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運命の赤い糸など存在しない



 入学二日目、いつも通り窓の外を見つめている俺はこのクラスでの立ち位置が既に確立している中、昨日空席で担任の暴君白雪教師から存在すら忘れられていた哀れな住人という設定だった隣の住人Aの場所に今は額が掛けられているかのような華やかしさに映る絶世の美少女、堀北清香の姿があった。堀北を囲むように下出の奴らが騒ぎ立てている。主君関係か、堀北がこの団体の長だということは明確だ。



 神様は非モテにはつきよらない、故に堀北がいい例だ。人望にも恵まれ、絶対的容姿を持ち合わせている。多少性格があれだが美人となればプラスと加点されてしまう。ああ、恐ろしい恐ろしい。


 

 そろそろ1限目が始まろうとする時間帯になると、堀北を取り囲んでいたミンミンゼミ共はそれぞれの席へと散って行った。やっと静かになったか、隣の席をチラ見するように軽く見るも刹那、目が合わさり異様なほどの威圧感が放出された。



 目が合わさるのでも駄目なのか、この女王蜂は。

 ため息交じりに再び窓の外を見つめると机から小さな振動が伝わり無視を通したものの、最後には椅子を蹴られるという暴力的な行為まで取られたものなので渋々隣の席に目を移した。



 ああ、女王様がお怒りですよ。誰か静めろと言わんばかりの周りからの視線に流石の俺も少したじろぐ。仕方ない、周りの強硬策であるので俺のような無所属は従うしかない。クラスのカースト恐るべし。


 「な、なにかようか堀北、さっきから俺の方を見ているが」


「気安く話しかけないで」


 うわっ…何この子、俺の扱い酷いよね、クラスメートとの対応差が、もしかして寒暖差この地域だけ激しいの?そう言えば当たらないことで有名な地方の気象予報士が今日は気圧が高いとか言ってたな、その影響か。



 「さっきからジロジロと人の顔を見ないでくれる」


「元を言えばお前が」


「せいちゃーん!あれ?怒ってる?なんでなんで!あ、喧嘩したの?珍しいー」



うわっ!なんだこの陽のオーラを撒き散らしているやつは!眩しすぎて直視できない…!



 陰の住民は陽の住民への体制が限りなくゼロなのだ。言い換えれば俺たちの敵に値する。このぴょんぴょんと飛び跳ねている小動物系女子の名は夢見夢花。堀北とは親友にあたる唯一の人物であり、彼女を取りまくオーラは周りをも影響を与える。ギスギスとした教室内も彼女が居ればお花畑化にしてしまう、人類皆平等という恐ろしいブラック人物だ。ちなみにクラスメート全員の名前も把握済みだ。


 

 「えーと君ってたしか…こ、こ、かせきくん!!」


なぜ最初の文字があっていてあとから全部間違えるんだよ、彼女はそう、馬鹿である。



 「喧嘩は良くないよ、ね!せいちゃん!」


「喧嘩じゃないわ、この男が明らかに下衆な目で私を見ていたから注意をしたまでよ」



 注意?どう考えても注意という柔らかな表現じゃないだろ



 「そっかーそれならしょうがないね。そこの君、いくらせいちゃんが可愛いからって変な目で見ていたら、あたし許さないんだからね!」



誤解されてるな、誰がどう見ても誤解されてるな。弁解をしなければ俺のイメージに関わる、このバカでも分かるように



 「えっと、誤解なんだ。堀北が俺を見ていたから話しかけただけであって」



 「あれ?せいちゃん、本当なの?」



よし、話が通じない堀北よりまだバカのほうが言葉が通じるぞ



「夢見さん、考えてみて。名前も知らない男が誤解なんだと言うセリフは怪しい以外に何があると思う?」


「うーん、それもそうだね!考えた!」


絶対に考えてないだろ!そうだ、堀北は夢見と僅かニ日しか友好を築いていないが、俺からしたら俺と夢見の接点は今日が初めて。こいつの性格をこのクラス内で最も理解しているのは今現在堀北だけ、夢見の性格を逆手に取ったな。




 二人と一匹の間に目に見えない空気の膜が隔たれている中、盛大な軋み音を立てながら現れる白衣姿の美人、じゃなくて教師。白雪教師の登場によりツクツクボウシ達は一瞬で鳴り止む。それよりドアの建て付けどうにかしろよ、職員室でも軋んでいたんだがこの学校そこまで金がないのか。学校の設備等にもう少し改善の余地があるだろ、俺のロッカーとかもはや取っ手が壊れていて使い物にならない。そう、俺のロッカーのみ、なぜだ。



 「みな、今日はいい話と悪い話がある。どちらを先に聞きたい?」


突如選択肢が出され俺を取り巻くクラスメートはざわめく。異世界ファンタジー?それともダンジョンゲームか何かですか?


 誰も何も答えない、この選択肢は比較的安全圏だろう。もしも誰かが選択してミスったら後でどういう目に合うか…ブルブルブル…



 「ではそうだな…学級委員の古関、君ならどちらを選ぶ?」



強制的!!それも学級委員って言ったよな、俺まだ認めてないよ。白雪教師の発言はクラスメート中に知らされたことにより、今更俺違いますよーと言っても学級委員になりたがらない者たちからすると批判、卑下、端的に言うとふざけるなと言われてるようなもの。白雪教師の策略は華麗にクリーンヒットしたのであった。


 時間が刻々と過ぎる中俺は重苦しい空気感でいち早く正当を見つけ出し、答えなければならない。だが俺の答えは既に決まっていた。



  「両方同時にっていいですか」



俺の考えはこうだ。いい話と言えど本当にいいとは限らない、悪い話と言えど必ずしも悪いとは限らない。つまり良と悪の中間、すなわち一つ一つ聞くよりも白雪教師が端的に一文で全てを纏め上げて言うと、ダメージも少なからず多少は軽減されるであろうという俺の見解だ。


 「私はどちらかを選べと言ったはずだが、まあいいだろう。ようするに…今日は蠍座が1位だったが、魚座が最下位だったということだ」



――は?



 「みな分かってないな、文全体を深く考え込み過ぎだ。頭を柔らかくしろ、酷な話など一言も言ってないだろ?」



この教師はあえてしんみりとした空気を掻き切るような声色で戯言を申した。1枚食われたのは俺たちだったということだ。これは嫌みというものを超えている。ただ変質者だ。生徒と教師のあくまでからかいとして俺たちに選択肢を設けたのか、コミニケーション取ったことありますか?



 教室の平均気温が格段に急下降中であるが白雪教師は一人ニヤニヤと高をくくっていた。周りのクラスメートを見るが目は…うーん、死んでいた。隣の堀北はもはや軽蔑の目で見ている。入学二日目にして白雪教師は無意識の内で信頼という言葉を失いつつある。もはや冷めきっていて言葉にならない故に苦しいうえに息苦しい。



 「みな今日も健全に勉学に励みたまえ、これは余談だが私の運勢は一位だった。最下位のものには悪いがな」


その無駄な余談を挟んだのが悪かったのか、白雪教師が教室から去ったのちクラス中は白雪の悪態騒動で活気に満ちていた。





 放課後、1枚の印刷されたプリントを睨みながら苦悶する。それは入部届けだ。わが校は強制的に部活動に入ることを義務付けられており、俺は帰宅部という選択肢を初めに思いついたが、安易な考えはプリントの片隅に小さく記載されてある、『帰宅部と書く良からぬ者がいる時、強制的に活発な部に配属させる。心して記載するべし』という意味深な文が書いてあるものだから、仕方なく、本当に仕方なく部活動見学という陽キャ大量生産場に行かなければならない構造となったわけだ。


 一人で周っていることだから、勧誘する上学年達に全く話しかけられずに静かに回ることができる。とてもいいことである。集団で行動することしか出来ない奴らを見て憐れみながら廊下を歩く。


 そもそも俺の中にある部活動というイメージは、定時で終われるなと思っていたら、その後に残業がある事に絶望抱く入社一年目の会社員のようなものである。特に部活とは他学年との接点が大いに関わっており、先輩後輩など年齢の上下関係が明確になる場所だ。人間関係構築には持って来いの機会だが、基本的に学校生活でも一人で行動する者たちからすると、ストレス量産現場に自ら足を踏み入れるようなものとなる。俺はそうなりたくない。


 中学での経験がいい例だ。失敗を二度も起こすような真似だけはしたくなかった。なぜ俺は中学の時、一軍軍曹が所属している運動部に入部したかは言及しないでほしい。カーストをあげようと試みたもののかえって自分の首を絞めるようになった哀れな男の名を口に出すな!

 

 周りの喧騒がより一層俺という存在を掻き消してくれる。それにより自分自身も喪失しそうになるところを発覚する症状がなんどあったことやら。恐ろしい末期症状にならないようにしなければならない。


 

 兎にも角にも辺は一面茜色のごとく淡い光に包まれており、まだどの部活にも見学に行けていない焦りかどうかは知らないが、俺は非常に焦っていた。プリントに記載されていた脅迫文が本当に実行されたら運動部に当てられ肩身の狭い思いをし、ストレスに重荷がかかった挙げ句には自然消滅してしまう未来の姿が目に見えてわかる。


 左右廊下を見渡すと光とは程遠い角の奥に一点、何やら部室らしき小さなネームプレートが掲げられていた。神はときに俺のような者にでも救いを差し伸ばしてくれるのだな。感動する時間を蹴っ飛ばして、歩幅をこれでもかというほど大きく開き一歩一歩近づく。部室の前に立つと、明らかに他の部とは違う異様なオーラを放っていた。これは、ダンジョンで思ってもないお宝を手に入れる雰囲気を忠実に再現しているに違いない。胸の高揚を抑え、ドアの取っ手に手をかける。これまた盛大に軋むメロディーを奏でるドアは以外にスムーズに開き、目の前いっぱいに地獄絵図を見た。


 

 「あれー?かさき君だ!!もしかして、かさき君もこの部に入りに来たの?仲間だねー!ね、せいちゃん」



うーーーん、これは、なんだ。 


 目の前には埃いっぱいに広がる光景の中に夢見夢花の姿ともう一人。


 「何しに来たのかしら、そうだちょうど良かった」



  何やら面倒なことに巻き込まれそうな予感を醸し出す堀北清香が外面の笑みで俺に微笑んできた。いつもは空気としか見ていない堀北の明らかに何か無理難題を押し付けるような悪魔の目つき。俺が一歩後ろへと下がる度に堀北も一歩前へ進む。とうとう壁にもたれ掛かった俺はこのまま壁ドンされるのではないかと淡い期待を抱きながらも背中には大量の汗。この窮地を脱出しなければ、感覚で取っ手に手を掛け勢いよく逃げようと予備動作に入る瞬間、片方の腕に何やら重みが伝わってきた。


 

 もしかしてこれは堀北の、堀北の胸、胸が!!



 「行っちゃ駄目ーー!!せっかく部員三人になったんだし、これで正式な部になれるのーー!!」


 キャンキャン吠える犬にしがみつかれているのか、夢見は俺の腕を圧迫するようにきつく抑え込む。



 「痛い、痛い。夢見、一旦離れろ、あと俺は部員にはならん」


「嫌だーー!なってくれないの?かせき君学級委員でしょ!クラスメートのお願い聞くのが学級委員の使命じゃん!!」



おい、なぜ学級委員がクラスメートの願いを聞く体なんだ。学級委員はそんなお願い聞く役目じゃない。あと腕がきついし名前も間違えてる、いい加減覚えろよ。いや、夢見の頭では負荷がかかることだ、仕方ない。



 「駄目ー??せいちゃんも入ってほしいだって!ね?せいちゃん!」


突如バトンを渡された堀北はなぜ私がという目で見ていたが、溜息をつき俺に睨みを利かす。



 「古関君、私達二人じゃ正式な部として成り立たないの。空気みたいな貴方の存在にこの私が誘いを乞うてるのよ。喜ぶべき所でしょ」



あーこいつも頭のネジが三本くらい外れていたんだった。まともな空間じゃないなここ。



 「あのな、なぜ俺が入る前提なんだ?クラスのやつとか居るだろ、ほら女子とか誘えよ」



二人は終始見つめ合って小さなため息を付いた。やれやれと言わんばかりの態度に流石の寛大な心を持ち合わせている俺さえ怒りがふつふつと湧いてくる。察してくれとは無理である。男に察してよ!という彼女や女子に物申したい。察する前にさっさと言った方がお互い楽だろ。コミニケーションが著しく低下するのやめてもらえます?夢見は俺の腕から手を離し人差し指を俺の顔の目の前には突きつけて真剣な眼差しで口を開く。



 「かせき君、なぜ私達が他のクラスメートを誘わないかなんだけど、この部自体がちょっとだけ他の部とは角度というか方向性というなんだろ、普通じゃない、むしろ特殊というかー」


なんだ、怪しさしかないぞ。俺の頭は断るという選択肢を高々に掲げていた。


 「俺はな、波風立たず、平穏な学校生活を送りたいんだ。済まないが、ほかをあたってくれ」


我ながらクールに決めた。ここまで突き放した口調だと流石に夢見は引き下がるだろう。問題は夢見の隣にいるもう一人…あれ?どこ行った?



 「古関君、あなたに断る選択肢はないわ」


「だから何でも言うように」


「だってもう入部届け出したもの。あなたの分も」


 ――ん?


 この人正気?人の決定権を軽々と飲み込んで、しかも提出しちゃったんだ、それはしょうがない…



 「しょうがないよ、かせき君。入部おめでとーー!!これで部になる!」


「待てぇーーい!しょうがなくないだろ!流すんじゃない!」



こめかみに手を当てて掘北は俺の肩に手を置く。


 「諦めなさい。勝負アリよ」


  撃沈…俺の平穏な生活は早々に潰された。


 喜ぶ夢見、満足げな掘北、そして、死人のように佇む俺。


 まんまと策にハマったのね。ハニートラップならどんなに羨ましいことか。古関トラップの取り扱いが上手いこと。

 


 「そう言えばまだかせき君に部名言ってないよね、うっかりしちゃった」


 うっかりしちゃたじゃないよ、それ早く言ってよ。一番大事な事を聞きそびれて加入したのか、ますます精神ダウン。



項垂れる俺の前に再び掘北が近づき、薄い唇が僅かに弧をかく。

 


「ようこそ、古関君。考案部へ」


 

 よく恋愛モノでも在り来りな展開に成りがちな状況下、俺は運命の赤い糸とやらをうっすらと見えたことに対して理解したくなかった。




 第二部を読んで下さりありがとうございます。三部、四部とまだまだ物語は始まったばかりですが楽しんで読んで下さると嬉しいです。高評価、ブックマーク等の応援よろしくお願いします。

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