イッキはスヴィアと出会う
意識が鈍い。
普段から俺と、強さを誇示するかのような一人称で自身を呼ぶ僕だが、意志と心は少しチグハグしている。
『没入完了、ようこそイッキ』
僕は脳内に響く僕の名前に、少し嫌な思いを回想する。
麻酔の影響なのか、これが電脳世界への没入感なのか定かでは無い。
僕の名前は天場 一騎。
某超有名アニメに登場する、死んでも死なない最強の男と同じ名を持つ僕は、幼い頃からコンプレックスを抱えていた。決して喧嘩や争い事が好きな訳じゃないのに、周囲が僕をそうさせない。
気が付けば、僕はいつのまにか自身を俺と呼び、強さを求めるようになっていた。
強さには色々な形があるけども、俺は純粋に筋力を鍛えるという方向性に重きを置いていた。アニメに登場するイッキは、筋力以上に技術が優れていたから、せめてもの抵抗だったのかもしれない。
『私は人口無能、スヴィア。イッキをフルサポートします』
回想していた過去の光景がぼんやりと滲み、暗闇に包まれたかと思った瞬間、視界が一気に開けた。
「うおわっ!?」
思わず変な声と共に、尻餅をつく俺。
何だか懐かしい記憶を延々とみていたような、そんな気がする。
打った尻をさすろうとするも、体が全く動かせない。
「イッキ様、意識が繋がったようですね。立ち上がれますか?」
声のする方を向こうとするも、顔を動かすどころか、視線すら動かす事が出来ない。
「落ち着いてください。まずはゲームのように自身を『操作』するように強く意識してみてください。コントローラー風でも、タッチパネル風でも、何でも構いません。自身を俯瞰して操作するようにイメージしてみましょう」
俺は声に言われるがまま、意識をゲームでもするようなイメージを強めていく。
俺のゲームスタイルはハンドルレバーに基本ボタンが八個ついている、アーケードコントローラーでのプレイスタイルだ。
格闘ゲームを通して、自身の動きをトレースしているうちに、格闘ゲームもそこそこ強くなっていた俺である。
今イメージすべきは、スタン状態からの回復での操作、ガチャガチャである。
レバーを高速でガチャガチャする事でスタン状態から復帰して立ち上がる、ソレだ。
「おめでとうございます。イッキ様はGUIの操作に成功しました」
気が付いた時には、自分が自分である視点と、第三者視点で見下ろす視点の二つを同時に脳が処理していた。
「気持ち悪い」
同時に二つの視点を得た俺は、今までとは全く異なる情報量に吐き気を覚えていた。
「スグになれますよ。ほら、既に言葉だって話せているじゃないですか」
言われて気が付く。そして、視線移動も何故かレバー操作だけで自然に出来ていた。
「改めて、初めましてイッキ様。あなたをフルサポートいたしますスヴィアと申します。困ったことがあれば、何なりとお申し付けください」
「あ、ああ」
思わず見惚れてしまった。
目の前には160cmも無いだろう華奢な女の子が、笑顔で出迎えてくれていた。
真っ白なフレアドレスを纏った少女。
黒色のベルトが腰のラインをクッキリと浮かび上がらせ、スタイルの良さがわかる。
腰まで伸びるかのようなピンク色のストレートの髪の毛も、現実では決してまねのできないような艶があり、一言で言うならばまさに美少女である。
「イッキ様、このSVIAで行うタスク説明は必要でしょうか?」
「……あっ、ああお願いするよ」
「かしこまりました」
この部屋はスぺクタルルーム。
イッキ様が繰り返しSVIAに挑むべき拠点となります。
この拠点でイッキ様自身を最強へとカスタマイズしていただき、最強を作り上げたクリエイター方のキャラクターに勝つまで挑んでいただきます。
我々の定義する最強とは、相手に戦意喪失させる、もしくは戦闘力を奪う事で最強を決します。
また、相手は勝敗に関わらずトライする度に学習を継続します。
同様に、イッキ様も勝敗に関わらず学習を続け、どんな時にも決して敗北しない最強を目指してください。
SVIAの世界では、時間はさほど重要とはなりません。
イッキ様が敗北した瞬間には勝利時に刻まれるロードポイントからの再開となります。
例えば、最初に戦った相手に敗北する度に時間はSVIA歴1年、6月1日に巻き戻ります。
勝利時は、イッキ様の時は進み次の試合が開始されるまでSVIAの世界の時は進みます。
次の戦闘時、敗北した場合はロードポイントからの開始か、省略して同じ相手との再選スタートも可能となります。
このスぺクタルルームでは、自身のカスタマイズが可能です。
パラメーターでの調整でも良いですし、感覚での調整も勿論可能です。
コードによる世界改変もスぺクタルウインドウから可能となります。
電脳世界自身の動作も慣れる必要がありますのでトレーニングルームの用意もございます。
部屋中央の窪みに立っていただくと、SVIAの世界へ。
正面に見える巨大ガラス窓大はSVIAの世界マップを目視する事が可能です。
向かって右側の宏闊なスペースがトレーニングルームとなります。
SVIA世界の住民をトレースしたり、録画のリプレイを見直したり、様々な事が可能です。
実際に中に入り、自身の行動確認も出来ますので、是非色々と試してください。
そして向かって左側の小さなスペースですが、衣食住の空間となっています。
考えすぎて疲れた時にご利用下さい。
なお、私のアバターには触れる事が出来ませんので。
「以上となります。その他、聞きたいことがありましたら何なりとお申し付けください」
「ありがとう」
大体事前説明書にあった通りではあるが、聞くのと体験するのとでは大違いだ。
俺は早速、セレクトボタンに設定している想定で、そのボタンをスぺクタルウインドウのオープンと紐づけを意識すると、感覚で紐づいたことが理解出来た。
そして、俺は最強を目指すべくスぺクタルウインドウを開いた。