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アルカナイック・スーサイド  作者: 諸葛ナイト
第一章 戦いの始まり

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決着

 振り下ろされた大鎌は凛の胸部甲殻を容易に切り裂いた。


「ッッッッ!!!?」


 凛が声にもならない声を上げると同時に青い血が吹き出す。

 その血を浴びる死神は躊躇うことなく横合いに大鎌を構えると即座に薙いだ。


 狙いは上半身と下半身を分断することだったが、痛みでよろけて後ずさっていたため、彼女の腹部に横一閃に深い切り傷が入る程度で終わる。


 再び悲痛の声を上げて姿勢を崩す凛へと死神は1歩踏み込んだ。


(なら、首を落とす)


 本来ならば彼女の父親である龍弥の目の前で殺すつもりだったが、行方不明で動揺する姿を見るだけでも何もしないよりは心は満たされる。


 そう自分に言い聞かせた死神は横合いに切り抜かれた大鎌を高く掲げた。


 先ほどとは違いしっかり踏み込んでいるため、このままいけば確実に大鎌はその首を地面に落とすだろう。


 しかし、ここにいるのは彼ら2人だけではない。


 向かってくる気配を感じた死神は反射的に後ろへと大きく跳んだ。

 瞬間、修也のドロップキックが屋上の床を抉る。


 彼の攻撃はそこで止まることはなく、回避のために跳んで体を宙に浮かばせている死神へと向かう。


 間合いに入れた修也が振り下ろした剣を死神が大鎌の柄で受け止める。

 そのまま鍔迫り合うかと思われたが彼は器用に死神の体を蹴り飛ばし、その反動で後ろへと跳んだ。


 修也が着地したのは凛の隣だ。

 彼は狙い通りの行動ができたことを喜ぶこともせずに凛へと駆け寄って声をかける。


「桑田さん! 大丈夫!?」


「ッ! ……大、丈夫、すごく痛い。けどね」


「すぐにアルカナを解いてくれ。それならすごく疲れるだけで済む、はずだから」


「でき、ないわよ。そんなこと……」


「でも! もうその傷じゃ戦──」


 全てを言い切る前に感じた殺気。

 それを受け止めるように修也は剣を振るった。


 瞬間、響いたのは金属同士がぶつかり合う重く、甲高い音だった。


「戦ってる最中だってのに随分と余裕があるな?

 一度勝ったからって、調子に乗るなぁ!」


 叫ぶやいなや大鎌の石突きで修也の脇腹を殴りつけた死神はよろける彼へと続けて拳をぶつける。


 頭と視界が揺らされ一瞬だが死神の姿を見失った。

 そんな状況の彼へと死神は大鎌を振り上げる。


 先ほど防がれた腹いせをぶつけるようにそれを下そうとしたが、その前に巨大な車輪が割り込んだ。


 2回目の失敗に舌打ちした死神はキッと邪魔をした者を睨んだ。


 そのまま踏み込もうとしたが間に修也の左腕が入る。

 表情はわからないが発せられる雰囲気は「俺を倒していけ」と雄弁に語っていた。


 そんな修也が死神へと言葉をかける。


「お前に、聞きたい」


 質問になど律儀に答える義理はない。

 しかし、この会話で何か揺さぶるきっかけが生まれる可能性がある。

 そう考えた死神はぶっきらぼうに言葉を返した。


「なんだよ」


「その力をお前は復讐のためだけに使うのか?」


「……はっ!」


 何を聞いてくるのかと少し警戒していたこともあり、笑って雑に払うと続ける。


「当然だろう? この力はそれができるんだ。

 そりゃするさ」


 全てを諦め、命を絶とうとした。

 そんなところに舞い込んできたのが圧倒的な力だ。


 その力を自分のために使って何が悪い。

 その力で奪われたものを奪い返すのに何をためらう必要がある。


 死神の言葉にはそんな想いが重くのしかかっていた。


「まさか、お前は俺を止めるつもりか?

 俺を殺そうとしたやつを止めなかったのに?

 はっ、お笑い種だなぁ!」


「止める気は、ない」


 嘲笑うような物言いを気にも止めずに修也はきっぱりと言い切った。

 突き放すような冷たい物言いだが、それはまるで自分へと言っているようにも見えた。

 さらに言い聞かせるように続ける。


「ただ俺のために、俺が守りたいと思ったものを守るために」


 そのためならば例えその先にどんな障害があろうとも、それが誰かの命があったとしても、切り裂き押さえ付けて進む。


 彼の言葉からそんな意思を感じた死神はスッと目を細めると頭を抱えながら笑い声を上げた。


「はっはっは!! 変わらねぇ! なんっも、俺と!」


「ああ、そうだ。変わらないさ。

 ただもし、お前が引くなら俺は何もしなかった。

 でも、お前はさっき復讐のためだけに使うと言った。だからここで倒す(殺す)


 愉快そうに笑っていた死神だったが彼の言葉を聞くやいなやその雰囲気を消し飛ばし、言葉を吐く。


「最初から勝った気でいるその態度……気に入らねぇ」


 当然のように言い切るその物言いは桑田龍弥のそれと嫌に似ていた。


 死神からしてみれば本来なら修也という存在に興味はない。構う必要など一切ない。

 だが、癪に触った彼をそのまま放っておくことなどできない。


「あいつを殺す前にお前を殺してやる」


 大鎌を構えた死神と対峙する修也は軽く頭を凛へと向けると少し柔らかな口調で言う。


「ごめん。桑田さん。

 俺は君の復讐を遂げさせなくするかもしれない」


「紫原君……」


 痛みでそれ以上の言葉が吐けない。

 許すという言葉も、止める言葉も凛の口から出ることはない。

 無理やり伸ばそうとした腕も修也の背中には届くことはなかった。


 伸ばされた手から修也が何を感じ取ったのか凛にはわからない。

 ただ、彼はなにも言わずに剣を構えると死神へと飛びかかった。


 空気を穿つように駆ける夕焼け色の甲殻。

 それが己の武器の間合いに死神を捉えるのは一瞬のことだ。


 振るわれる横一閃。

 対して死神は大鎌を縦に構えることでそれを受け止め、甲高い金属音を響かせながら弾く。


 弾いた衝撃で互いに距離が開いた。

 結果的に死神の大鎌の間合いに修也は入れられた。


 反撃の一撃は修也の初撃同様にしかしより雑な横薙ぎの大鎌。


 それを左腕の甲殻と剣の腹で受け止めるが、わずかに押されてズズッと屋上の床を足裏が削る。


「ッ!?」


 そこでそのことに気が付いた修也は左膝で大鎌を蹴り上げると大きく後ろへと飛び退いた。

 そして視線を先ほどまで死神の大鎌を受け止めていた左腕の甲殻へと向ける。


 修也のアルカナの左腕はガントレットや籠手のようになっており、右腕と比べて防御力がある。


 なのにそれにはまるで熱した刃でチーズを切ったかのような綺麗な線が付いていた。

 青い血が甲殻に沿って伝い落ちている。


(たった一撃だったぞ? なのに……)


 思い返してみれば凛のアルカナの甲殻も容易に切り裂いていた。

 その勢い、刃の滑り方からは硬い何かを切っているという感じはなく、むしろ柔らかな肉を切っているように感じられた。


(いや、そうか。甲殻(防御力)を、無視しているのか……!!)


 修也たちが死神と呼ぶアルカナ。その能力は2つ。


 1つは両目の窪みから溢れる黒煙。それに身を溶かしての移動である。

 もちろんそれにも制限があるのだが、修也にはそのタイミングがわからない以上厄介なものでしかない。


 そして、それ以上に警戒すべきは大鎌。

 ただの武器だと修也は思っていたがそれにはある能力がある。

 その能力とは魂があるモノの防御力を全て無視するというものだ。


 どう防ごうがそれが魂を持つ限りその刃は必ず甲殻を切り裂き、肉を断ち、それらのついでに骨も切る。


 しかし、それも全てを切れるわけではない。


 先程の打ち合いで無傷だった剣を中段に修也は構え直す。

 どれほど強固な鎧であれ甲殻であれ無関係の大鎌だが、魂を持たない武器は切り裂けないのだ。


 その僅かな欠点と今までの経験からできる大鎌への対処は武器で受け止めるかかわすかのどちらかだけ。


(……なら!)


 次の行動を決めた修也は駆け出すと長剣から短剣へと戻し、死神の懐へと深く入り込んだ。


「ッ!!」


 その速度は死神になにか行動を起こさせるよりも速い。


 死神の大鎌のリーチはたしかに修也の使う短剣はもちろん長剣よりも長い。

 だが、その分だけ小回りが効きにくい武器でもある。


(だから、攻撃をさせないように距離を詰めて──)


 鋭く突き放たれた短剣だったがそれが貫いたのは黒煙だった。

 無論彼の手に何かを貫いたような感覚はない。


 少し離れた場所、より正確には大鎌の射程に修也を捉える位置で黒煙は死神の姿を作り出した。

 作り出されたそれはすでに大鎌を横に構えている。


「甘い!!」


「取った!!」


 死神と修也の言葉はほぼ同時に響いた。

 振り回された大鎌が横へと通り過ぎるその寸前に修也は高く跳ぶ。


 高さにして3メートル。

 それだけの高さへ跳び上がりながら左腕の籠手のような甲殻のスリッドに短剣を突き刺した。


 瞬間、先ほどまで金属がぶつかり合っていた戦場には似つかわしくないほどに美しく、しかしあってもおかしいとは思わないほどの勇猛さを持つ8枚のフィンが籠手のような甲殻から伸びた。


(黒煙にずっとならないということは連発できないということ!

 その時間はわからないがインターバルがあるのなら、それを誘発して即座に強烈な一撃を──)


「──叩き込む!!」


 降下しながら修也はその拳を突き出す。

 死神は大鎌を振るったがもはや意味など存在しなかった。


 拳は大鎌をその威力を持って砕き右胸に命中した。

 爆音とそれに遅れて訪れた衝撃により近くにあった室外機やダクトが吹き飛ばされる。


 それらが収まった後、その中心地には右胸を失った死神と本来ならばあったであろう右胸の場所に腕を伸ばした修也だった。


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