺関連なのも気のせいだよ。それにエルダートレントなら魔力が豊富な土地で長生きしたトレントって感じだろうし第1エリアや他の国でもいるだろうしソッチさ。リザルトに思いっきりレイドボス初討伐って書かれてたって?キノセイキノセイ。
「さぁそんな事よりも重要な確認をしなくちゃな!MCOに接続!」
略語でも直接インできるってのは便利だなー。そう思いながら全体アナウンスの件を思考の隅っこに追いやった。
<ベッドの上でログアウトしたため、ステータスが6時間の間1割上昇します>
<エルダートレント戦の際に獲得した称号の記念アイテムを配布いたしました。この度はご迷惑をおかけいたしました。引き続きMystical Code Onlineをお楽しみいただけると幸いでございます>
「よし無事ログインっと。ただまだ早かったな…こっち朝の3時前じゃん」
外が雨だったこともあり、野草採取が出来ないので少し情報を確認して時間が経ってからから入ろうとしたのだが、再びレイドアナウンス情報の捜索とのコメントを見て即ログインしてしまったので未だに日も上がらない時刻に入ってしまった。そして例のアイテムたちがマジックバッグに来たみたいだな…まだゴブリンのも確認してないぞ。
「まぁこの部屋なら防音だし外へ出るドアもあるし、フォルクさんやウィーツさんに迷惑はかけないか。なら用事を済ませて狼やゴブリン狩りにでも……ただその前にフェルよ」
『…んぅ?』
「近くないか?」
『んぬぅ?』
ログインして目を開けると、目の前に広がるオレンジの髪。そして声をかけたことによりこちらを向いて眠そうに開かれた赤紫の瞳をした顔。寝ぼけながらもそうかな?と疑問を持ってるみたいだが明らかに近い…枕の上で器用に寝転がるとか猫かお前は。
「というか鍵を閉めて落ちたはずだけどどうやって開けたんだ?」
確か家の中なら行動できるから、昨日寝るときはフォルクさんたちの寝室に行ったはず…
『あぅ』
これがあると言って完璧に目を覚ましたフェルが指をさすのは、首からストラップで下げられた銀色の鍵。
「そういやプロングさんに鍵の複製頼んでたっけか。大きさは変わらないけど本当に軽いのかそれ?」
『ん~…あぃ!』
かなり軽いけど、実際に持ってみてと外して手渡された。おお、流石は昔の日本でも軽銀と呼ばれたアルミニウムを使っただけあって見た目より軽い。というか軽すぎる気がする…これ何か付与されてないか?ピリンさんがナニカした可能性が浮上してきたぞ。
「まぁ楽になったんだしいいか。ほい返すぞ」
『あぃ』
「それでだフェルよ、一昨日言った任務は覚えているかね?」
『んぅ!』
頭からストラップを被って下げなおしながらも返事をしてくるし、ちゃんと覚えてくれていたようだ。
「よし、なら……今更だけどこんな深夜に起こして大丈夫だったか?」
『んやぅ。うぁ!』
基本そんなに寝なくても大丈夫と。なんなら1週間ぐらいなら何の問題もなし!そんなにインできんて。
「であれば早速、昨日の朝食から夕食までのメニューと味の感想を聞こうじゃないか!」
『んー!』
これを聞きたくて楽しみにしてたんだ――楽しみにしすぎて昨日寝るのが遅れたのは母さんにバレずに済んだな。
旅行前眠れないタイプ。
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