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アルカナイック・スーサイド  作者: 諸葛ナイト
第一章 戦いの始まり
5/39

共闘

 2人の言葉が響いた瞬間、辺りが白黒の景色へと切り替わる。

 それに合わせて彼らの前に黒い壁が現れた。


 反射的に息を飲んだ修也と拳を握り締めて軽く歯を食いしばった凛へとその壁は迫り、そのまま激突。


 辺りに「べちゃ」とも「ぱしゃ」とも取れる水分を含んだ重いものが落ちるような音が2つ響いた。


「ッッ!?」


「つっ!」


 凛は踏ん張っていたが修也は激突した衝撃そのままに吹き飛ばされ地面を転がる。


「アッ!? ……ツァッ……」


 予感はしていたが全身が痛い。


 骨が砕けている。

 肉が裂けている。

 臓物は腹から飛び出している。


 そう感じられるほどの衝撃と痛み、熱に犯されている修也は四つん這いからゆっくりと立ち上がった。


「これ……はぁ! この姿になるたび、に感じる、のかよ!」


 全身に走る痛みと熱を堪えながら変わり果てた両手を見下ろす修也へと凛は告げる。


「そうよ。だからそのうち慣れる、というか慣れないと辛いよ。すぐに戦えないからね」


 声音からは多少苦しげなものが見えるが、修也と比べればないに等しいものだ。


 感嘆の気持ちとともにゆっくりと息を整えた彼は明瞭になり始めた視界の中に凛の姿を収める。


「……それが、桑田さんの」


「そう。これが私の戦うための姿」


 凛はそう言うとドレスを見せるようにその場でくるりと回った。


 全体的に曲面が多く、四肢は末端にいくにつれて袖のように広がっているような形状。

 それに加えて群青色という少し暗い色ということもあり鈍重そうな印象を受ける。


 その印象をより強くさせているのは腰と両肩の甲殻から下がっている車輪だ。

 特に腰の車輪は巨大で1メートルを越えており、腰に担架されている状態だと地面スレスレになるサイズだ。


「紫原君のそれもなかなかかっこいいじゃない」


 真正面から褒められるという経験があまりなかった修也は少し恥ずかしそうにしながら「どうも」とこぼした。


 そのこそばゆい雰囲気を吹き飛ばすように凛は咳払いをして質問を投げる。


「さて、この姿になればわかるでしょ?」


 痛みと熱はまだ残っているが動く分には障害にならない。

 それを凛に示すように腰のナイフシースから短剣を取り出した修也は頷いた。


「ああ、数はたぶん8体。通りの方に全員並んでる」


「よし、私が感じてるものと同じね。

 行こう。ここじゃ私がまともに動けない」


「わかった」


 頷くその声には不安が見えた。


 修也にとってはこれが2度目の戦闘。

 初陣は頭の中が混乱しており恐怖を感じる隙がなかったが今回は違う。

 さらに前回とは違い自ら打って出るという行動だ。不安を覚えないわけがない。


 そんな彼に懐かしいものを見た凛は安心させるように少し柔らかい声音で告げる。


「大丈夫。今回は私がいる。

 私自身はまだ信じられないだろうけど、私が持っている力は君を助ける。そのことだけは信じて」


「……なら、俺はとにかく突っ込めばいいんだな?」


「物分かりがいいわね。そうよ。

 紫原君の視界の外から来るものは私が吹き飛ばす」


「ああ、任せた」


 修也はそう答えて意識を気配のする方向へと向けた。


 学校のグラウンドとは違いここは大通り。

 車やガードレール、看板や歩道と隠れることができる場所がある。

 それらや並ぶ店に被害を出させるわけには行かないが、隠れながら近づくのが今回の最善手だろう。


(大丈夫だ。1回目がやれたんだ。今回もやりきる)


 自分に言い聞かせた修也は体が取りたがっている行動を汲み取り、軽く腰を落として地面を蹴り飛ばした。


◇◇◇


 広い道路には陽の国で動いていた車たちが一時停止のボタンを押したかのようにピタリと止まっていた。


 それらの間を歩くのは8体のスカアハ兵、ソルジャー。

 先頭を歩く3体は長方形の盾と剣、そのすぐ後ろの2体は長槍、最後尾の3体は弓矢を持っている。


 辺りを警戒しながらそれぞれに背中を預けてゆっくりと前進していた中で、先頭の左側にいた1体のソルジャーが何かの気配を察して歩みを止める。

 じっと注視し始めたのは1台のトラックだ。


 この影の国で動ける存在はそう多くない。

 ゆえにただ車が止まっているだけの状況はおかしくもなんともないのだが、それでも何かあると感じた。


 そのソルジャーが辺りにいた同種たちと顔を見合わせる。

 言語を使っているようには見えないが、何か納得したようにほぼ同じタイミングで頷き合う。


 すると最初に気配に気が付いたソルジャーが盾を構えながらすり足気味でトラックへと向かい始めた。

 ゆっくりと荷台の横を通り過ぎ、さらに先を覗き込んだ瞬間、夕焼けに似た色をした獣の腕が伸びた。


◇◇◇


 修也の狙いは結果的にいい方向へと転がった。


 ソルジャーの1体に気付かれ近づかれたら時はどうるものかと焦ったが、偵察に来たのがそれだけならばすぐにでも倒せる。


 その自信と見えた好機を元に手を開き、ひょっこりと顔を出したソルジャーの頭を鷲掴みしたのだ。


 握りつぶす勢いでそのまま頭を掴み上げると剣や盾を使う暇を与えずに順手で持った短剣を喉へと突き刺す。

 引き抜きながら逆手に持ち替え左胸に追撃の一撃。


 2ヶ所も急所を刺されたことで完全に活動を止めたソルジャーを捨てる。

 それと同時に高く跳び上がり、トラックの荷台に乗った。


(数は2、2、3の7、最初の含めて8体!)


 最初に感じた通りの数でひとまずの安心をした修也は改めて周りの状況を見る。


 ソルジャーたちの視線は全て修也へと向けられていた。

 その証拠に弓矢を持つソルジャーたちは矢をつがえて狙いを付けようとしている。

 下からは盾と剣、槍を持つ兵士が2体ずつの計4体が向かっていている。


(この場合はどう対処するか)


 そう考える修也へと2本の矢が放たれた。

 彼は体の命令に従うままに体を動かし、高く跳んだ。


 弓を持つソルジャーは3体、しかし放たれたの矢は2本。

 その差に気が付くと同時、残りのソルジャーが矢を放つ。


「ッ!」


 ここは空中だ。

 しかし、この姿ならばいくつかとれる対処がある。


 まず1つ、回避だ。

 だが、問題は回避後は敵に囲まれる状態になるということだ。


 凛の援護を受けるとはいえ、その援護がどのようなものかわからない現状でそんな事態になるのは可能な限り避けたい。


 次に、2つ目が防ぐことだ。

 しかし、それができたところで結果は回避した時と同様だろう。


(ならっ!!)


 思考の中で浮かんだ3つ目の行動を修也は取った。


 眼前に迫る矢に対して頭部を左に傾けて回避。

 頭部の甲殻に矢が少し掠ったが、気にすることなく通り過ぎようとしていた矢を左手で掴んだ。


「返すぞ!」


 その言葉と同時に素早く持ち替えたそれをダーツの要領で投げ返す。

 向かうのはつい先ほど空中にいた修也へと矢を放ったソルジャーだ。


 予想外の反撃で固まるそれの左肩に矢が深く突き刺さる。

 勢い任せに投げたため、狙いが甘く倒しきるに至っていないが、ほんの僅かでも隙ができれば十分だ。


 修也は生まれた僅かな隙を逃すまいとドロップキックを繰り出す。

 放たれた蹴りはソルジャーの左肩、より正確には先ほど刺さった矢の矢尻に命中し、その刃をより深く食い込ませた。


 衝撃を受け流すことができず倒れるそれを足で地面に押さえつけながら短剣を左腕の籠手に擦り付ける。

 そうして伸ばした刃を左胸に突き刺すと90度ほど回して引き抜いた。


(これで……2体目!)


 修也の視界には次の標的である長槍を持ったソルジャーが2体いた。


(この状況なら俺も桑田さんがどんな戦い方をしてくるのか見られるな)


 ちらりと視線だけを後ろに向ける。


 そこには「ズドン」という重い音を響かせる凛が立っていた。


 音を響かせた物は彼女の腰に担架されていた特別大きな車輪。

 よく見れば右腕は巨大な車輪を抱えていた装置と合体していた。


「じゃ、いっくわよー!!」


 凛の言葉に呼応するように車輪の輪の部分が縦に割れる。

 そこから現れたのは2列並んだチェーンソーの刃。


 その外見からは車輪という面影は潜め、丸ノコと表すのが正しいものへと変化した。


 巨大な車輪を腕と繋ぎ止める装置にあったサイドグリップを発動機を叩き起こすように凛が引く。

 瞬間、オンボロの大型車のような音と共に「ギュィーン」というチェンソーが回転するような音が響いた。


「とりあえず撃ち出しちゃうから! 上手いことかわしてね!」


 鳴り響く音にかき消されないように大きな声での警告。

 それを聞いて修也は自分の位置を確認する。


 彼のすぐ近くにいるのは弓矢持ち、長槍持ち、長剣と盾を持つソルジャーが各2体ずつ。

 そして、それらを間に挟んだ先にいるのが現在進行系で明らかに凶悪な車輪を構える凛だ。


「ちょっ!!?」


 ゆっくりと現状を並べて彼女の言葉の意味へと至った修也は右と大きく飛び出した。


 瞬間、放たれた車輪は舗装された道路をえぐりながらソルジャーたちへと向かって真っ直ぐに突き進む。


 長槍を持つ兵士2体と弓矢を持つ兵士1体を轢断した巨大な車輪、否、巨大な丸ノコは勢いそのままに修也のいた場所を通り過ぎてようやく止まった。


 まるで「仕事は終わった」そう告げるように刃を収納した車輪は凛の右腕の装置へと戻っていく。

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