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聖女の過去

 私は濃いピンク色の髪と、赤味の強いガーネット色の瞳を持って生まれてきました。


 特徴的な色のおかげで、私が聖女であることは周知の事実となったのです。


 いずれは王都の神殿に迎えられる聖女さま。


 私の将来は、村の者たちがみんな知っている事実となりました。


 田舎の村からしたら王都の、しかも神殿に迎え入れられるということは大きな出世です。


 羨望のまなざしを向けられても仕方ありません。


 しかし、同じ村に住む者たちから向けられる羨望のまなざしは、幼い私にとって居心地の悪いものでした。


 聖女の力は土地に影響しますから、畑仕事などは手伝えません。


 そうなると村でのほとんどの仕事が出来ないことになります。


 自宅では掃除洗濯など手伝えることはやっていたのですが、外から見たら私は何もしていないように見えたことでしょう。

 

 しかも私の力が発動するまでには時間がかかりました。


 それでも聖女候補であることに変わりはなく、神殿からのお使いはやってきます。


 エリックさまのように王族の方もきましたので、村の人たちからの注目度は高かったのです。


 そんな私に向けられるまなざしに嫉妬の色が強くなるのには、そう時間はかかりませんでした。


 同年代の子供たちから仲間外れにされるなど意地悪をされるようになった私を、兄や姉と共に優しくかばってくれたのがイジュです。


 幼馴染で少し年上の彼は、よく日に焼けた大柄な子供でした。


 子供ながらに男臭くハンサムな彼の背中に庇われるのは、私にとって心地よく。


 彼が私にとって特別な存在であることに気付くのには時間がかかりませんでした。


 私は聖女としての力が目覚める前に、彼への気持ちに気付いていたのです。


 そんなある日のこと。


 国全体を覆う結界が緩み、私たちの住む村に魔獣が侵入してきたのです。


 今にして思えばネズミ程度の小さな魔獣でしたが数がとても多く、当時の私たちは抗う術を知りませんでした。


 小さくても数多い魔獣は、逃げ惑うばかりの人々に容赦なく襲い掛かります。


 後から知ったことですが、この時、王都神殿の聖女さまが何人か流行り病による体調不良で倒れていたのだそうです。


 大きな結界は些細な変化で重大な結果をもたらします。


 イジュの両親は、私とイジュを庇って魔獣に襲われました。


 それは恐ろしい光景で、あっという間にイジュの両親は動かなくなってしまったのです。


 私は八歳。イジュは九歳。


 死が分からない年ではありません。


 逃げなければいけないのに、目の前で両親が殺されたイジュは固まったように動きません。


 だからといって動けずにいたら、次に殺されるのは私たちです。


 私はイジュの腕を引っ張って逃げようとしましたが、いくら引っ張っても彼を動かすことはできませんでした。


 魔獣たちの赤い目が、次の獲物として私たちを捉えました。


 その時です。


 私の聖力が発動し、白い光として放たれました。


 その結果は実に優秀で。


 あっという間に魔獣たちを殲滅することができたのです。


 残った村人たちは涙を流して喜んで、私を褒め称えました。


 ですが。


 私は、大切な人たちを守ることができなかったのです。


 そのことを責める者は誰一人としていませんでした。


 イジュも私を責めたりしていません。


 ただ一人。


 私自身を除いては、誰も私を責めることはありませんでした。

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