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過ぎたるは尚及ばざるが如し  作者: こーひーさまー
第二章 倭の国ブシドー編
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04 Boy meets girl

「ここは?」

 目を開くとそこは小高い丘の上のようだった。数メートル先に崖があり、その手前には1本の松の木が生えていた。崖下からは何やら人の声が聞こえる。サトシが恐る恐る四つん這いになって覗いてみようとすると

「どうやら合戦中のようですね。いっちょ参戦しちゃいましょうか、サトシ様!」

 唐突に真横にムッシュが現れた。

「何言ってんだよ! 俺はそんな戦闘狂じゃないっての。それより何だあれは?」


 武士と思しき者たちが向かい合って、前衛で刀を、後衛で弓と弓矢を防ぐための大板を持って戦う中、一際、異彩を放つ存在がいた。桜色の侍装束を身に纏い、刀を差した女の子。年の頃18歳ほどだろうか。

 他の武士が甲冑を身に付け重装備で戦う中、その軽装具合にも驚いたが、特筆すべきはその人間離れした動きにあった。居並ぶ武士たちを次々と刀でなぎ倒し、弓矢を刀で弾いていた。


「某は『日の本藩』村雨家の子チヒロ。通告もなしでの此度の一方的な侵略、断じて許さぬ。死にたくなければ速やかに立ち去れ!」

 チヒロと名乗りを上げた少女は敵陣に単身突入し、自分よりも一回り以上も大きな武士たちをものともせずに倒していく。

「かっこいいですね~」

呑気な感想を漏らすムッシュ。


 状況から、サトシから見て左側にいるチヒロ率いる紅色の甲冑に身を付けた軍団が、200メートルほど後方にある木と藁でできた柵で囲われた集落を守っているようだった。対して、サトシから見て右側にいる敵方の軍団は黄色の甲冑を身に付けている。戦況は一進一退だが、やや紅色の軍団が優勢のようだった。


 そのとき、黄色の軍団の後方で動きがあった。

「おい、黒玉。あれって、まさか!?」

「・・・・・・」

 返事をしないムッシュ。

「悪かったよ、ムッシュ。あれって機関銃だよな?」

 武士4名がかりで運ばれている漆黒の兵器はどうみても機関銃のようであった。左右に大径の車輪が取り付けられており、引きずるように運ばれていた。

「ニャンとまー、そのようですね。この時代にはまだ存在しないはずなのですが。それに、このままだとあの子恐らく死んじゃいますね。」

 あっけからんと言うムッシュ。それに対して焦るサトシ。賢者マーリンから託された使命は、この世界、この時代には見合わぬ事象が現在起きており、何者かの介入が疑われるのでその調査をしてほしいとのことだった。そして、現在、目の前に存在するこの時代にはそぐわぬ兵器『機関銃』。


「んー、初っ端から戦になんか関わりたくないけど行くしかないか」

 へっぴり腰ではあるもののサトシが戦場に飛び込む決意をしたと同時に、機関銃の発射用意も済んだようであった。

 如何に優れた身体能力を有していようと、既に数十名の敵兵を倒し、消耗していたチヒロ。膝立ちで息を整えていたそのとき、自分の前方の敵が急に左右に分かれ、敵陣後方から機関銃が放たれた。


「危ないっ!」

 キンキンキンキンキン。

 チヒロの目の前にはバリアを張る見慣れない服装をした男、サトシがいた。

「ふー、何とか間に合った」

 崖の上にいたサトシであったが、思い切って飛び降りてみたところ、全く問題なし。身体能力も大幅に強化されており、そのまま猛ダッシュでチヒロの前に駆けつけた。


「面妖な奴、次弾装填急げ!」

 敵軍の大将と思われる人物が機関銃の弾込めを急がせている。

「あなたは?」

 突然目の前に現れたサトシに問いかけるチヒロ。

「話は後ですにゃ! サトシ様、せーのでいきますよ」

「「ファイアアロー!」」

 2本の炎の矢が放たれ、機関銃の操作をしていた前方の武士2名に当たる。あまりの痛みに、のたうち回る武士たち。


「何をやっておるのだ、こうなったら儂自らケリをつけてやる!」

 敵将は懐から和紙に包まれた『深緑の丸薬』を取り出した。ごくりと飲み込んだ途端、ミシミシと軋むような音を立てながら体格が2倍ほどに巨大化した。溢れんばかりの筋肉で、軽々と機関銃を持ち上げ、弾倉を取り付ける。

「くたばれ、日の本のうつけ共ー!」

 ガガガガガ。

 大幅に身体強化された力を上手く制御できないのか、それとも薬の副作用で精神が錯乱しているのか、乱暴に機関銃を左右に振り回しながら行われる乱れ撃ち。


「貴様ー! やめろー!!」

 味方が次々とやられていく状況に取り乱し、単身突撃を図るチヒロ。敵将の巨大化に呆気にとられていたサトシであったが我に返り魔法を放った。

「何でもいい、止まれ、止まってくれ≪スロー≫」

 ガッガッーーガッーーー・・・・・・。

 敵将の動きは緩やかになっていき、地面を滑るかのように、高速でジグザグ走行をするチヒロに弾丸は当たらない。

「村雨流奥義≪一の太刀 一本桜≫」

 敵将の懐に入ったチヒロは、居合いの構えをとると、気合い一閃、飛び上がり、胴体を真っ二つに切り裂いた。

 ズズーン。

 既に劣勢だった上に、指揮官が倒されたことで撤退を開始する敵軍。

「何とか、なったかな?」

 冷や汗をぬぐうサトシであった。


◇◆◇


「姫様、この度はまっことありがとうごぜえました」

 村人からの姫様呼びに笑顔で対応するチヒロ。

「それにしても『月影藩』の奴らの泡を食ったような顔といったらなかったでさー」

 敵軍をひとまず追い払うことに成功したチヒロ率いる『日の本藩』の武士たちは、隣接していた柵で囲われた集落で一旦腰を落ち着け、村人から歓待されていた。

「姫・・・・・・いえ、チヒロ様。この者たちはいかがいたしましょうか?」

 先程とは対照的に、部下の姫様呼びには断固拒否とでも言わんばかりに般若のような表情をチヒロは浮かべた。

「後で某が直々に取り調べるから放っておけ」


 そこには縄でくくられ、しょんぼりとした様子のサトシとムッシュの姿があった。

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