93話 土煙と合体
オーバーキルは続くよエルダートレント君!
パラパラ……
土煙が出る勢いの衝撃が辺りを襲うと、ウィーツの周りに蔓延っていた根がぐにゃりと下に折れ曲がった…どうやら相当なダメージが入り根での攻撃を維持できなくなったようだ。
「ぷへぇ…土煙やら木屑が口に入っちまったじゃないか。あたしが飛ばしたからって当てつけかい?」
「そんな調整が私に出来るわけないでしょウィーツちゃん」
そんなことを言いながら、衝撃の原因のパネットが根を弾き飛ばしながら近くまでやって来ていた。
「相変わらず戦闘となると雑だねぇ」
「私が繊細さを発揮するのは料理に関係する時だけだもの~。戦闘は全てパワーで解決するのが一番いいのよ~」
「そんなんだから自分で肉を集められないんだろうに。兎を攻撃したら爆ぜるってのはおかしいんだよ普通!戦闘が得意じゃないピリンが付き合わされるのが不憫だよ」
「食材入手はあの子のパートナー探しの一環でもあるからウィンウィンだから問題ないわよ~」
「まったく…煙が晴れてきたね」
土煙が完全に晴れるとそこには――バッキバキに罅と凹みが入った切り株の姿が。
「ありゃ酷いね」
「でも十分力は抑えて叩きつけたのよ~?」
「そら本気だったら切り株の下の地面まで割れるだろうからねぇ。そうなったら山崩れどころか噴火する可能性もあるもんさ」
「一応薪になるって考えながらやったのが良かったのかもしれないわね~。動物みたいな敵だとこうはいかないわ~」
こりゃ当分ピリンの苦労は続きそうだねと首を振った後に再び切り株を注視する。どうやらまだ核は無事なようで、少しずつではあるが罅を塞ごうと再生していた。
「まだ生きてんのかい。エンシェントとかじゃないってのにタフなもんだよ!」
「多分限界まで端に核を移動させていたんでしょうね…ただ治りが遅い気がするからダメージ自体は割と入ってる気がするわ~」
「まぁ放っておいたら戻っちまうだろうね。んで、ここからは確か…お?」
ゴオオォォ…
次の行動を思い出していると、後方から激しく火の燃える音が近づいてくるのを感じた。
”ウィーツさーん!パネットさーん!”
’んぅー!’
さらに同じ方向からモルトとフェルの声が近づいてきている。
「ああそうだ!こっからは主役のご登場だね!」
「話を聞いた時は出来るのかと思っていたけど、結構上手くいっているものね~」
2人して振り向くと――背中にフェルを搭載し飛行しているモルトが猛スピードで迫ってきていた。
ウィーツが伐採したのと同じ頃、モルトは目の前で繰り広げられる寸劇のような光景に呆然としていた。
「自分でこの作戦を組んだけど、ここまで凄いことになるとは…もうオーバーキルじゃないか?」
さっきは俺たちの牽制は必要だったのか?と思ったが、そもそも俺たちが必要ないんじゃないだろうか。だってあのバカでかい樹を一刀両断したばかりか斧をぶち当てて吹き飛ばしたんだぞ?あんなんもう一回切り株になった方に振り回せば解決ですやん。
「いやまぁ、あんな斧がでかくなるようなスキルがポンポン打てるわけないか…」
それに1回限りなのか両断した後は元の大きさに戻ってたし…事前に聞いていたとはいえあの後根が這い出てきたのはびっくりしたな。ここも危険なんじゃと身構えはしたけど特に出てくる気配がないし、あれは根本付近の太い根だけが出来る芸当なんだろう。
「それに吸収するはずの根を使ってるから最終手段に近いんだろうな。あ、パネットさんが出てきた」
轟音を響かせながらハンマーが振り下ろされる。うん、なんも見えねぇ!土煙が凄い!
「と言ってもここからやることは決まってるんだけど」
ピュン!
『うぁ!』
「おお、お帰り。その様子だと十分な効果があったらしいな?」
『んぅ』
「じゃあ早速やるとするか…ログが出てないからエルダートレントは生きてるだろうしな。――フェル!蝉合体!」
『やー!』
戻ってきてからキラキラと目を輝かせたフェルが俺の背中にぎゅっと張り付く…蝉で通じたよ。
「ちゃんと掴めるか?」
『あぃ!』
「……一応聞くが操作はできるよな?」
『……あぅ』
「なんだその微妙って感じの返答は。まぁいいや、出力増加!」
『んやぁ!』
気合の入った声が背中から聞こえたかと思うと、フェルが飛ぶ際に使っているジェットの音が大きくなっていき段々と体が引っ張られる感覚が増えてくる…そして。
「お、おお?」
ふわっと体が浮いた。
「な、なんか変な感覚だな。フェル大丈夫か?」
『あぃ!』
元気な声が返ってきたから大丈夫そうだ。
「よし、ならもう少し上に飛んで…そんぐらいだな――んじゃ切り株に向かって出発!」
『うぁう!』
ギュン!
「はっや!ピリンさんに風耐性付与かけてもらったのが助かるわ」
途中で風の抵抗のこと言ってくれたのが効いてるぜ…おかげでこんなスピードでも話せる。
「お、ウィーツさーん!パネットさーん!」
『んぅー!』
途中から土煙が晴れており2人の姿が確認できたので声をかけておく。ミスった場合のリカバリーが必要だからな!
「ところでフェルよ」
『んぇ?』
「これ止まれる?そんで本当に操作できるか?」
『……む!』
背中からぶんぶん首を振る感官が伝わってくる。そうか無理かぁ…
「誰か助けてくれ!」
フェル式ジェット推進。簡単に言うと直線番長。
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