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入学初日にして俺は孤高の最高潮に君臨するはず

 


 

  県内でも指折りの進学校に見事合格した俺は、これから三年間続く学校生活に、期待や希望などのキラキラとしたありとあらゆる陽キャ言語に一切の感情を持ち合わせていなかった。



  青春、直読みすると―アオハル…フッ(笑)

  笑えてくるなこの二文字、いやカナカナ表記にすると四文字か。



  教室で唯一影掛かっている後方の机にひっそりと…いや堂々と鎮座する、まさに孤高を司る男子は俺以外にはいないなと、窓の外をぼうっと眺めながら大きな欠伸をかく。



  まだ四月上旬であるはずだが、この空間の集合体は夏の暑さを彷彿とさせるほど蒸し暑くなっていた。おまけに蝉がミンミンと、ではなく、クラスメートがガヤガヤと騒ぎまくっており登校初日とは到底思えないなとやや呆れ半分である。


  そして俺の心を悟るかのように教室の前方のドアが、床と擦れあう軋んだ音を出しながら、白衣姿に身を包んだ女性教師が教壇の前に立つ。



  ごほんとひと払いすると教室は静寂に包まれる。

  あ、蝉が死んだ。夏ももう終わりか。



  「全員居るか?…よしまあ全員いることにするか。今日から君たちを担当する白雪だ。ゆめゆめ忘れないように」



  初手から随分と大雑把な教師来たな、凄い美人だけど。ハリウッド女優ですか?てか俺の隣の席の人まだ来てませんよーおーい。哀れな隣の住民、まあ俺には関係ないけどな。やや小さめな溜め息を一つ吐くと、ハリウッド白雪教師からとんでもない魔の文面が発動される。




 「よーし、まずは親睦を深めるのが一般的だな。(面倒くさいが教頭に後で言われるのは御免だからな、面倒くさっ…)と言うわけで出席番号順に名とそうだな…好みのタイプを言っていけ」




  入学初日早々に自己紹介があるとは。俺は頭では考えないようにしていたがやはり来たか、因縁の時間。いや待てよ、名前は分かるがなぜ好みのタイプ?絶対この人が聞きたいだけだろ。



俺の中のブラックリストから過去のどす黒い思い出が引き出される。ああ、そう言えば…



  ――うーんと、古関君?えっと、ごめん。そもそも存在自体知らなかっ…あ、ごめんね!



  待てーーい、はぁはぁ…、危なかった。焦って封印が解かれる所だった、ふぅー。今はたしか夏、じゃなくて春か。

 

  今日の最低気温が四月で最も低くなると、全く当てにならないことで有名な地方の気象予報士が言ってたな。



  額に光る汗、あー俺頑張ったな、出番まだだけど。


  刻々と順が迫るほど、俺のビートは強く鳴る。どこかのバンドマンかよ。一人劇場をやってる合間に遂に俺の順に回ってきた。



  今宵、俺はお前を倒す!!



  「古関黒斗です」


  ――完璧な出たし


  「ふむ、こけし君」

   

  「…………。」


「古関です」


「ああ、すまない。こけしくん、君の好きなタイプは何だね」



あ…すっかり忘れていた。

こけし黒斗、人生最大にして最初の危機


「こけし君、男ならズバッと言え、男だろ」


女性教師が絶対に言わないワードトップ3だな



えっと俺のタイプは黒髪の…いや、違う、あいつじゃない。



「…優しい人です。」


「無難だな」


いやあんたが言わせたんだろ、あんたが。俺の中ではこれが最善の回答、100点満点だ。

流石俺!



何はともあれ数年ぶりの下剋上を果たせた。もう悔いもないだろう、あはは。


あとはこのまま黙って机とにらめっこでもしとくか。あー、今度こそ額に輝く汗が眩しいぜ。


難関は乗り切った、さてと俺の体力ゲージも残り1.5ぐらいだな、もう帰宅する気力しか残されていない。



机に突っ伏した状態で外を眺めていると、どうやら全員発表し終えたようだ。さあ帰ろう、蛙がガーガー鳴いてるから帰ろう、違う、あれはカラスがカーカー鳴いてるから帰りましょう。



時の終わりを知らせるようにチャイムが学校中に鳴り響く。



「さてと、面倒くさい紹介沙汰も終わったことだし、みな明日から早速授業が始まる。忘れ物等ないように十二分に注意するよう頼む。それでは解散」



やっと終わったか、さてと帰るか。



新品の教科書がずっしり重くなった鞄に手をかけ、後方のドアから出ようとした時、白雪教師が謎のアイコンタクトをしながら手招きをする。おい、嫌な予感がする、俺の危機察知メーターが警笛を上げている。


逃げようとドアノブを手に掛けたが手遅れだった。



「やあ、こけし君。どこに行こうというのだね。君には話がある、しばし待て」


「古関です。いやー、僕ちょっと用事があって…」


「ほう、どんな用事だ?私より大事なのか?」


何だそれ、私と仕事どっちが大事なの!って不満タラタラの彼女じゃあるまいし。いいや、そもそもこの人俺の彼女じゃないぞ。



「言い訳は聞かない。私について来たまえ」



はぁ…面倒くさい事になったな、これ。

対抗しても多分面倒なことになるに違いない。適当に流せばいいだろ。



その後俺のちっぽけな考えは早々に打ち砕かれる。


なぜあの時逃げるという選択肢を排除したことに。



「さてと、まずは喜べ」


「何をですか」


いきなり何いってんだ、この人。

しかしやっぱり顔だけ無駄にいいな。

職員室の一角で白雪教師は深々と錆びたパイプ椅子に座る。


 「ノリが悪いな、まあいいか。早速本題だが、君には学級委員に務めてもらう。異議申し立ては聞き入れない」



 「…はあ?!いつの間にそんな、普通クラス内で話し合うとかじゃないんですか!」



 「まあ落ち着け、こちらにも言い分がある。君が学級委員にふさわしい理由をな」



 「どこをどう見れば俺がふさわしいんですか」


 「まずその性格だ。ひん曲がっていて実にいい」


  いや駄目だろ、学級委員に相応しくない箇所しか見当たらないだろ。



 「まあ性格は二の次だ。本当はな、こけし君」


 「古関です」


 「あの時間皆が発表してるとき君だけが窓の外を腐った目で眺めていた。クラスメイトにそこまで興味がなかったことに私は悲哀感に苛まれたよ」



 「流石にそれは言いすぎかと…」



 「いいや、私は君を見過ごすことが出来ない。大丈夫だ、今日休みだが、君の相方は根は真面目でしっかりしている。君のような人間でもきちんと対処してくれるだろう」



  今さっきさらっと酷いこと言ったよね?



 「そもそも俺は学級委員に不向きですよ。相手側にも迷惑かけますし。それに俺には人脈もないですし、空気みたいな存在なので認知されるかもどうか…」



  白雪教師はもはや哀れみの目で俺を見ていた。

  やめて、その目。その表情が一番胸に刺さるから


 「分かった、君はやはり学級委員に入った方がいい。あえて言うなら暗闇の地に一本の細糸を私が垂らしているようなものだぞ。救済だ、救済」



  そんなのいいですから、俺極悪人でもないですし、善良な高校生ですよ。



 「救済って、俺はそんなもの頼んでません」


 「あーそう言えば相手の女子は物凄い美人だと聞いていてなあ」


 「いやどうでもいいですよ」



  ここぞとばかりに大きな溜め息を吐く白雪教師。

  ため息をつきたいのは俺の方なんですけど。



 「仕方ない、こうなれば奥の手だ。できれば君自身の口から了承を得たかったんだが…致し方ない」



  白雪教師は白衣の片方のポケットから新品さながらのスマホを取り出し、おぼつかない手付きで文字を打っていく。返信が返ってきたんだろうか、僅か数秒で着信音が鳴り、その文面を見た後ふむと頷き、ポケットにしまった。



  「そろそろ来るそうだ」


  「誰がですか」


  「君の相棒さ」


  相棒ってドラマの方ですか、紅茶差し入れしたら喜びますよ。


  そろそろ完全下校時に差し掛かる頃合い、部活生がぞろぞろと集団で帰る声が聞こえてくるのに対し、職員室側の突き当りの廊下は静寂に包まれておりその静けさがより一層冷たさを増幅させる。その中にコツコツと周期的なリズムで近づいてくる音が一つ。音は俺のすぐ側にあるドアの手前でピタリと止む。



  「入ってきたまえ」


  白雪教師の合図を下にドアがギシギシと音を立て暗がりの廊下から少女の姿が映し出される。姿を見た瞬間、俺の脳内メモリーに呼び起こされる追憶。その少女はたしか黒くしなやかな髪質に相手を一瞬も見逃さない野生動物並の眼力を持ち合わせた品行方正、完璧主義者、俺はこの少女を知っている。そして彼女もまた。 



 「紹介しよう、君のパートナーの堀北清香くんだ」


 「先生、話が違います」


  間髪を入れずに対抗する美少女は先程の返信速度並の言葉を返す。


  誰がどう見ても美少女と口から察される堀北清香という女はまるで生きた生ゴミを見るような目を俺に向ける。



 「仲睦まじくてよろしい。君らは幼馴染みと風のうわさで聞いてな。よろしく頼むぞ」



 「確かに私は学級委員になるということは了承しましたが、なぜこの男なんですか」



 「し、ししし白雪教師ぃ…俺も、認めませんよ」



 「堀北君、この哀れな男子を見ろ。腐りきっていて私の手ではどうも終えん。君だけが頼りなんだよ」


  酷くない?俺そろそろ泣いちゃうよ、涙腺が崩壊しちゃうよ、そのままオールマリアまで崩壊しちゃうかもよ

それよりなぜこの教師俺たちが幼馴染みということを知ってるんだ?風のうわさ…怪しさしかないが。



  「嫌ですね、断固拒否します」 


  この反論には俺も同感だ。こんな女と学級委員になってみろ。俺の平和な日常は崩れ落ちることが目に見えてわかる。



 「君らがその気ならこちらにも策がある。もし堀北くんがどうしても古関と組むのが嫌ならば、今週の『教えて、〇〇生徒の秘密コーナー。秘密を暴露しちゃうぞ☆』に君等が幼馴染みということを放送し全校生徒に広まってもいいならば古関と組むのは免除してやろう」



  堀北の眉が僅かにピクリと動いたがすぐに平然を取り繕う。



  「先生、この私に脅しですか」


  「まあそうとも捉えられるな」


  火花、目から火花散っちゃてるよこの人たち。俺帰ってもいい、俺要らないよね、存在自体見えてないよね?



 「…まあその安っぽい挑発に乗ってあげますよ、白雪先生」


 「分かってくれて何よりだよ堀北くん」


 ――ん?あれ、何これ。なんで一件落着みたいになってるの。てか俺スール?スルーインスルーしてるよね。ドライブスルーでもきちんと客との対応をする、まあそれが商売だからな


 「白雪教師、俺は?俺はまだいいとは一言も言ってませんが」


 「そろそろ完全下校時間だな、二人共明日から頼む」



 「先生、俺の声聞こえてますか?聞こえてますよね?!」


  俺はとうとう音源まで届かない領域に君臨したのか、いや普通に無視してるだけだろ、どう考えても!



  「さあ二人共帰った、帰った」


  「聞こえてるじゃんかよ!」



  俺の華麗なツッコミを見事なまでに無視し、白雪教師は俺と堀北を職員室から押し出した直後にウインクをかまし後奥の部屋へと姿を消した。



  あの教師、童話の白雪姫のほうが余っ程優しいぞ、動物にも優しいんだからな、きっと俺にも存在自体は認知されるだろう。あわよくば肯定もしてほしい。



  日が落ちたんだか堀北が来た当初よりも随分と視界が暗くなっており、薄気味悪く感じるのは恐らくこの空間よりも堀北清香の存在自体が俺に恐怖という感情を植え付けているのかもしれない。



  しばしの沈黙の後、堀北は俺の制服の裾を微かに掴み強引に連行されている状態で校門前まで連れられた。入学初日で俺はこの美人とのラブコメが始まる…わけでもなくただいまこの地域全体に警報級の災害の避難警報が出されるほどのありとあらゆる言葉の嵐が鼓膜を通り抜けていく。



 「なぜ白雪先生が私とあなたが幼馴染みということを知っているの?もしかして私への当て付け?いくらあなたが私との立ち位置が天地をひっくり返るほどの差であったとしても仕方ないじゃない。あなた、影が薄いどころか認知されるかも分からないし」



  はいはい、出たよ。周りが居なくなってからの豹変ぶりは恐ろしいな、二重人格ですか?反論する隙すら見せないな、完全に主導権はあっち側にあると思わんばかりの口調っぷりだ。



 「あのな、こっちも言わせてもらうが既に決まっていることに後からしつこく言い返しても結果は変わらないぞ。お前の言い分はただの言い訳の一種に過ぎないんだよ」




 感情論を突きつけるのは理論に通ってない。感情に支配された脳内では理性と言うものが通じない、それ故恐ろしいからこそ、感情とは人間を支配する唯一の縛りのようなものとなっている。そんなものにこの俺が染まるはずがないのだが、やはり俺も歴とした人の子だ、怒りという感情によって数年ぶりの幼馴染みとこうして口論をしていることも納得がいく。



 

 俺の心臓は早鐘を打つかのように早く強く打ち付けている、この再会は悪夢だ。そうに違いない、俺のことを下衆な目で見ているこの女との関係性なんて赤の他人より低いカテゴリーに属している。



「俺はお前がどこでどうしようが、どうでもいいんだよ」


  言ってやったぞ、俺の手でこの女との接点を切ることに



 「……それもそうね、言われてみればたとえあなたが明日から影として生きることには変わりないし、存在自体が空気みたいなものだわ。私は何を荒ぶっていたのかしら」



 そう、それでいいんだ。俺はこの手でこの女との接点を…いや待てよ、なに肯定してるんだよ、なんで自己完結してるんだよ…



  俺の中にもう一人の俺が現れる。


 ――このままでいいのか少年Kよ。長年の思いが果たせるチャンスをみすみす手放すようなものだぞ…いいのか少年Kよ



  マインドKはどうも俺に挑戦めいた発言をカマスだけかましてそのまま返信を途絶えた。

あいつ逃げやがったな



  俺の平穏たる生活は幕を開けるはずだったが、この堀北清香を俺は直視する覚悟がまだ足りていなかった。俺が俺の手で堀北清香との関係を切るまで俺の平穏は訪れることはないだろう。




  斜陽が差す背を見つめつつ、俺はある意味一つの目標を開示する。大抵の人間ならもう関わる必要ないっしょと思うが、あいにく俺と堀北はその程度で済まされる関係ではない。嘘偽りの心を隠すように胸の奥に手を当てる。夕日は俺なしでまだ沈むことを許していない。



この物語を読んで下さりありがとうございます。読者の皆様にとってこの物語が少しでも心に残れる作品になれたら幸いです。評価、ブックマーク等の応援を宜しくお願いいたします。

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