屋敷の朝
王都の屋敷で一晩過ごした翌朝は雨。
灰色の空は耐え切れなくなったように、しとしとと細かな雨粒を滴らせています。
昨夜は慎重に話し合いを重ねた結果、私が奥さま部屋でイジュが主人の部屋を使うことになりました。
奥さま部屋の家具調度品などインテリアが、成人男性の耐えうる範囲を超えていたからです。
どこから集めてきたのだと突っ込みたくなるほどの、フリルやレースのオンパレード。
隙あらば金のレリーフもしくは花柄が攻めてくるような部屋では、田舎の農夫がくつろげるはずもありません。
主人の部屋も派手目ではありますが、そこは許容の範囲内ということでイジュには我慢してもらいました。
隙あらば使用人部屋で寝ようとするイジュVS隙あらば豪華な飾りで埋めようとするエリックさま、という図式が私の頭にはずっと浮かんでいましたが妥協点が見つかってよかったです。
今日は優秀な執事にお願いして、飾りの類は見苦しくならない程度に外してもらうことにします。
屋敷での食事は、宿に比べたらシンプルなものでした。
夕食は田舎者の私たちが委縮しない程度の程よいメニューを用意してくれましたので、気楽に食事を楽しむことができました。
イジュと二人きりの食堂には給仕のために使用人たちが出入りしていましたが、上質なサービスを受けることができたので気にはならなかったです。
朝食もパンにオムレツ、サラダやヨーグルトなどシンプルなメニューながら美味しい料理が出てきました。
イジュは相変わらず野菜に関しては、自分の作った物の方が美味しい、といっていましたが他の物に関しては屋敷の食事が圧倒的勝利をおさめたようです。
夕食の肉や魚も美味しかったですが、今朝のオムレツも一味違います。
シェフの腕が良いのでしょうね。
そのシェフがどこで修業していたかを考えると……。
まぁいいです。
「今日は神殿に行くんだっけ?」
「ええ。ご挨拶に行ってくるわ」
せっかく王都まで出てきたので、久しぶりに元の職場へ顔を出す予定です。
結婚したことも報告したいですし。
とはいえ、結婚したという実感はないです。
昨夜は奥さま部屋と主人の部屋とを繋ぐドアを開けておきましたが、イジュは来ませんでした。
本当に結婚したのでしょうか、私。
モヤモヤした気持ちを抱える私の前で、イジュは別のことで悩んでいるようです。
「オレは何をしようかなぁ……」
イジュがコーヒーを飲みながらつぶやいています。
「庭師さんとでも、お話してきたら? 雨が降ってるから、あまり忙しくはないかもしれないわ」
「そうだね。誰か見つけて情報を仕入れるか」
お互いの予定を確認して、私たちは朝食を終えました。




