ゆうちゃんは、今日も学校に来ませんでした。
2023年 9月7日
夏休みがおわってからもう一週間たちました。
仲が良かった友だちがひとり、夏休みがおわってから一度も学校に来ていませんでした。
私は心配になって、昨日の夕方、その友だち(ゆうちゃんといいます)の家に会いに行きました。
ピンポンを押しても、何の反応もありませんでした。私は少し声を張って「ゆうちゃーん」と呼びました。返事はありませんでした。
私は心配になって、おうちのドアをコンコンと叩いてみました。反応はありませんでした。
家のまどをのぞいてみたりもしました。もし見つかったらおこられてしまうかもしれませんでしたが、たとえおこられても、友だちの無事を確かめることの方が大事だと思いました。
すべてのまどは閉まっていました。一階の庭に出るための大きなまどの向こうはしょうじが閉まっていて、中を見ることはできそうもありませんでした。
本気で心配になりました。もしゆうちゃんが学校に来るのがいやでおうちにいるのなら、家から出ていないはずです。
私は、もしかしたらまどのカギが閉まっていないかもしれないと思いました。それで、一階の庭からまどに手をあてて、横に動かしてみました。すると、少しひっかかりながらも、ちゃんと開きました。しょうじも、ちゃんと開きました。
ゆうちゃんの家の中はうす暗くて、がらんとしていて、人の気配はありませんでした。
うちにはないような大きなうすいテレビのまっ黒な画面がとても怖くてドキドキしました。私は、二階にも聞こえるように、がんばって「ゆうちゃーん」と呼びました。自分の声は思ったよりもふるえていて、か細くて、さらに不安になりました。
私はリビングからろうかに出て、階段を上りました。その間にも「ゆうちゃーん? いるぅ?」と、話しかけ続けましたが、返事はありませんでした。私は、階段のと中で急に寒くなって、帰りたくなりました。外はまだ明るくて、二階のまどから白い光が差し込んでいましたが、もう6時を過ぎていて、あっという間に暗くなってしまうかもしれないと思いました。
私は階段のと中で立ち止まって、きょろきょろとあたりを見回しました。泣き出しそうな気持ちになりながらも、ぎゅっとくちびるを結んで、お母さんがいつも言ってくれる「勇かんな人間でありなさい」という言葉を頭に思い浮かべました。体があったかくなってきて、むねのドキドキが、悪いものじゃないような気がしてきました。
私は一歩、また一歩と、どうどうと足をたてて階段を上りました。前に、何度か入れてもらったゆうちゃんの部屋の前に立って、私はコンコンとノックをしました。
「ゆうちゃん、いる?」
返事はありません。
「ゆうちゃん、入るよ?」
私は、ドアを開きました。
中は、とても散らかっていました。しわしわになった服がたくさんあって、そのうちのひとつのうえには、空になったペットボトルが乗っていました。そのシャツは、黄色いしみができていて、多分ペットボトルの中身がこぼれてしまったのだろうと思いました。
奥にあるクローゼットは空いていて、その中が影になっていて、とても怖かったのを覚えています。
とりあえず私は、ゆうちゃんがいないことをたしかめました。私は部屋を出て、しっかり出るときはそのとびらをしめて、早足で階段をおりました。異様なほど静かで、自分の足音しか聞こえないのがすごく怖かったです。それに、それまで全然人の気配がなかったのに、急に後ろから何かがついてきているような気がして、それなのに、振り返っちゃいけないような気がしました。
私はげんかんから出ようとしましたが、なぜかくつが、たくさん出ていて、しかもそれがきれいに並べられていて、それがすごく不気味で、私はさけび声をあげそうになりました。もし、ゆうちゃんちの人がみんな出かけているのなら、くつはほとんど出ていないはずなのに、なんでこんなにたくさんのくつがあるのか。今思うと、私はそれが一番恐ろしく思います。
ともあれ私は、入ってきたまどから外に出ました。外はもう夕ぐれです。振り返ってしょうじとまどをしめなくちゃいけないと思いましたが、同時に、絶対に振り向いてはいけないような、そんな、背中にとても強い寒さを感じたので、そのまま、小走りに家に帰ることにしました。
家に帰ってから、私はゆうちゃんちにくつを置いてきたことに気づきました。おうちに入るときにぬいだけれど、出るときはそれどころじゃなくて、はきわすれて、くつしたのままおうちまで走ってきてしまったのでした。
私はお母さんに、あったことをすべて話しました。
その日の夜、私はお母さんと一緒にゆうちゃんちに行きました。ピンポンをならしても誰も出ませんでしたし、ガレージにはやっぱり車はありませんでした。仕方なく庭に入ってみると、なぜか私が開けっぱなしにしておいたはずのしょうじとまどが閉まっていて、くつもありませんでした。
お母さんはとまどいながらも、私が何かかんちがいしているのではないかと思っているようでした。
今日の朝、私のくつが片方だけ、学校の忘れ物箱の中に入っていました。
ゆうちゃんは、今日も学校に来ませんでした。




