予算は正しく使いましょう
私はメアリー。村長の娘よ。
綺麗な金色の髪に澄んだ青い瞳を持つ、スラリとしたスタイル抜群の十九歳。
クヌギ村という田舎に住んでいるけど、お父さまは村長だから偉いのよ。
村長の娘で美しさにも恵まれた私だけど、全てにおいて恵まれているわけじゃない。
アマリリス。
あの聖女とかいう変な女がいるせいで、私は私の受け取るべきものが得られてないと感じている。
だからアマリリスが、私には目障りで仕方ない。
聖女だからって何なの?
王都で勉強してきたからってお上品ぶってるけど、農夫の娘であることには変わりない。
それなのに一体何様のつもりなのか、王子さまとは気楽に話せる間柄。
どういうこと?
ホントにあの女は気に食わない。
エリックさまは第三王子だけれど、見目麗しく血筋よく、神殿での立場もある素敵な方。
なのにアマリリスごときが何してんの? って感じ。
私が王子さまと結婚したい、なんて欲張りなことは言わないけど、アマリリスの横にいるのが気に食わないわ。
そういえばエリックさまは独身だったわね。
年が離れているけれど、あの方との結婚も……。
いえいえ、違うわ。
私はそんな図々しい女じゃないの。
アマリリスとは違ってね。
あの女ほどバカじゃない。
聖女だからって貴族とも付き合いがあるのに、そのくせ嫁入り先のひとつも見つけられないのよ。
笑っちゃうわ。
聖女といっても一人の女性でしょ?
一歳も年上で貴族どころか王族ともつながりがあるのに、嫁入り先のひとつも見つけられないなんて無様だわ。
なのに余裕ぶってる所も気に食わない。
友人のアンヌとレナも言っている。
あんな風にはなりたくないって。
アマリリスは生意気で身の程知らずの聖女さま。
村では有名な話だわ。
なのに婚約者も見つけられないまま、二十歳を迎えるなんて惨めね。
……そう思っていたのに。
どういうわけか、急に結婚を決めたのよ。
婚約ではなく結婚。
聖女なのに順番とか気にならなかったのかしら。
しかも相手が笑っちゃうわ。
村の農夫で孤児のイジュよ。
二人は幼馴染だから、助け合いの精神でってヤツかしら?
貴族どころか王族ともつながりがあるのに、よりにもよって結婚相手が孤児のイジュ。
ものすごく昔に魔獣騒ぎがあって、その時に親を失った子どもがたくさん出たのは私も知っているわ。
でも親戚に引き取られたり、別の家庭に養子にいったりして孤児になった子なんていない。
イジュ以外は。
ひとりだけ孤児のまま大きくなった奴なのよ。
ろくなもんじゃないわ。
あの筋肉と顔は見ごたえがあるけど……だって孤児で農夫なのよ。
そんな奴と結婚したアマリリスだってろくなもんじゃない。
ふん。聖女だなんだとお高くとまってたって、アマリリスなんてその程度。
そのアマリリスが男爵位を得た、と噂になってるけど、そんなの嘘よ。
女が男爵位なんてもらえるわけないじゃない。
手柄を上げたわけでもないのに。
聖女として生まれたことは手柄にはならないでしょ?
あのアマリリスが男爵さまなんて絶対に嘘よ。
村長である我が家でさえ、爵位持ちではないのに。
あのアマリリスが?
はんっ。嘘ばっかり。
嘘つきな見栄っ張りなんてほっといて、私は釣り合いのとれた良い家へお嫁に行くわ。
だから、もっともっと自分を磨くためのお金が要るの。
「お父さま。結婚相手を探すための予算、もっとつけてよ」
「そうはいってもお前。この間もお金を出したばかりじゃないか」
村長であるお父さまの太い眉が情けなく下がる。
ダメよ、お父さま。
村長なんだから、シャキッとしてくれないと。
そしてポーンとお金を出してくれなきゃダメ。
「私、来年は二十歳になるのよ? その前に素敵な方と婚約しなきゃ」
そこの所、しっかり分かってる? お父さま。
私の結婚相手がショボかったら、お父さまだって恥をかくんだからねっ。
「それはそうだが、お金は湧いてくるわけじゃない」
「お父さまは私が売れ残りと噂されてもいいの?」
「そんなわけないじゃないか、可愛いメアリー」
絶対イヤよ、売れ残りなんて。
今まではアマリリスがいたから大丈夫だったけど、相手が見つからなかったら私が標的になっちゃう。
「だったら予算つけてよ……あら、お金ならあるじゃない」
「あっ。それは聖力石のための予算だ」
「聖力石?」
村の外れにある神殿に置いてある石のことじゃない。
あの石の為に、こんなに予算がつくものなの?
「いま聖女は王都だからね。管理する人間がいないから、聖力の入った石をお金で買うんだよ」
「えっ? そんなこと必要?」
なによ。あの女が仕事しないだけで、こんなに予算がつくなんて。
「だって聖女が村にいないから……」
それって、おかしくない?
「結界だったら、王国のが張られているでしょ?」
私、知ってるのよ。
王都の聖女さま達によって、国全体を覆うように結界が張られていることを。
だからアマリリスのやってることなんて無駄だってこともね。
「それはそうだが前の騒動があったばかりだからな。護りはキチンとしておいた方がいい。魔獣が出たら恐いじゃないか」
「ヤダ、お父さま。心配性過ぎない? ついこの間まで聖女が祈りを捧げてたじゃない」
お父さまが心配するのは分かるわ。
お父さまのお母さま、私のおばあちゃんが魔獣のせいで亡くなったのよね。
その心配は分かるけど、ちょっと心配しすぎだと思うの。
「ん……」
お父さまが慎重になるのも分かるけど、私の縁談の方が大事でしょ。
「聖女が王都に行って、まだそんなに時間が経ってないもの。すぐに危険な状態になるわけない」
「それもそうだな」
聖力石の聖力が失われていくスピードなんて私は知らないけど。
結界が緩むとか、滅多にないことなんでしょ?
だったら、大丈夫なんじゃない?
「仕方ないな。可愛いメアリーのためだ。このお金はお前の為に使おう」
「やった! お父さま、ありがとう~」
あら、思っていたより袋が重いわ。
予算はたっぷりついたみたい。
聖力石って、そんなに高いのかしら?
アマリリスが祈る程度で力が入る石なんかに、高いお金払うなんてばかみたい。
この予算は私が有効に使ってあげるわ。
見てなさい。
私はアマリリスなんかよりも素敵な男性と結婚してやるんだから!




