微妙な朝
「おはよう、アマリリス。爽やかな朝だね」
入浴を済ませたイジュが、妙にすっきりした顔をして私の寝ていた部屋に現れました。
「ん……おはようございますぅ……」
私はポヤポヤしながらベッドで上半身を起こしました。
昨夜、ドキドキしながらもベッドで横になった私は、すぐに眠りに落ちてしまいました。
王都へ来るのは慣れていますが、緊張したりなんだりで思っていた以上に疲れていたようで、キチンと寝たハズなのにまだ眠いです。
イジュはぐっすり眠って疲れがとれた様子ですが、こう何かモゾモゾするものとか、なかったのでしょうか?
男性はよく分かりません。
「ふふ。やっぱりアマリリスの方が、そのベッドは似合うよ。可愛い」
ニコニコ笑いながら、私が赤面するようなことを言うのは止めてください。
朝一番から刺激的すぎます。
「聖女さまは、そういうベッドで寝慣れているの?」
「そんなことないわ。神殿で暮らしていたときは、質素だったもの。村での暮らしと、あまり違わなかった」
なんだかとても恥ずかしくなった私はコソコソと隠れるようにして浴室に向かい、身支度を整えました。
部屋に戻ってくると、朝食の準備がすっかり整っていました。
食堂での夕食はとても緊張したので、昨夜のうちに朝食は部屋に持ってきてもらうよう手配していたのです。
「朝から豪勢だね」
「そうね」
イジュの言う通り、テーブルの上には豪華な朝食が並んでいました。
ふかふかのパンに彩りよく盛られたサラダ、ソーセージが添えられた目玉焼きに具たくさんのスープ、ヨーグルトにフルーツなどです。
「チーズもあるし、紅茶やジュースもあるんだな。量は……普通、かな?」
椅子に座りながらイジュがつぶやいています。
宿の朝食としては、量も十分多いのです。
しかし農家が多い村での食事は量が多くて普通なので、イジュにとっては驚くほどのものではありません。
「足りなかったら私の分も食べてね」
「いやアマリリスは痩せっぽちなんだから、キチンと食べなきゃダメだろ。あっ、このパン旨い」
見た目だけでなく、味も違いました。
流石、高級なお宿。
パンにしても、ソーセージにしても、一味違います。
「でも野菜は、オレの作ったヤツのほうが美味しいかな~。でも、ドレッシングは旨い」
「もう、イジュったら」
確かに野菜は村の物の方が新鮮で美味しいかもしれません。
「でもさ。こんなソーセージとかパンとか、アマリリスは王都で食べ慣れてるだろ? 村の食事で満足できてる?」
「だから聖女は質素なんですってば。こんな贅沢はしないわ」
招かれた場なら別ですが、神殿での生活は基本的には質素なものとなっています。
神に仕える者たちは贅沢なんてしません。
村しか知らないイジュにとっては、その辺の区別が分からないようです。
王都に行けば、何かが変わるでしょうか。
朝食を終えた私たちは、馬車に乗り込むと王都を目指して出発しました。




