堀北清香は一切の妥協を認めない
「この度、夢見夢花は部に無断で休んでしまったことを深く反省しております!!」
「本当に?誠心誠意心から反省しているようには見えないわ」
「反省しているよ!凄いー凄いー反省している!」
これで何回目の下りなんだ?俺が部室に入ってから、いや訂正しよう。実質遥か前からこのような愛犬と飼い主のじゃれ合いのような会話が、永遠と繰り返されていた。堀北はからかい半分で夢見に謝罪を求めている一方、夢見ものらりくらりと会話を楽しんでいる。じゃれ合うのは部の外でお願いしますと言いたい所だが、俺にそんな権限などミジンコたりてない。
この前の一件で、堀北はさらに夢見の事を好いているように見える。態度がクールぶってるが、頬が和らいでいるのが見て分かる。まあ平穏ならばそれでいいのだが、もうすぐ学校行事で最も学生が苦難するとあるものが、およそ一週間後に行われる。
「そういえばもうすぐ期末試験ね。夢見さんは勉強の進捗はどうかしら?」
そう、期末テスト!普段は平凡でスポーツも芸術的なセンスも皆無の俺が、輝ける唯一の砦だ。この学校は進学校でもあり、学業は特に重視されている。実質、俺は校内推薦は取らず、一般試験の形式で受けたため、学力もそこそこ高い。
「そうだな、期末試験は頑張らないとな」
「誰もあなたに聞いてないわ」
おっと、軽く右ストレートに入ったが、気にしない。特に何も秀でてない者としては学業しか取り柄がないのだ。
「私全然勉強してないなー、まあいっか!」
よくいるよな、テストギリギリの二日目とかに、〇〇ちゃんテスト勉強どう?とか聞いたら、あたし全然無理だよ〜〜とかいって実際は点数高い奴。だが、夢見の場合はあれは勉強していないよりももっと酷い。まあいっか!って言ってるし、救いようもない。
「夢見さん。今日から一週間、テスト勉強をしましょう。放課後、みっちりと」
「ええ?!いいよ、いいよ!」
明らかに嫌がる夢見。しかし堀北は責めの姿勢を変えない。
「私はね、夢見さんに留年になってほしくないの」
「え?!補習じゃなくて留年?!そんなに私の現状酷いの?」
「私もできる限り力になるわ。ねぇ、古関君」
唐突に振られる古関君。嫌な予感しかしない。夢見さんの勉強を手伝えとか言わないよな、そんな事言わないよな。
「お願いね、古関君」
ああ、断れないやつだ。言葉に圧がかかっている。断るものならば、どうなるか分かってるだろうなの目つきだ。だが──
「すまないが・・・」
「協力、勿論してくれるはずよね?」
「・・・はい」
結局はこうなることを避けることは出来なかった。
そして期末試験までの猛勉強が始まった。現状、夢見の学力はというと──
「夢見さん、今日は英語ね。この単語の意味は」
「えっとー、猫だ!」
「そもそもこれ動詞よ」
想像を絶するものだった。キャットとカットを間違える。これには堀北も頭を抱えた。
「夢見、どうやってこの学校受かったんだ?もしかして裏口」
「違うよ!!」
俺には手が負えない。だが堀北が睨みを利かせているため、逃亡も不可だ。
「そう言ってもテスト、明日だぞ。どうするんだ」
「そうね、どうしましょうか」
「まあ、何とかなるよ!ね?」
俺と堀北は夢見の能天気さに流石に心を折られた。これはもう、神頼みしか方法はない。因みに俺の勉強の進捗はというと、明らかに夢見の影響を大きく受けていた。
試験当日。
俺の目には明らかに黒い隈がはっきりと映し出されていた。夜どうし勉強したせいか、疲労が限界に達している。試験は三日間にわたって行われた。その期間の記憶はなぜか頭にそれほど入ってなかった。
試験が終わり、テストが続々と返ってきた。結果はまあ、及第点という所だろう。本当は夢見の勉強で時間がその分削られたが、それでも頑張ったほうだ。
「ねぇ、堀北さん。今さっき廊下にテスト順位貼られていたけど一緒に行く?」
「私はいいわ。見なくても分かるから」
多分堀北は一位なんだろうな。それより夢見が心配だ。恐らく赤点だと思うが、俺も順位は気になるため、トイレのついでに教室を出て、真っ先に掲示板を見に行く。
掲示板には運がよく今は人集りが出来ていない。さっさと見て戻るか。
「えっと、古関、古関・・・あった」
結果は十位。思っていたよりも高かったな。流石の堀北は無論一位を独走していた。二位との点差は激しい。夢見の勉強を一番に見ていたのに対し、妥協は一切ないな。そして、肝心の夢見だが、前方から女子の群れが近づくのを俺の危機管理センサーが作動し、夢見の名前がある横の順位を軽く見た後、急いで教室へと足を運ぶ。
教室へとつながる廊下を歩く中、俺は夢見について考えていた。夢見夢花は俺たちが思っていた以上に、一歩先を見据えていた。恐らくは俺たちは彼女の事を少々軽んじて見ていたらしい。
どうやら一枚食わされていたのは、こちらのほうだったか。
廊下を友人達と歩く少女の姿を見て、俺は皮肉にも微笑してしまった。
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