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白い結婚なんて平民にはありませんけど?

 エリックさまの動きは早かった。


「……と、いうことでキミたち、白い結婚をしないか?」


 しかし何事も、早ければどうにかなる、というものではありません。


 前回の訪問から十日程度しか経っていない、ということを考慮すれば予測できたことですが、少々油断していました。


 村の神殿にお茶会セットを広げて、私とイジュを呼びつけたかと思うと、いきなり結婚しないかと話し出した王子さま。


 唐突です。


 私はエリックさまが「うまいことやってあげるよ」と言っていたので、何かしら根回しして、それから絡めとるように話が動いていくと思っていたのに。


 とんだ力業です。


「急な話でイジュ君には悪いが……まずは、白い結婚ということでどうだろうか?」


「平民に白い結婚なんてありませんけど?」


 エリックさまの言葉に、私はちょっとイラッとしました。


 神殿に持ち込まれた椅子に座っているエリックさまを向かいに座ったまま半眼上目遣いで睨んでやります。


 このくらいは許されるでしょう。


 誰も許してくれなくても、私が許しますのでオッケーです。


 私とイジュが一人掛けの細いワイヤーフレームの椅子にそれぞれ座り、小さなテーブルをはさんで正面にエリックさまが長い足を優雅に組んで座っています。


 訳も分からず呼び出されたイジュは、私の横でカチンコチンに固まっています。

 

 テーブルには上質な紅茶やお菓子が並んでいて、キラキラ光る王子さまが正面にいる光景はとてもお洒落なものですが、話している内容がトンチンカンです。

 

 午後のティータイムは少し眠たくなるものですが、寝ぼけていやがるのでしょうか、私の上司は。


 エリックさまは良い方ですが、男女問わず恋に積極的であったりなど極端な所があります。


 行き遅れだ、と揶揄されたからといって、いきなり結婚というのも短絡的ですし。


 ましてや白い結婚の提案なんて、平民にしてどうするんですか?


 やっぱり王子さまは世間知らずだ、と言われてしまって終わりじゃないんですか?


「あ、そうだ。言い忘れてた。アマリリスには爵位をあげるから、キミも貴族だよ」


「は⁈」


 変な声が出ました。


 爵位をくれるなんて話は初耳ですし、そんなホイホイ貰えるものなんですか?


「キミは聖女として立派な働きをしてくれたからね。それこそ、ほら、行き遅れになるくらいに」


 エリックさまはニヤニヤしてやがります。


 ホント、悪い王子さまです。


「爵位といっても男爵なんだが。私のもらった爵位のひとつを、キミにあげるよ」


 気軽なプレゼント感覚で爵位をあげる王子さまがいるなんて、この国は大丈夫でしょうか?


「キミは知らないみたいだけど、聖女は退職時にそれなりのモノをもらうのが普通だ。死ぬまで聖女を務めるものだって、神殿から役職をもらって待遇は上がっていく。結婚して退職する聖女の結婚相手は、爵位持ちがほとんどだしね」


 あー、そんな感じでしたね。


 自分とは関係ないと思っていたから忘れてました。


 貴族でない場合も、商会の跡取りと結婚とか、それなりのお相手と結婚していました。


「神殿や王族が間に入って、聖女にふさわしい嫁ぎ先を用意していたんだ。キミは早々に王都を離れたから詳しくは知らないだろうけど、聖女を辞するならそれなりの待遇を用意しよう」


 エリックさまはニコニコしているが、腹の中はどうなのか分からない。


 私が男爵になったとして、どう変わるのでしょうか。


「貴族の仲間入りをすることになるが、男爵程度なら義務はさしてない。でも領地を与えるから、それなりの収入は期待できるよ。聖力をなくしても生活には困らないから安心して」


 そこは、あまり心配していません。


 コツコツと貯めたお金がありますし、いざとなれば……あ、冷静に考えたら、聖力を失くした私に出来ることはたいしてないです。


 いざとなったら刺繍をした物を王都で売ろうと思っていましたが、聖力がなければただの刺繍なので価値はありません。


 畑仕事をするといっても、体力がありませんから作物を売るほど作れるとは思えないですし。


 ここは大人しく爵位をもらっておいた方がよさそうです。


「領地経営のことは心配しなくていい。こっちで上手くやっとくから。キミは爵位を使って商売なりなんなりしたかったら好きにしていい」

 

 なかなかの放任主義です。


 我が国の王族は大丈夫なのでしょうか。


 まぁ、いいです。


 問題はこちらです。


「イジュ君。アマリリスと結婚してくれるのなら、キミにも何かご褒美を用意しよう。白い結婚で構わないから、あれこれ陰口を言われているアマリリスを助けると思って結婚してくれないか?」


 エリックさま、私は投げ売りされている気分を味わっているのですが、気のせいでしょうか?


「あっ……あの……」


「引き受けてくれるよね?」


 エリックさま、圧が強いです。


 イジュは大きな体をガチンと固め、どう返事をすべきか迷っているようです。


「あの、エリックさま……」


 私が勝手に話を進めようとするエリックさまを止めようとした、その時です。


「お受けしますっ!」


 イジュがガチガチに緊張したまま、叫ぶようにして言いました。


 私は驚いて体ごと隣に向けました。


 真っ赤な顔をした彼は、緊張で強張った話し方でしたが、自分の意志をしっかりと伝えてきます。


「結婚のお話、お受けします。オレ……いえ、えっと……私、は……アマリリスと結婚、したいです……」


 最後の方の言葉は消え入りそうな大きさでしたが、確かにイジュは私と結婚したいと言いました。


 聞き間違いではありません。


 私と結婚をしたい……。


「そうか、そうか。アマリリスと結婚してくれるのか」


 エリックさまはニコニコと上機嫌です。


 私はボーッとして雲の上にいるように実感がありません。


 えっ? 結婚?


 イジュと?


 本当ですか?


 あぁ、神さま。女神さま。ありがとうございます。


 私……幸せになります。

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