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アルカナイック・スーサイド  作者: 諸葛ナイト
第一章 戦いの始まり
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 右腕の装備に車輪が戻る「ガチンッ」という音に続いて修也が言葉を投げた。


「あ、危ないだろ!

 もっと加減してくれ!!」


「アレでもかなり加減したわよ?

 それに一応言ったじゃない『かわしてね』ってさ」


「だからって──」


 続けて苦言を呈しようとした修也だったが、向けられた殺気を感じてその場から飛び退く。

 それに少し遅れて彼がいた場所に剣が突き刺さった。


 空中で体を捻って修也は着地、さらに距離を取るために後ろへと跳ねる。

 着地した先のすぐ隣にいた凛は声をかける。


「苦情はあとでゆっくり聞くわ。

 今は残ってるあいつらを片付けることを優先しましょ」


「ああ、そうする!」


「いい返事。なら私が剣盾と弓矢を1体ずつ倒すから紫原君は残りの1体を任せる。

 援護は?」


「いや、1体だけが相手ならいらない」


「頼もしいわね。なら、終わらせましょう」


 修也は軽く頷くことで肯定を示すと剣と盾を持つソルジャーへと迫る。


 繰り出したのは剣による刺突。

 捉えにくい点の攻撃だが、修也の姿勢から狙いは容易に見抜かれる。


 早くはあるがわかりやすい攻撃をソルジャーは盾を使って受け止めた。

 当然ダメージは一切与えられていない。


 それを気にする様子もなく修也は構えられている盾を狙って右足で思い切り蹴り飛ばす。

 飛ばされたソルジャーは両足と剣を地面に突き刺すことで踏ん張ることでどうにか倒れることは防げた。


 だが、今この状況においてその行動は誤りだった。


「貰った!」


 今のソルジャーは硬直している。

 回避は不可能、剣も地面に突き刺しているため反撃の一撃すら打てない。

 唯一使えるのは盾だがそれも正面からの話だ。


 修也は力を貯めるように腰をグッと下げるとバネのように飛び出すとスライディングし、後ろに回ると間髪入れず長剣を突き出した。


 流れるように繰り出されたそれはソルジャーの背中から胸までを貫いた。

 まだピクピクと痙攣するそれの喉に腕を回すと締め上げて同時に剣も押し込みながら90度回す。


 今度こそ力を失ったそれを投げ捨てた頃には凛の方も決着がつきかけていた。


 彼が視線を投げた頃には剣と盾を持つソルジャーは上半身と下半身に分断され、弓矢を持つソルジャーへと凛が両肩にある2つの車輪を放っていた。


 右腕の大きな車輪と比べれば小さい2つの車輪はそれと同じように丸ノコのようになり、甲高い駆動音と共に両サイドから迫る。


 おそらくそのソルジャーはどちらかに対応してから回避をするつもりだったのだろう。

 現にそれは左側から迫る車輪へと矢を放った。


 だが、刃を回転させて迫る車輪の勢いはそんな矢一本で衰えるわけもない。


 最初にソルジャーの右側から迫っていた車輪が両足を太ももから切り落とし、続けて左側から迫っていたものが弓と両腕を裂き、胸部を中程から轢断。

 そして、切り裂いたそれらはまるで満足したかのように凛の両肩の甲殻へと戻った。


 その音を最後にしんと静まり返った辺りを見回した凛は言う。


「それじゃ、この辺り少し整えたら向かいましょうか」


 甲殻のせいでその表情はまるで読み取れないが声音で彼女が微笑んでいること、偶発的に発生したこの戦闘が終了したことを修也は理解した。


◇◇◇


 近辺にオフィス街や学校が複数ある西古(にしこ)駅の隣にはカフェがある。

 といってもそう珍しいものでもない。全国にあるチェーン店だ。


 朝には朝食を買うなり食べる会社員たちをよく見る。

 対して夕方、ちょうど修也たちが店にいる時間帯は学生が席の多くを占めている。


 2人は店員に促されるままに店の奥側のテーブル席に向かい合うように座った。


 それぞれが注文して数分して2人の前にそれぞれ頼んだコーヒーが出された。


 だが、どうにも修也はすぐにカップに口をつけられなかった。

 頭の中で複数の疑問が過っては消え、浮かんでは薄れていくからだ。


 そんな彼を見かねてか凛はコーヒーで喉を潤わせると息をついて問いかける。


「別に悩まなくてもいいのよ。これから紫原君と私は同じ秘密を共有するのだし。

 そして、それは仲間と言い換えていいことだし」


「仲間……」


「そ、だから躊躇いはいらないわよ。私も聞きたいことがあるしね」


 お先にどうぞ、と言うような笑顔を向けられた修也はそれでも少し躊躇い、僅かな間をおいて恐る恐るといった様子で口を開いた。


「桑田さんは、いつからアレを使えるようになったんだ?」


 その質問は凛にとっては意外だった。

 修也でもはっきりとわかるほどに彼女は目を見開き、驚きを露わにしている。


 少し間をおいて表情を戻して咳払いを挟んだ後に出された凛の声は平静なものだった。


「ごめんなさい。少し驚いただけよ。

 まさか戦ってる場所のこととかじゃなくて私のことを聞いてくるとは考えてなかったから」


「……そりゃ、気になるし、そっちも聞く。けど、最初に聞いておきたかったんだ」


「どうして?」


「仲間だから」


 最初から疑問に思っていたこともあるが、それも直接問いかけるきっかけだ。

 深く詮索するつもりは今の所ないが、純粋に修也は凛のことを知りたいと思った。


 自分が力を得た経緯は半ば偶然であり、流れに身を任せた結果で自分の意思というものはほぼなかった。


 だが彼女はどうなのだろうか。


 自らの意思で力を手に入れたのか、もしそうだとすればなぜそうしたのか。

 そして、あの力を得てどれだけ秘密を隠し続けて活動してきたのかが修也には気になったのだ。


 凛はカップの縁をなぞりながら寂しそうに笑う。

 そんな表情の変化に首をかしげる修也へと彼女は口を開いた。


「私、さ。自殺しようとしたのよ」


「……は?」


 修也は耳に届いた言葉に対して呆然と素っ頓狂な声を上げるしかなかった。

 このカフェに来る間で聞いた話や雰囲気からはとてもだがそんなことを考えていたようには感じられなかった。


 そんな彼へと凛は笑みを浮かべて問いかける。


「紫原君から見て私って幸せに見える?」


 そう問いかける理由が分からず疑問符を浮かべるが、少しして彼女との会話を思い起こした。


「少なくとも俺にはそう見える。成績もいいし、顔だって綺麗だと思うし、家庭も悪くなさそうだし」


「ふふっ、紫原君って正面からそんなことを普通に言えるんだね。ちょっと、いやかなり嬉しいし、照れるわ」


 少し驚きながらも本当に嬉しそうに表情を緩ませる凛。

 彼女を見て修也はその妙なギャップに眉根を寄せるしかなかった。


(普通に笑えるのに、本当に自殺なんて考えていた、いや、いるのか?)


 そんな修也の思考は顔に出ていたようで彼女は話を再開する。


「怖くなったの」


「……なにに?」


「自分に、よ。周りから褒められる自分、それを受け入れて込められた期待に応えようとする自分、優等生でいようとする自分。

 全部に“私”がいないような気がしてね」


 たしかに全て自分の意思で行動していた。


 自分で褒められようとしている。

 自分で期待に応えようとしている。

 自分で優等生になろうと思っている。


 しかし、同時にそれらの意思と自分が本来ある意思とがズレていっているような感覚を覚え始めた。


「役者が役を演じているうちにその役に人格が取り込まれる、的な話?」


「ええ、そう、そうね。うん、それが近いかも。

 そういうの詳しいんだ?」


「アニメとかじゃよく題材にされるからな。そういうの」


 その答えに「たしかにね」と笑みを浮かべながら相槌を打った凛は続ける。


「ともかく、自分の手から自分が離れていくあの感覚が恐ろしくなった私はマンションのベランダから飛び降りようとしたの。

 確か……3月の中旬だったから1ヶ月ぐらい前かしらね」


「そこで声をかけられたのか。あいつに、ダインに」


「そりゃ、私も胡散臭いとは思ったけどそれ以上に私は惹かれてちゃったの」


「あの力にか?」


「んー、少し違う。戦場に立つ私にかな?」


 そこまで言ってコーヒーを飲んだ凛へと修也が問いかける。


「戦場……戦場。まさか、戦うことで自分を実感できるなんて戦闘狂みたいなこと思ってないよな?」


 もしその通りならば凛という存在は先にあの力を使っていた者や同じ委員会に所属している同級生という見方はできなくなる。

 それほどまでに修也にとっては理解し難い考えだった。


 なぜならあの場所は戦場なのだ。

 たしかに敵は弱い。

 そのため戦う恐怖は強く覚えることはないが、次はわからない。さらにその次もわからない。


 そんな危険しかなく、先を予測することも難しいような場所でしか自分が実感できない。

 しかし、戦う。それも嬉々として。


 凛の驚愕している様はその表情と所作からありありとわかった。

 目を見開いてカップを置いた彼女は目を細めると修也の顔を覗き込みながら問いかける。


「紫原君、読心術でも使えるの?」


「まさか本当に、そんな理由で?」


「そうよ。私は私を見るために、掴み取るためにあの力を手に入れたしもう1ヶ月の間使っている」


 そう呟く彼女の顔は不思議なものだった。

 嬉しそうでありながらもどこかすっきりしていない、そして自嘲気味の表情。


 それに声をかけようとしたがまるでその口を塞ぐように凛が問いかける。


「紫原君は、どうなの?」


「えっ?」


「その力を持つ理由よ。

 何かしらきっかけはあったんじゃない? 私みたいな」


 何かを探るような雰囲気はない。

 凛は純粋な興味からその疑問を修也へと向けていた。

 どこか期待に満ちた瞳と共に。

分割してるので明日も投稿します

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