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アルカナイック・スーサイド  作者: 諸葛ナイト
第一章 戦いの始まり

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戦友


 直進する修也に対して1体のクローが応戦のために前へと躍り出る。

 それが振るうのは鋭い爪。


 その攻撃はすでに見切っている。ならば過度に恐れる必要はない。


 薙ぎ払うように振るわれる爪を左腕の甲殻で受け止めると煙を払うように腕を振るい吹き飛ばした。

 そこからさらに一歩踏み込み、高く飛ぶと長剣の切っ先を向けて落下。


 蜘蛛の子を散らすような勢いで2体のクローはそれぞれ左右に跳ぶことでかわした。


 ガギンッという音と共に地面に軽く刺さる長剣。

 それを抜くために修也はほんの数瞬だが動きが止まる。


 彼の隙を逃すほどクローたちは能なしなわけもなく、2体揃って同時に爪を振るった。


「っ、ぐぉおのぉ!!」


 振り上げた長剣の腹で右側から迫るクローの横腹を殴りつけるとそのまま振りきることで左から迫っていたそれにぶつける。


 迫っていたクローたちは大きく吹き飛ばされたが、不安定な状態での行動であったため、修也は姿勢を大きく崩す。

 そのせいで追撃はできない。

 しかし、彼は焦燥感のかけらも見せることはなかった。


 その理由を示すように吹き飛ばされたクローたちへと迫るのは刃の回転させる巨大な車輪。

 甲高い駆動音を引き連れたそれは2体のクローを轢断すると空中に飛び上がり、一直線に凛の元へと戻る。


 それを右腕の装置で受け止めた凛は衝撃のまま後転、近付いてきていたクローが振り下ろす爪をかわした。


 ぐるりと回った彼女は立ち上がりながら後ろへと跳び、それに合わせて両肩から車輪を放つ。

 反撃の攻撃を向けられたクローは2つの車輪の間を器用に潜り抜けると形振り構わぬという勢いで飛びかかった。


「桑田さん!」


 声を飛ばした修也はいつのまにか高く飛んでいた。

 縁取りの色を赤に変え、その右脚の側部にある甲殻からはどこか花や獅子のたてがみを思わせるフィンが伸びている。


 修也のしようとしていることを悟った凛はクローの体を巨大な車輪で受け止める。

 ほぼ同時に右腕から装置を分離させ大きく後ろに跳んだ。


 彼女と入れ替わるようにクローの背中に降下してきた修也のドロップキックが入る。


 瞬間、響く轟音。

 続けて凛のアルカナの最大の武器である車輪とともにクローの体が吹き飛んだ。


 その爆心地に立つ修也は凛の方へと向くとゆっくりと頷いていつもと変わらぬ調子で言う。


「な? やれたろ?」


「ええ、そうね……。私の武器もろともにね」


「あー、うん。それは、ごめん」


 申し訳なさそうな少し小さな声だったが、様子としては透が死ぬ前と同じようなものだ。


 スカアハ兵の気配は感じない。

 おそらくこの辺りでこれ以上の戦闘が起こることはないだろう。


 戦闘が終わった安心感と表情がわからなくともしょんぼりとした様子の修也を見て息を吐いた凛はぼやく。


「あーあ、ここまで来たの無駄になっちゃったな〜」


 内容は修也を責めているような印象を受けるが声音からは安堵しているように感じられた。


 しかし昨日の今日であるため修也は凛がそんな声音をする理由を知らない。

 それを聞き出すきっかけとして彼女と共に戦闘するときに言っていたことを問いかける。


「そういえば、何かの予定って」


「そ、瑠衣ちゃんに紫原君のこと色々聞こうと思ってたのよ」


「俺のこと?」


 確認するように自分を指差した修也は「なぜそんなことを」と考えたがその答えはすぐに出た。


 彼が察したことを雰囲気から感じたようで凛は頷いた。


「そりゃ、戦わなくてもいい。でも、ずっと塞ぎ込んでいて欲しくはなかったからね。

 迷惑かなって思ったけど」


「なんで? そんなわけがないだろ?

 俺のためにしようとしてくれたんだろ。感謝こそすれ迷惑なんて」


「そう? 紫原君からしてみれば私は非日常側にいる人じゃないかしら?」


「それは……」


 修也は否定できず言い澱むしかなかった。


 凛との出会いのきっかけは図書室で首に黒いチョーカーを付けているのを見つけたからだ。

 それがなければ委員会以外で話すことはまずなかっただろう。


 そんな出会いと今の関係はまさしくアルカナという非日常を挟んで築かれたものだ。


「だから私っていう存在は可能な限り紫原君の視界から外した方がいいって思ったのよ。

 だって、私っていう存在はあなたにあの事を思い出させるきっかけになるもの」


 修也にとって透が日常を象徴する存在であるならば凛は非日常を象徴する存在と言える。

 彼女を見れば非日常、スカアハ兵との戦いを思い起こすのは間違いない。


「俺は、立ち上がれたからさ。立ち上がれなかった俺のことはわからない。

 でも、たぶん桑田さんのことを変に避けたりってことはしなかったと思う」


「どうしてか聞いていいかしら?」


「だって、桑田さんと出会って悪いことばかり起きたわけじゃないから。

 この出会いだって大切にしたい。捨てたくない。失いたくない」


 今のような関係になっているのはアルカナのせいでもあるが、おかげでもある。


 図書委員で話すことが多くなった。

 放課後には喫茶店に行くこともあった。

 遊びに行くこともあったのだ。


 確かにスカアハ兵との戦いは苦しいものばかりだが、その出会いや繋がりだけは捨てたくはない。


 もしかしたらその答えにたどり着くまでに長い時間がかかっていたかもしれないが、いずれはその答えを見つけていただろう。


「今の紫原君が言うと重みが違うわね」


「そう、かな……。いや、うん。そうだな。

 誰かを、大切な人を失うのって辛いな」


 凛が復讐に駆られる理由がわかった気がした。

 彰人が父親として自分を奮い立たせられ続けている理由がわかった気がした。

 瑠衣が泣きながら寂しさを吐露した理由がわかった気がした。


 こんな苦しみと悲しみを味わってしまえば2度とそうならないようにと努力する。

 少なくとも修也はそう決めた。


 全部が全部、本人に聞いたわけではない。

 そのため本当のところは違うだろうが、修也が彼らの気持ちを垣間見ることができたのは間違いないことだ。


「ごめん。桑田さん。

 俺は本当は君のことをまるで──」


「それ以上はいらないわよ。謝罪もいらないわ」


 清々しさを感じる声で言った凛は手を差し出して続ける。


「同じ秘密を持つ者同士。これからも仲良くしましょ」


「ああ……! 改めてよろしく。桑田さん」


「ええ、よろしく」


 2人はそうして握手を交わした。


「あ、私小腹が空いちゃったなぁ〜」


「わかった。いつものとこでいいか?」


 その露骨なねだりに修也は声に笑みを乗せて返した。

 彼の語調に合わせて凛も微笑んでいることがはっきりとわかるほどに声を弾ませる。


「ええ、もちろん」


 昨日のことが嘘のように彼らの間には和やかな雰囲気が漂っていた。

すみません。もうしばらくは不定期更新となります……。

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