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行き遅れ聖女の結婚騒動  作者: 天田 れおぽん @初書籍発売中


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39/40

変わっていく髪の色

 私の髪の色は、日を追うごとにピンク色が薄くなっていきます。

 

「だいぶお腹が大きくなったな」

 

 イジュは、自宅の椅子に座ってボコンと突き出たお腹をさする私の姿を見て、目を細めています。

 

「ええ。お腹の中で大騒ぎしてるわよ、この子」

「え?」

「ほら、ココよ。触ってみて」

「……ホントだぁ」


 私のお腹を触って、胎児の動きを自分の手のひらで感じたイジュの表情が、キラキラと輝いています。

 本当にかわいい男性(ひと)です。

 私はイジュの大柄で精悍な見た目とのギャップに、日々やられています。

 毎日のように愛しさが募っていくので困ってしまいます。


 村の人たちの様子もだいぶ変わってきました。

 私が男爵になったり、領主になったり、村長になったりといった肩書のこともそうですが。

 髪色の変化が何をもたらすのか、改めて感じるところがあったようです。


 この村から聖女が消えます。


 再び結界が緩み、魔獣が出ても対処してくれる者はいません。

 その事実の重さに、ようやく気付いたみたいです。


 結局、村長とその娘であるメアリーの行方は分からず、彼らの取り巻きたちは立場をなくしていきました。

 メアリーの取り巻きだったアンヌとレナは、売られるようにして裕福な商家へ嫁いでいきました。

 裕福な商家は嫁入り先としては良いのでしょうが、アンヌは子持ち中年の後妻ですし、レナの夫は相当年上ということで好条件とは言えないようです。


 ほかの、村長やメアリーに媚を売っていた人たちも、なんとなく肩身の狭い思いをしているように見えます。

 私は取り立てて思うところはないのですが、なんとなく自分達で感じるところはあるのでしょう。

 自業自得なのでフォローはしません。


 いまの私の髪色は、少しピンクがかった金色です。

 聖力も衰えてきましたので、もう魔獣と戦うのは無理だと思います。

 ですが、クヌギ村から聖女が消えるかどうかは謎です。

 私のお腹にいる子は、おそらく聖力を持っています。

 なんとなくそう感じるのです。


 ですが、今は内緒にしておきましょう。

 

 聖女という存在が身近でなくなる恐怖を、少しは味わえばいいんじゃない⁉


 と思っているからです。

 もしもお腹の子が聖女であったなら、私よりも尊重されて欲しい。

 幸せであって欲しい。

 そのためには村の人たちに、ちょっとしたスリルを与えることもやぶさかではありません。


「男の子かな? 女の子かな?」

「どちらかしらね?」

「アマリリスには、分かってるんじゃないの? なんといっても聖女さまなんだし」

「ふふふ。聖女の力は万能ではないわ。それに、私の力は薄れてきているもの」

「でも、オレにとってアマリリスは永遠に聖女だよ」


 そう言いながら、イジュが私の手をとって、その甲にキスを落としました。

 

 ……こんなキザな真似、誰に教わったのでしょうか?


 でも私が永遠に聖女なのだとしたら。


「早く出ておいで、おチビちゃん。パパといっぱい遊ぼうね」


 キラキラした笑顔で私のお腹に耳をあてている、この愛しい人が幸せでありますように、と祈り続けることでしょう。

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