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アルカナイック・スーサイド  作者: 諸葛ナイト
第一章 戦いの始まり

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再起

 黒い壁にぶつかることで走る激痛を踏ん張ることで堪えた修也はゆっくりと目を開ける。


 彼が纏うアルカナの姿は意識の変化を表すかのように変化を遂げていた。

 獣のような獰猛さと美女らしいしなやかさを同居させる甲殻、その縁取りの色は白から黄色へと変化していた。


 がむしゃらに戦ったのではなく、怒りにまみれていたわけでもなく、修也自身の明確な意思によって至った。


 今では全身に走る痛みと熱が全身が力を掴んだという確かな手応えを示しているように修也は感じた。


 その力を握りしめるように両手を握りしめると同時に辺りにスカアハ兵の気配。


(数は……3体。しかもこの速さは──)


 近付いてくる気配、その主たるそれらは3方向から一斉に修也へと飛びかかる。

 彼が予想していた通りそれらはクローの集団だ。


 徹底的に敗北させられた存在だが、修也は不思議と恐怖感や畏怖といったものを覚えていない。


 正面から迫るクローに近付くと迷いなくアッパーで打ち上げる。

 続けて右後方から来ていたものを蹴り飛ばし、左から迫っていたものは頭を掴むと落下してきたクローへと投げ付けた。

 2体のクローは2メートルほど吹き飛ばされ地面を転がる。


(正直、動きははっきりと追えないけど……やれる!)


 動きは見えないが狙いは自分自身のみ。

 ならば接近して来る気配や地面を蹴る音を聞けば対応はできる。


 修也は地面を転がる2体のクローから蹴り飛ばしたものへと視線を変えた。


 彼が見た時にはクローはよろけながらも立ち上がっているところだった。

 いくら対応ができるとはいえ、また動き出されては戦闘の主導権が握られることになる。


 さらに上に数では劣勢。

 ならば減らせる時に1体でも減らすべきだ。


 行動を組み立てた修也はナイフシースから短剣を取り出すと姿勢を低くして滑るように走り出す。

 順手に持たれた短剣が一直線に向かうのはクローの左目。

 その切っ先は吸い込まれるように目に突き刺さり、水っぽいものが弾ける音が響く。


「グルゥァァアッ!?」


 苦悶の声を上げるが気にすることなく短剣を横へ切り抜くと逆手に持ち替え、脳天に突き刺した。

 左手で手刀を作り喉を貫く。


 突き刺した手と短剣を抜き取ったころには2体のクローたちは体勢を整えていた。

 左にいたそれが走り出すのと同時に修也も駆け出す。


 先に攻撃を仕掛けたのはクローの方だ。

 薙ぐように前足の爪を振るう。


 それに切りつけられる痛みは体に染み付いている。

 しかし、修也は怖気付くことはない。


 減速することなく突っ込むと振るわれた爪を左手の籠手で受け止めた。


 ガンッと重みのある音が響き、同時に修也が少し右に滑る。

 だが、クローができたのはそれまでだ。


「こん、のっ!!」


 修也は右膝をクローの下あごに打ち込む。

 軽く浮かぶその体が宙を浮かぶ間に左腕の籠手を短剣に擦り付け、長剣へと変化。

 変化が終わるのと同時に横へと振り切った。


 空中にいたクローは身動ぎすらできずに振るわれた刃により真っ二つになり、地面に落ちる。


 その光景を見た最後のクローは唸りながらもゆっくりと後ずさりをするとそのまま修也に背を向けて逃げ出した。


「ッ!? 逃すか!」


 修也は一瞬も迷う事なく走り出した。


 アーチャーの時にはまだ実感が湧かなかったが、目の前でその光景を見た今ならわかる。

 あのクローを逃がしてしまえば誰かがどこかで死ぬ。


 例えそれが全く知らない誰かであっても、自分が逃したせいで誰かを死なせるようなことは、悲しませるという後悔はしたくない。


(くそ……!)


 道を走っていたかと思えば民家の屋根に飛び乗り、かと思えばまた道に降りて走り続けるクロー。

 その姿はオオカミというよりも猫に近い動きだ。


 修也の方もそれに負けず劣らずの身体能力を駆使して全力で追いかけているがその距離はなかなか縮まらない。


 アルカナを纏った時の身体能力は人間と比べればたしかに桁外れだが無限ではない。

 ただ追いかけるだけでは速度を重視しているクローにいずれは撒かれてしまう。


(どうすればいい? 足を止めずに、あいつを止める方法……!)


 頭の中を必死に探る中で気配を感じた。

 それが気のせいでない事を示すようにクローの目前に2つの車輪が突き刺さる。


 クローは急ブレーキからの後退でその攻撃をかわした。


(止まった!)


「今よ!!」


 言葉が飛ばされるよりも早く修也は長剣で投槍のような構えを取る。

 止まるのもまどろっこしく感じた彼は両足を地面に擦り付けて滑りながらそれを投げた。


 ヒュンッと空気を突き穿ちながら進んだ長剣はクローの胴体を貫いた。

 その間に速度を殺し終えた修也は高く飛び上がるとクローの頭部に踵を落として倒した。


「はぁ……はぁ……」


 肩で息をしながらもクローから長剣を抜き取り、短剣に戻した修也は近付いてくる者に少し驚きながらも礼を言う。


「ありがとう。桑田さん」


 クローの足止めを行い修也に攻撃のチャンスを与えたのは凛だった。

 肩の甲殻へと車輪を戻しながら彼女は首を横に振る。


「いいのよ。私も用事があっただけだしね。でもベストタイミングだったみたいね」


「ああ、ほんとに助かった。あのまま取り逃がしてたらまた……」


 その時の光景を頭に思い浮かべて拳を握り締める修也。

 凛はそんな彼を頭の天辺からつま先までをまじまじと見ると慈しむような柔らかい声音で問う。


「答えは出せた?」


 それ以上聞いてくることはなかった。

 修也のアルカナの縁取りの色は黄色へと変わっているが、それについて問い詰めるような雰囲気もない。


「……ああ、出せたよ。ようやく」


 だから修也の方も詳しく話すことなく短く答えた。


「そう……なら、よかったわ」


 短い会話がかわされたが「それで十分」とでも言わんばかりに凛は言った。


 その声音は言葉どおりに安心したようなものだったのだが、端にはどことなく寂しさのようなものが込められているような気がした。


(気のせい、か……?)


 彼女が寂しさを覚える理由がわからなかった修也は少し気になりながらも流すことに決めて問いかける。


「まだ、戦えるよな?」


「ええ、もちろん」


 言葉をかわすと同時に2人は揃って前へと跳んだ。

 瞬間、どこからともなく現れた3体のクローが放った攻撃が地面を抉る。


 凛は振り返りながら、前回り受け身から立ち上がった修也に確認する。


「さっきはよく見れてなかったけど、あれが紫原君が言ってたやつね」


「ああ、見てわかっただろうけどとにかく動きが速い。正直、今の俺でも見えない」


 先ほどの攻撃を難なく交わしたように見えた凛だが、実際はかなりギリギリだった。

 修也が体重を前に向けたのを見たからそれに習って跳んだだけで気配を察することさえ彼女にはできなかった。


 凛はそのことを踏まえて呟く。


「なら私は紫原君以上に戦えないわね。さてさて、どうしようか」


「そうだな……」


 考えながら修也は籠手に短剣を擦りつけて長剣へ変化させ、それを中段に構える。


「さっきと逆をしよう。俺が動きを止めるから桑田さんは攻撃を頼む」


「いけるの? 相手は3体よ?」


 驚愕と不安が混じった言葉に修也は言葉尻に笑みを浮かべて答える。


「ついさっき1人で相手にしてたし、今なら桑田さんもいる。

 逃す隙すら与えないって自信あるよ」


 それに数度瞬きをした凛だったがすぐに意識を現実に戻してなんとか取り繕った言葉を口にする。


「そこまで信頼されてると少しこそばゆいわね」


「俺が信じたいって思ったんだ。だからどこまでも信じるさ」


 まるで予想だにしていなかった答えに凛は今度こそ返すものを見つけられずに呟くように答える。


「そ、そう……ありがと」


 それが限界だった。

 もしアルカナがなければ赤面した顔を見られていたことだろう。


 そのことを吹き飛ばすように首を横に振った凛は修也へと言う。


「紫原君、行くわよ!」


「ああ!」


 答えると同時、修也はクローたちへと駆け出した。

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