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アルカナイック・スーサイド  作者: 諸葛ナイト
第一章 戦いの始まり
8/39

休息

 白黒の校舎の廊下を夕焼け色で白の縁取りがされた生体鎧、アルカナを纏う修也が走る。


 彼を追いかけるのはスカアハの兵、ソルジャーだ。

 全てのソルジャーはダガーを両手に持っており数は4体。


 軽く振り向いて追って来ているそれらを確認した修也は一気に加速。


 廊下の突き当たりに到達すると迷うことなく、その壁へと飛び込み両足を足を突き出した。

 そのまま壁を蹴り飛ばした反動でソルジャーたちへと一直線に向かうと同時、短剣を左腕の甲殻に擦り付けて刃を伸ばす。


 それらは修也の急な転進など予想していなかったようで即座に対応することはできず、ただ足を止めるだけで限界だった。


 隙しかないその状況を修也は逃すことはなく、集団の1体の首を通り抜きざまに切り落として難なく着地した。

 さらに行動を繋げようとしたところで窓の外、その下の状況が目に映った。


 すぐさま思考を切り替えた修也は迷うことなく窓を突き破って外へと躍り出て叫ぶ。


「後ろ!!」


 中庭で別のソルジャーたちと戦っていた凛はその声に気が付き顔を上げる。


 それを見て修也は持っていた剣を彼女の後ろにいたスカアハ兵へと投げた。

 空気を引き裂きながら飛んだそれはスカアハ兵の胸部を捉え、地面に繋ぎ止める。


 修也の一連の行動から少し遅れて今度は凛が指示を飛ばした。


「紫原君! 右に!」


 彼女のやろうとしていることを察した修也はすぐさま四肢を動かしてわずかだが、たしかに右方向へとズレた。


 修也が移動したことで生まれた空間を凛のアルカナ、その肩から放たれた2つの車輪が通り抜ける。

 それらが向かうのは修也を追いかけて空中に飛び出していた3体のスカアハ兵。


 突如として地上から向かってきたそれらに対応するにはあと3秒足りない。

 そして、それだけの時間があれば車輪にとっては十分だった。


 2つの車輪はそれぞれ斜めにスカアハ兵を轢断、続いて最後の1体は右腕と頭部を鼻のあたりから上下に切り落とす。


 着地した修也の後ろにスカアハ兵の残骸が落ちる。

 それを最後に辺りはしんと静まり返った。


 2人はしばらくその場で辺りの気配を伺ったがそれらしいものは感じられない。


 戦闘の終わりを肌で感じ、息を吐いた修也の前へと1本の剣が差し出される。


「お疲れ様、紫原君。助かったわ」


「桑田さんもお疲れ様。俺も助かったよ」


 言葉を返しながら剣を受け取った修也は短剣に戻し、ナイフシースにしまった。


 その間に辺りを見回していた凛は視線を上、より正確には校舎の4階を見つめながら修也へと言う。


「今回の被害はあれだけかな?」


「桑田さんの方でなかったならそうだ」


「よっし、じゃ、ちゃちゃっと直してご飯食べましょうか」


 頷いた修也は転がっているスカアハ兵の残骸を両手で掴むと一息に自分が割った窓へと跳ぶ。


 そこから校舎に入った彼は掴んでいた残骸を壊れた窓に置くと両手を突き出し、軽く息を吐いた。


 するとスカアハ兵の残骸は泥状の物へと変質、したかと思えば新たに形を作り始める。

 変化が始まって数十秒ほどでまるで破壊されたことが嘘だったかのように綺麗に窓が修復された。


 修也が凛と接触して約1週間が過ぎた。

 アルカナでの戦い方も身につき始め、影の国でできることもわかってきた。


 例えば影の国で破壊されたものはこうしてスカアハ兵の残骸を使って直すことができる、ということ。


 もちろん命は戻らず、加えて1つだけデメリットのようなものがある。

 それは新品同然に直ってしまうため周りと少し違和感があるということだ。

 今回は窓だけだったためそう気にはされないだろう。


 修也と凛が出した考察は「スカアハ兵には命がなく物だから修復剤として使えるのでは」というものだったが、答えを知るであろうダインはあいも変わらず現れることはない。


 他にも色々と確認したいことがある。

 しかし、彼らから接触する方法がまるでない現状では考察とできる事を把握するしかないのだ。


 窓を開くことで完全に直せたことを確認した修也はそこから顔を出して地上にいる凛へと言葉を飛ばす。


「じゃ、また!」


「うん! また放課後に図書室に集合ね!」


 確認しあった2人はそれぞれにアルカナを解除し、陽の国に戻った。


◇◇◇


 影の国から戻った修也は昼食に箸をつけていた。


 金曜日の昼休み。2年B組の教室。

 思い思いにその時間を過ごす中でいつもより少し上手くできた卵焼きを満足気に修也は食べていた。

 そんな彼へといつものように机を向かい合わせてコンビニの焼きそばパンを食べていた透が言葉を投げる。


「なぁ、お前なにがあった?」


 ふと上げた視線の先にある透の顔はジト目だった。

 卵焼きを飲み込んだ修也は少し身を引きながら返す。


「……な、なんだよ唐突に」


「惚けんなよ。先週の水曜ぐらいから毎日女子と帰っておいてさ。

 あの子、たしかA組の子だろ? 名前は知らないけど見覚えはある」


「桑田さんだよ。図書委員で一緒に仕事してるし、帰りも電車だからな。

 今そこそこ忙しい時期で駅が同じなんだから一緒に帰ってもおかしくないだろ?」


「そりゃ、そうなんだがなぁ」


 わかってはいるが釈然としない。

 言葉と表情からそう読み取った修也はニヤリと悪い笑みを浮かべるとからかうように言った。


「なんだよ。妬いてるのか?」


「んなわけあるかよ。ただお前だけに彼女ができるのはなんかずるい。滅べ」


「恨み言かよ。ハンバーグやらんぞ」


「そりゃ恨み言の1つや2つ、10や20は出るだろ。俺彼女いねぇし」


 そこで言葉を区切った透は手を伸ばすと修也の弁当箱にあった一口サイズのハンバーグを摘むと口に放り込んだ。


「ま、その10倍は祝福の言葉を送りつけてやるがな」


 とびきりの笑顔を向けた透。

 それに対して修也は露骨に眉をひそめるとボソリと呟く。


「……なんか気持ち悪いな」


「素直に喜べよ!」


 ため息をついた透は雰囲気を変えるように再びパンに口を付けるとそれを飲み込んで続けた。


「でも、本当にそれぐらいの幸せっていうか、なんかそういうことがあっていいだろ」


「幸せ、ね……」


 透の言葉を噛みしめるように口ずさんだ修也は途端にどこか気恥ずかしくなり、それを紛らわせるように笑いながら言う。


「俺はお前にも幸せになって欲しいって思うけどな」


「おう、お前が望まなくてもなる!」


 根拠などないはずなのにはっきりと胸を張りながら宣言した透に少し呆れながらも頼もしさのようなものを修也は感じた。

 そんな時、透はその誘いを口にした。


「手始めに、明日か明後日かにゲーセン行こうぜ。

 瑠衣(るい)もお前に会いたがってるし」


 透の言った「瑠衣」とは彼の妹のことだ。

 通っている高校は修也たちと同じだが歳が1つ下ということで当然ながら学年が違い、教室の階層も違うため学校で会うということはあまりない。


 しかし、修也にとっては瑠衣は友人である透の妹。

 彼から積極的に会いに行くということはないが、透と同程度の付き合いはあるため共に遊びに行くということは頻繁ではないが不思議なことはない。

 そういうこともあり修也は嫌な顔を1つとせずに頷いた。


「わかった。なら明日行くか」


「よっし、なら天海(あまみ)駅前で集合な」


「瑠衣ちゃんも来るんなら何やるかな?」


「そりゃあいつなら音ゲーだろ? 後は──」


 土曜日の予定を和気藹々とした様子で話しているうちにその日の昼は過ぎていった。


◇◇◇


 そして、同日の夕方。

 もはや普通となった凛との下校時にそんな話をした修也へと彼女は問いかける。


「いいなぁ。私そういうところ行ったことないのよね」


「へぇ〜。親が厳しいとか?」


「ううん。ただどっちも興味がないだけよ。だから私もって感じ」


 彼女の「興味がない」という言葉は真実なのだろう。

 そう語る凛の顔にはどこか寂しそうなものが見えた。


 修也は「気のせいかもしれない」と思いながらも、なにも言わないとどこか気分が悪かったためその言葉を出した。


「なら一緒に行く?」


 彼の誘いにきょとんとした凛だったがすぐに頷き、了承の言葉を口に出そうとした。

 しかし、寸前で思い留まると首をかしげる修也へと問いかけた。


「でも、いいのかな。私が行っても。せっかくの友達と遊びに行くのに」


「桑田さんも友達だよ。それに大丈夫、あの2人は嫌がるタイプじゃない」


 満面の笑みで友人の自慢をする修也につられて小さく笑った凛は頷き口を開いた。


「わかった。なら少しお邪魔しようかな」

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