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理解のあり過ぎる王子さま上司

「アマリリスは考えすぎなんだよ」


 エリックさまはそう言いますが、私にはそう思えません。


 私がもっと早くに聖力を使えるようになっていたら、と思わない日はないのです。


 なのに、エリックさまの考えは違うのです。


 クスクス笑うエリックさまを上目遣いで睨んでやりましょう。


「過ぎ去ってしまったことはね、アマリリス。もう変えようがないんだよ。でも未来ならば変えられる」


「それは分かっております」


 過去を悔やんでも意味はないのだ、と繰り返しエリックさまは私に言うのです。


 それは子どもの頃から何度も何度も言われてきました。


 でも、私は思うのです。


 もっと早く、せめてもう少しだけ早く聖力を使えるようになっていたら。


 イジュだけでなく、その両親も救えていたのではないかと。


「後悔なんてものに意味はない。努力するための理由にする価値はあるけどね」


 他人の犠牲を努力の糧にするのは嫌です。


 ですが、それを糧にして私が成長してきたという事実はあります。


「キミは考えすぎなんだよ、アマリリス。人間ごときに出来ることなんて限られている。そのなかで、幸せになるための努力をたくさんすることに意義があるんじゃないか?」


 エリックさまの言うことにも一理あります。


 私なら助けられたのだ、と考えてしまうのは驕り高ぶりであり傲慢さの現れです。


 それでも……と考えてしまうのは私の弱さ。


 その弱さゆえに、イジュに対して感じる必要のない後ろめたさ。


「私なんて王子といっても、自分で決められることなんてほとんどない。結婚も、仕事も上から言われるがまま従うしかないからね。自由なんてなんにもないよ」


 でも、エリックさま。


 エリックさまが男女問わず、年齢幅も広く、色々とお楽しみになっていることを、私は知っています。


 ですからそんな風に『やれやれだぜ』という雰囲気を出しキラキラしながら頭を振っている姿を見ても、同情もしませんし、惹かれもしません。


「ねぇ、アマリリス。人生なんて短いんだ。有意義に楽しく生きることを考えたほうがいい」


 エリックさまは『楽しい』に寄りがちな生き方をされていますけれど。


 おっしゃることは一考の価値がありますね。


 私が有意義に楽しく生きるためには、どうすべきなのでしょうか?


 今でも十分に楽しいですし、有意義な人生ですけど。


「キミが聖女として一生涯を独身で過ごすというのは尊い選択ではあるが。果たして幼馴染の方はどうかな」


 ……あっ。


 私、イジュが結婚することについて考えたことがありませんでした。


 それは地位も財産も持たない彼のところにお嫁さんなんて来るはずがない、という前提があってのこと。


 それはとても失礼な考えなのですが、私にとっては安心材料となっていました。


 しかし成長した彼は……地位も、立場もなく、財産もこれといって持ってはいない男性ですけど、十分に魅力的です。


 私が独身を貫いたとしても、彼が独身を貫くとは限りません。


 イジュが誰かと結婚?


 私以外の誰かと家庭を作る?


 その光景を想像すると心の中がざわざわします。


 ざわざわ、ざわざわ。


 この不快感を、私はどう扱ったら良いのでしょうか?


「私が思うに、キミはあの幼馴染と結婚したらよいのではないだろうか?」


「イジュと私が結婚⁈」


 エリックさまがニヤリと笑う。とても悪い笑顔です。


 私は再びカップを口元に運んで紅茶を飲みました。


 少し冷えていて味は落ちてしまいましたが、ちょっと熱くなった体にはちょうど良いです。

 

 エリックさまはニヤニヤしながら、私を見ています。


「幼馴染をどこかの誰かに取られるのが嫌なら、キミが結婚相手になったらいい。そうすれば、村の聖女に対して陰口をたたく者たちへの意趣返しにもなるではないか」


「それはそうですけど……」


 私とイジュが結婚なんて。


 そんなこと、どうすれば実現できるというのでしょうか。


「なに心配は無用だ。私の方でうまいことやってあげるよ」


 エリックさまはそう言うと、右目でパチンとウインクをする。


 そういう所がモテる秘訣でしょうけど、ちょっとムカつきます。


 エリックさまは、どうやってうまいことやるつもりなのでしょうか?

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