プロローグ
「人工機械学習の被験体、十名準備完了しました」
若者の甲高い声色を煩そうに片手でわかった、と合図を送る。
プロジェクトマネージャー、時崎 光は頬杖をつきながら、ノートパソコンに映し出される十個のウインドウを眺める。
「これで最強が生成できりゃ、誰も苦労しないってんだ……」
時崎は一人愚痴る。
プロジェクトSVIA。
最強の戦士を生成するために立ち上げられたプロジェクトは、最終調整段階へと移行していた。
時は数か月前。
全世界から送られてきた、「僕の考えた最強」をキャラクター化し、電子世界へキャラクタークリエイトをしたものの、本当にそれらのキャラクターが最強なのかは誰も証明する事は出来なかった。
そんな中、一人の天才エンジニアが人工機械学習の装置を送り付けてきた。
「最強とは、最強と思っていた存在を打破した者に与えられる称号である。つまり、君たちのプロジェクトは最強のキャラクターを作ろうと良いつつ、誰もそのキャラクターが最強だとは証明できていないだろう? そこで、僕は君たちへこの人工機械学習の装置をプレゼントしよう。使い方は非常に簡単だ」
一拍置き、天才エンジニアは悪びれも無く言い放った。
「人の脳を使って証明すればいいのさ。このスティック型の装置を、麻酔をかけた状態の人間の舌へ乗せるだけで乗っ取りは完了さ。人の脳へ送られる電気信号は、キャラクタークリエイトしたSVIAのサーバーへと一時的に接続される。いわゆる没入型デバイスだ」
何を言っているんだコイツは、と時崎は胡散臭い物をみるように続きを確認した。
「SVIAへ接続された脳は、未知なるパワーを開放して超高速処理を実現する。君たちが行った機械学習の、正に人間版だ。何千、何万、何億もの試行回数を数瞬で処理する事を、人の脳で行うんだ。人の脳が越えられる存在ならば、君たちの作成したキャラクターを倒したその人間が最強という事であり、人の全力の処理を以てしても超えられないキャラクターだった場合は、君たちの作ったキャラクターは人を越えた最強の存在として証明出来るだろう」
そして、天才エンジニアは続けた。
「この人工機械学習装置は、一人一回の使用が限度なので、そこは注意するように。一生分の演算処理をこの一瞬に捧げるからね。二回目の使用に関しては僕は保証出来ないし、しない。あぁ、僕の話を聞いてもいきなりは信じられないよね? 気になるならば、SVIAへ接続する初期設定済のデバイスを付属させておいたから、君が試してみれば良い」
こんなスティック型のデバイスを口に放り込むだけでSVIAへ没入出来るなんて、夢物語もいいところである。しかし、何故か気になった時崎は手順書にしたがい、麻酔を自身に施しデバイスを咥えるのであった。
数秒後。
「何、だ、よ……こっ、ま、だ3、し、って、ね、、じゃ、な……」
麻酔のせいで、うまくしゃべれない。
しかし、時崎は確かに「3か月」もの時間、SVIAの世界へと没入していた。
現実世界へ意識を戻した時崎は心に誓っていた。
「もし、最強を証明できたならば、できるならば、この胡散臭いデバイスだろうが使ってやると」
こうして時は過ぎ現在。
十名もの被験体が、全身麻酔を打ちついにデバイスを口にくわえる瞬間が訪れようとしている。
SVIA
最強を証明するため、最強のキャラクター達とのバトルの世界にようこそ。
君の没入を、私達は歓迎するよ。