学校一の美女は絶対的な地位に属している
ホームルームという言葉を学生時代過ごした者ならば聞き慣れているだろう。学校生活の一日の始まりとも言えるこの時間帯は、我ら単独行動組には地獄の関門に基づく。
単独行動組には二つのパターンがある。前者ははあえて一人でいることを好むもの、後者はコミニケーションを必要としてるが一人であるもの。この二極化は天と地の差だ。現実とは厳しい世界であり、容赦なく俺達をすり潰していく。そんな荒々しい競争社会に耐え抜こうと必死で藻掻く奴らもいるが、結局は消滅してしまう。この結果を属に社会不適合者という。…可哀想に。
かくなる俺はというと何方にも分類されない孤独の極みとも言える。孤独を極めし者、ここに見参。
社会のくくりを学校生活に分類に指定している俺の頭では、毎日満員電車に乗られ(自転車)、上司に頭を下げ続け(教務部の教師)、とばっちりの雑務に追われ(部活動の勧誘や暴君による強制制度)日々心身ともに自らすり潰している自傷行為としか捉えられない。社会の環境が悪いせいで俺が労働災害を化され、終いにはうつ病など社会復帰出来ない深刻な状態に犯されてみろ。俺は裁判に訴えかけ、全ての治療費諸々を完璧に相手側に払わせる覚悟のつもりだ。
だが俺達は学生。つまりは虐めなど余っ程の騒動がない場合は誰も聞く耳も持たれていないのだ。だから俺は訴える。
――休日をせめて週三にしてくれ
「学級委員の古関。後で職員室に来るように」
今日の白雪教師は少々カルシウム不足だか、それとも女性特有のある日なのか知らないが、明らかに怒ってますよアピールを声質が聞き取れることができた。何かまずいことをしでかしたのか、そんなわけない。窒素と同化している奴が問題発言や行動を起こすはずがない…いや一つだけ心当たりが
「古関少年、これは一体何だ。素直に白状したら許してやらんこともない」
そのセリフ、信用ならない。絶対この人の目に何かしらの恐ろしい感情が目に宿っているぞ。逃げなければ!
「待て。君がもしこれから行う選択肢を実行するならばそれなりの覚悟とやらを持っているんだろうな」
時すでに遅し。逃げるという最善の選択肢を俺は早々に失ってしまった。
「君はなぜここに居ると思う?」
「あー、学級委員の変更ですか?」
俺の発言の後、横目を見ると力強い握りこぶしがすれすれで掠れていた。武道家なのか、恐怖が背筋に走る。
「いや、ジョークですよ。はい、ジョーク。ただのコミニケーションですよ、あはは」
さらに拳を振りかざそうとする動作にたじろぐ。怒る気力もなくしたんだがため息混じりにデスクの引き出しから見覚えのあるプリントを一枚俺の目の前に出す。
「これはなんだ」
「えっと、学校生活を振り返ってっの感想文ですよね?」
「違う。文体の中身だ。何だこれは、君の頭はどういう仕組みでできている?厨二病か?」
どうやら白雪教師は俺の書いた感想文の内容に何やら異議申し立てがあるそうだ。
「自分の見解を書いたまでですよ。感想なので感想を書いたんです」
堂々と言い切る俺を前にもはや哀れんでいる目つきで見据える。そこまで酷い見られ方は掘北以来だな。
「ふむ、君の心はそうだな。まだ成熟しきれていない思春期特有のあれだな」
うん、厨二病とでも言いたいのね。いや実際には高二病か。
「君は将来何をしたい?」
いきなり重めな雰囲気を出され少したじろぐ。将来何をしたいのとか聞かれ、純粋無垢な幼児たちは夢ある答えを迷いなく出すだろう。だが年の功を追うとその無邪気さや好奇心旺盛な行動は減少していき、明確に示唆される場で現実味じみた答えを提示しなければならない。社会に出るとはそういうことだと思う。なにせ一生をかけて過ごす時間を高校生として子供としての立場で悩み、不安を持ち選択する必要がある。大学に出てもそれはいつか出すべき答えを引き伸ばすだけだ。それでは何も変わらない。
「分かりません」
この答えこそが今現在出せる精一杯の答えだ。
「そうか、まあ焦らず考え迷え。今はまだその時間が許せる」
白雪教師は穏やかな顔を向け、目には淡く光が宿っていた。
柄にも悪く綺麗だとこの瞬間感じてしまったのは恐らく錯覚だろう。
放課後、影がかった教室のドアノブを開き黒髪の靭やかな美少女が目に入る。掘北清香は性格はあれだが、容姿は絶対的にこの学園随一の持ち主だ。遠目から見ても、俺の眼力は堀北を放さない。一瞬たりとも隙がなく、全ての行動が絵となる。もはや絵画に達する領域まで有に超えている。ある意味恐ろしい人物だ。
掘北は俺が来たことをようやく察すると、本を片手に持ち視界を合わせることなく俺に問う。
「なぜあなたがここに」
「俺がここの部員だからだよ」
とぼけた顔をしている。その姿も他人からしたら綺麗だが俺から見たら皮肉だ。
「あらそうだったわね。すっかり忘れていた」
昨日の今日のことだぞ。嫌味にしか聞こえない俺は、小さくため息をつき堀北のいる席と真反対の廊下側の席に座る。埃だらけだった教室の一角は、軽く清掃が施され、空き教室の域にようやく達したまでに至った。
特に話題という話もなく、無言を貫いているがとても居心地が悪い。強制的に部へ入れた張本人は咎めることもなく、今も読書に勤しんでいる。全くこれだからお嬢様は。
「今失礼なこと思ったでしょう」
心が読めるのか、エスパー?エスパー堀北?この下り前にもあったな。
「あのな、一応部活だし何かしないのか?活動内容もまだ聞いてないぞ。考案部って一体どんな部だ?」
「質問を羅列されても困るのだけど。そうわね、そろそろ夢見さんが来る頃だから」
夢見?そう言えばあいつを忘れていた。キャンキャン吠える駄犬で知能レベルもかなり低いが、憎めない愛らしさが夢見にはあった。人懐っこく愛されキャラに近しい存在だと思う。まあ馬鹿だけど。
噂をしているとガラガラと扉が開き、子犬ではなく夢見が何やらキャンキャンと訴えかけている。
「せいちゃーん、箱持ってきたよー」
「ありがとう、夢見さん」
夢見は謎の古びた箱を近くにあった机に置き、早く開けようと堀北を急かしている。飼い主と飼い犬の戯れみたいでほっこりした。
「古関君、突っ立っていないで早くこの箱を開けて」
「なんで俺なんだ」
「一応男子でしょ」
男女格差が!世が世なら男性差別ですけど?ここに来て男子という特権を逆手に取る堀北め。自分が汚れたくないだけだろ、夢見も可哀想に。まあ飼いならされているから仕方ないか。
渋々了承し、なるべく汚れまいと箱の取っ手を取り開く。開いたと同時に堀北が顔を寄せ箱に目を留める。やばい、いい匂いする。
「何も無いわね」
「うん、何も無いね」
「何も無いな」
なんだこの間、夢見を見て。しゅんてしてる。パーカーのフードも下がっちゃってるし。掘北は安定のポーカーフェイスだが、うーん、若干眉が引き下がっている。
「仕方ないわ、古関君。どうにかしなさい」
どうにかってどうするんだよ。無理だよ、全知全能の神ぐらいならどうにかしてくれるだろ。
「ねえカセキくん!お願い!どうにかしてー!!」
だから距離が近いんだよ。おい、飼い犬のしつけぐらいしろ。
「そもそもこの箱は一体何なんだ?どうにかしろと押し付けるより、まずはその前提を説明しないとこっちもどうもできない。」
顎に手を当てお考え中の掘北は、夢見に目を向けると謎のシンパシー的なものを送り両者相槌をついた。
「えっとね!この箱は考案部の活動の一つで、箱にお悩みを書いてもらって私達がそのお悩みについて考えてアドバイスしてあげるの!」
ぴょんぴょん跳ねる夢見を他所に、掘北は端にあったホワイトボードに何やら文字を書き始めた。
「私達が昨日からセッティングした箱でどのくらい集まるか試してみたけど、やはりただのゴミ箱としか見てもらえなかったわ」
でしょうね。まあゴミを入れられなかっただけ良いところだろ。せめてお悩みボックスって名前ぐらい表面に書いておけよ。
「もう少し考えたら分かることだろ?」
「あなたにだけは言われたくないわ」
「みんな仲良くー!」
このセリフがエンドレスに続くだけで今日の部活動は幕を閉じた。結局、何も改善してないわりに、無駄に体力だけは削られてしまった。
「古関君、今日の部活内容をまとめて」
「ひたすら俺と堀北が言い争ったていただけだろ」
「え?!私は?私は?」
というわけで時は放課後の夕暮れに遡り、冷戦状態となったところで部室をあとにした。あたりは茜色に染まり、日が半分沈みきっていた。堀北と夢見は帰りに有名店のカフェに行くだとかで、校門の前で別れた。掘北は最後まで俺に睨みをきかせていたが、夢見は空気が読むということを極端に掛けているため、校門までひたすら俺と堀北に質問しまくっていた。空気読めよ…と心の中で何度唱えたのか、お経並みだったぞ。
自転車に跨り、夕日の背景をバックに自転車を漕ぐ俺は今青春の音楽が流れそうなシチュエーションに…なるわけ無いか。うん、あの二人が放課後に店によるという青春っぽいことを聞いて羨んでいるわけではない。などと虚しい発想しか湧いてこない俺の脳みそもすでに終わっているんだが、いつの間にか家についていたことを実感するのは、玄関の古びたドアを見るからだろう。
扉はすでに老朽化が進んでおり、ガラガラと扉を横にずらすと床と擦れた不快な音が耳の鼓膜を振動させる。玄関という玄関は存在せず、適当な場に靴を置く。一足進むたび、ギシギシと昔の鴬張りが楽しめる要素満載の床を踏みながら床の間に向かう。スクールバックを隅に寄せ、黙々と床で鉛筆音を響かせる少女に目を向ける。
「夕飯、何にする?」
問いかけに気づいた少女は顔を上げ、心底不機嫌そうな表情を醸し出す。
「何でもいい」
「何でもいいなら鰯でいいか?」
台所に向かう俺の背後からはっきりとした舌打ちが響く。舌打ちをした本人は俺と向い合せで見据え、胸ぐらをつかんでくる。
「私が青魚苦手なこと知ってんだろ?嫌み?」
不良の態度で俺にガン飛ばしてくる辺りは誰に似たんだか。
この少女、いや反抗期真っ只中の妹は、兄を少なからず見下していた。古関家の位では俺が一番下なことを重々承知であるため態度も大きい。前はあんなにお兄ちゃん子だったのに、全く時の流れとは残酷だ。
「さっきからどこ見てんの、キモいんですけど」
最近は特に兄への仕打ちが厳しくあられる妹のご機嫌は斜めである。青魚は健康にいいんだが、食への健康配慮は大切だ。
「あのな、青魚は健康に良いんだぞ。お前も受験生なんだから体調管理は重要だろ」
「…別に、分かってるけど。でも青魚だけは無理!絶対に無理!今後青魚出したら兄さんと絶縁するから」
ピキーン、オレの心に大ダメージ。可愛い妹からこれ以上嫌われたら俺はどうなってしまうんだ。耐えられない、想像しただけで耐えられない。
渋々今夜の夕食は野菜炒めに決定した。女王様は少し不満げだが許容範囲だったらしく大人しく食してくれた。我が家は今日も穏便である。
今日も変わらず憂鬱な日々は続いている。そして今もなお現在進行中で俺の穏やかな一日は亀裂を期している。
「古関、堀北さんと仲がいいんだよな?どういう関係か答えろ」
昼休み、いつものごとく教室で優雅にランチを楽しんでいた俺の周りには複数の男子が集まりいつの間にか囲まれていた。どうやら俺と堀北の関係性に何やら違和感を覚えたらしい。まあ学級委員でなぜこんな陰気な陰キャ野郎があの堀北と一緒に共同作業をするのかも不自然だしな。適当に説明すれば引き下がってくれるだろう。
「先生に頼まれたんだよ。俺はほら、暗いだろ。だから少しでもクラスに馴染めるように、そうだな。気を使われたんだ」
自分で言って虚しいものだ。まるで俺が根暗だと自ら主張するみたいで…実際はそうなんだがな。何故か可哀想な目で見てくるのはやめてほしい。同情なんてされたらもっと嫌だ。お前ら非モテは大群作って攻めてきては駄目だ。あとから後悔するだけだ。その間だけ、俺達は心の中で友好度数が若干上がった。全く掘北の存在はこの学校において絶対的なものと改めて実感した。
このあと非モテ達との会話が弾んだことだけは感謝する
三部を読んで頂きありがとうございます。少しでも楽しめたという感想が心に残っていたら幸いです。今後も執筆活動を頑張っていくので高評価、ブックマーク等よろしくお願いします。




