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アルカナイック・スーサイド  作者: 諸葛ナイト
第一章 戦いの始まり

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怨敵

 修也が凛と共に西古駅に行くようになって4日が過ぎた。

 放課後、2人はその場所にいたのだが彼らの前にあの不釣り合いな献花台はない。


「撤去、されたわね」


「ああ、そうだな」


 自分の意思を掴むことに物を必要ない修也からしてみれば献花台がなくなったところでなにも変わらない。


 目に見えるそれが消えようと透たちが死んだという事実は覆ることはなく、修也が戦う理由も揺らがない。


 少ししんみりとした空気の中で首、より正確には黒いチョーカーに指を当てた修也はポツリとこぼす。


「……また、ここでか」


「紫原君は戦える? なんなら私だけでも」


「いや、戦うよ」


 短くはっきりと答えた修也はすぐさま表情を崩して朗らかな笑みを浮かべる。


「桑田さんを信用してないわけじゃない。ただ、俺がそうしたいんだ」


 本人がそう言うのならば凛が何かを言う必要もない。そのため笑みと共に軽く頷くことで応えた。


 幸運なことにこの時間は下校ラッシュが収まって少しという頃合い。

 辺りに人はいないためここでアルカナを纏うところを見られる心配は少ない。


 それを確認すると2人はそれを口にする。


「「ダイン・スレイヴ」」


 2人は短くはっきりと言い放つことで影の国へと転移、アルカナを纏った。


 あいも変わらず走る激しい痛みと全身に走る熱に歯噛みし、拳を握りしめる修也だがその間にも辺りの気配を探るのは怠らない。


「ッ! 数は、6」


「そう多くはな……!?」


 いつものように2人で連携して倒す。そう言おうとした凛だったが唐突な変化に目を見開いた。

 それは修也の方も同じだった。


「なん、で……数が減って?」


 最初に感じたスカアハ兵の気配はたしかに6体だった。

 しかし、今感じている気配は4つ。2つも減っている。


 途中で増えることは度々あるため「面倒だ」と思うことはあっても驚くことはないが、減っているというのは初めての経験だ。


「……また、減った?」


「ええ、今も」


 そんな短い会話をしているうちに気配は2つになり、その2つもそう時間を置かずに消え去った。


 もはやアルカナを纏う理由もないため早々に解いてこの場から去ってもいいのだが、どうにも気味の悪さと少しの興味信が湧く。


「俺は少し見てみるつもりだけど、桑田さんは?」


「私も気になるもの。着いていくわよ。

 もしかしたら……ってこともあるかもしれないから」


 影の国で動ける存在はアルカナとスカアハ兵のみ。


 同士討ちという可能性だが、あの思考らしい思考を持っているとは思えない存在たちがそんなことをするとは2人には思えなかった。


 となれば必然的にアルカナの存在が疑われる。

 凛の言う「もし」とはそのアルカナが死神である可能性だ。


 修也としては凛の復讐を止めるつもりはない。

 例え気分が進まなくとも自分はそれを見届けなければならない。そんな気がした。


「ああ、行こう」


 だから止める言葉を吐かずに頷いた。


 不意打ちにも対応できるように短剣を手に取った修也は凛と共にスカアハ兵の気配が忽然と消えたその場所へと向けて駆け出した。


◇◇◇


 彼らがたどり着いた場所はビルの屋上だった。


 屋上には複数の室外機に適当に伸ばされたダクト、なにかしらちょっとした作業はできそうな小さなプレハブが無骨に並んでいた。


 そんな場所に右手に大鎌を持っていた影はいた。

 大鎌の石突きを屋上の床に付けたそれはなにをするでもなく佇んでいる。


 2人が着地したのはそんな存在の右側、少なくとも一息で距離を詰められない程度には開けた位置だった。


 当然そんな堂々とした登場にそれが気が付かないわけもなく彼らの方を向くとふっと笑った。


「また貴様か……」


「……死神」


 呟いた修也にかろうじてわかるほどに凛が息を飲んだ。

 キュッと拳を作るがそれに気がつかない修也と死神は会話を交わす。


「一応、感謝はする」


「感謝? ああ、これか」


 死神は転がるソルジャーの亡骸を興味なさげに一瞥すると修也の隣にいる凛を見る。


「そいつはなんだ? はっ、まさか揃って俺と戦おうって魂胆か?」


 修也は隣にいる凛を視界の隅に捉える。

 アルカナの甲殻のせいで表情は窺えないが、発せられる雰囲気からは必死に押し込められてなお溢れる殺気が感じられた。


 彼の隣に立つアルカナの正体を死神は知らない。

 なんてことはない軽口のつもりだったらしく声には嘲笑うようなものが含まれていたが、それは凛の神経を逆撫でするような物言いだった。


 そんな凛を見ていた修也は辺りへと視線を巡らせ、歯噛みする。


(ダメだ。ここは、場所が悪い)


 前回戦ったような開けた道路ではなく、ここにはしゃがめば人が隠れられそうな室外機や足場としては心許ないダクトがある。


 死神の全能力はわからないが隠れられる場所があるここは黒煙に溶けて移動する能力と相性がいい。


 対して、凛の方は小回りの効かない大振りな武器しか持たず、アルカナの甲殻も大きいため移動に制限がかかるのは確実。


「桑田さん、せめて場所を……」


 死神に聞かれないように小声で言った修也に凛は小さく首肯を返す。


 それにひとまずほっとした修也だったが帰ってきた言葉に目を見開いた。


「でも、我慢できそうにないな」


「は? いや、待っ──」


「一発、殴らせてもらうわ!」


 言うやいなや凛は両肩から車輪を打ち出した。

 2つの車輪は甲高い駆動音を伴いながら一直線に死神へと向かうが少し体を傾ければかわせる程度の甘い攻撃だ


 そうであれば反射的にその行動を取るとってしまうもので、死神は体を真横にして2つの車輪をかわす。


 しかし、それは凛が予測し、誘っていた行動であった。


 車輪を打ち出すと同時に高く跳び上がっていた凛は丸鋸のような大型の装置を右腕に連結させる。

 続けてサイドグリップを雑に引くことで発動機を叩き起こすと刃を回転、それを振り下ろしながら落下した。


 重い一撃だが遅い。見切るのはそう難しくはない。

 死神はそんな軽い気持ちで後ろへと退がる。


 標的に当たることがなかった巨大な車輪はその代わりと言わんばかりに屋上の床を削り飛ばした。


 衝撃と同時に飛び散った礫のような破片が反撃に移ろうとしていた死神に襲いかかる。


(くそ!)


「桑田さ──ッ!」


 名前を呼びかけようとしたが死神がどんな反応を返すのかわからない以上それはできない。


 ただでさえ冷静さを失っている凛をこれ以上煽られでもすれば本当に命に関わる。


 即座にその予測を立てた修也は開きかけた口を誤魔化すように駆け出し、死神へと迫った。


 滑るように低い姿勢で2歩で距離を詰めきった修也は下から上へと剣を振り上げる。

 袈裟斬りを大鎌の柄で受け止めた死神は修也へとからかうように言う。


「お前、俺のこと言えねぇな!

 この力で誰かを殺そうとする。そんなやつを止められないんだからなぁ」


「ッ!?」


 その言葉に一瞬、気を持っていかれた修也の隙を死神は逃さない。

 柄を振り回すことで剣を押し返した死神は黒煙となり、室外機の裏へと回った。


「そんなもの!」


 それを見た凛が両肩に戻っていた車輪のうち右肩のものを打ち出す。

 死神が向かった室外機を破壊したがそこには煙すらない。


 視線を巡らせた凛は死神の行動を予測して左肩の車輪も打ち出した。

 再び破壊された室外機、その破片が飛び散る中に黒煙がチラリと見える。


 黒煙が向かうであろう場所はプレハブ。

 その横には屋上に上がるための階段と雨風に晒されないようにするこじんまりとした雑な建物があるだけ。


 近くには隠れられそうな場所もないため、そこから逃げるとなれば追いかける凛と自ずと向かい合わなければならなくなる。


(まずい!!)


 しかし、それは普通であればの話だ。

 死神は黒煙になることができる。であればプレハブと壁に隙間があるそこは行き止まりなどではない。


「待っ──」


 修也が止めるよりも、動くよりも速く凛は右腕の装置を駆動させる。

 刃の回転音を響かせながらダクトや室外機を足場に跳んだ。


「なっ!?」


 そこにたどり着いた凛は反射的に声を漏らす。


 なぜならそこには死神の姿どころか黒煙すらもなかったのだ。


「……ッ!?」


 当たりを探ろうとした瞬間に「待ってました」と言わんばかりの殺気。

 感じたそれに従って振り向いた先にいたのは空中に躍り出て大鎌を構える死神だった。


 死神は凛が近づくよりも早くプレハブと壁の隙間に入り、跳躍。

 簡素な雨風避けを足場にして凛の後ろに回り込んでいたのだ。


(防御、間に合わ──)


 凛が思うと同時にその刃は甲殻とその下にある肉を切り裂き、辺りに青い血を振り撒いた。

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