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アルカナイック・スーサイド  作者: 諸葛ナイト
第一章 戦いの始まり

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No.Ⅷ 力

 翌日の土曜日。

 修也の姿は吾妻家、つまりは透や瑠衣の家の門扉の前にあった。


 インターホンはすでに鳴らされ、すぐに出る旨は伝えられているため素直に待っている。

 緊張を少しでもほぐすように息を吐いたところでそれは玄関扉が開けられた。


「あ、その、お久しぶりです。修也さん」


 そう言葉を向けながら門扉に駆け寄る瑠衣の顔には驚きの色が濃く浮かんでいる。


 数日前のどん底まで落ちた修也の姿を知っているからこその驚愕。

 それほどまでに今の彼が放つ雰囲気、表情は違っていたのだ。


 挨拶以外に何を言えばいいのか咄嗟に浮かばなかった瑠衣へと修也は落ち着かせるように声をかける。


「うん、久しぶり。瑠衣ちゃん。

 家、上がってもいいかな?」


「あ、はい。どうぞ……」


 答えながら門扉を開けて敷地の中に修也を入れる。

 礼を受け取った瑠衣の目には今の修也は不思議というほかなかった。


 元気溌剌といったわけではなく、かといって空元気という事でもない。

 鎮痛の面持ちをしているわけでもなければヤケになっているということでもない。


 例えるのならばなにか覚悟を決めてたかのように映った。


◇◇◇


 リビングの隣にある和室には真新しい仏壇があり、そこに置かれた写真には笑顔を浮かべる透の顔があった。


 二度と現実で見ることができないその笑顔を見た修也は線香をあげると手を合わせて目を閉じると小さく俯く。


(透、ごめん。お前を守れなくて)


 謝ったところで意味はない。

 自分が楽になるわけでも、誰かに許されるわけでもない。


 だが、不要な言葉ではなかった。

 自分が背負うために、守れなかった存在があるという現実を突きつけるためには不可欠のものだ。


(お前が死んでようやく気がついたんだ。

 ほんと、お前にはずっと助けられてばかりだったな)


 もっと早く見つけていれば、もっと早く気付くことができていれば透を死なせることはなかった。

 今の修也にははっきりそう断言できる。


 アルカナの能力以前に覚悟がなかった修也に守れるものなどあるわけがなかった。

 力を持つ者の覚悟、その力を持ったせいで背負うものがあることを知らない者がまともに戦えるわけがなかったのだ。


 だが、今は違う。


 戦う理由を見つけ、それに伴って覚悟も決まった。


 これから何度も負けることはあるかもしれない。

 死にかけるような経験も一度や二度では済まないだろう。


 しかし、どれほどの窮地に陥ってもそれでもまた立ち上がり、前に進む。


(俺は、俺なりにけじめをつける)


 これは贖罪ではない。

 ただ紫原修也という存在が考えて見つけ出したけじめの付け方だ。


 そして、それは同時に彼の戦う理由である。


 もう誰かの悲しんでいる顔を見たくない。

 その顔から目を逸らすのではなくそうさせる脅威と戦うには自分が前へと進み続けるしかないのだ。


 だからこれは贖罪ではない。

 ただ自分の手にアルカナという力があり、自分ができるから自分自身のために選んだ道だ。


 合わせていた手を下ろし、軽く下げていた頭を上げる。


「ありがとう、透。さようなら」


 誰にも聞こえないほどの小さな声が和室に響くのと同時に瑠衣がおずおずと言った様子で声をかける。


「あの、修也さん……」


 修也が振り向いた先にいた瑠衣の顔には戸惑いが現れていた。


 記憶の中にある修也の最後の顔と今の顔が一致しないのだ。

 そんな顔からいつもよりも少し柔らかい声音の返答が上がる。


「瑠衣ちゃん。ありがとう」


「え?」


「あの時、瑠衣ちゃんが手を引いてくれなかったら俺はあいつの最後を見てやれなかったと思う」


 透が棺桶に収まっている姿や骨となった姿を修也は思い出せない。

 それでもその場にいたという事実は修也の後悔をほんの少し和らげる事実だった。


「よかった、です。私、少し後悔してましたから……」


 修也の落ち込み方は見ていて心配するほどだった。

 家族よりもずっと辛そうで悲しそうで、苦しんでありながら自分を責めているようにも瑠衣には感じられた。


 それでも修也をあの場に引っ張り出したのは一重に兄である透のためだ。


「お兄ちゃんなら最後には修也さんもいて欲しいって思うから。これは本心です。

 ……でも、それって私のわがままでもあったんですよ」


「そんなことはないと思うけど」


 修也のフォローを優しく突き返すように瑠衣は首を横に振ると微笑みながら言う。


「ううん。やっぱり私のわがままです。

 だって、お兄ちゃんなら『お前たちはいつもどおりに笑ってくれればいい』って言いますから」


 たしかに透ならば言ってもおかしくはない。

 修也へも「俺の葬式よりもお前のことを優先しろ」と言うだろう。


 妹である瑠衣は分かっている。それでも修也をあの場に呼んだのだ。


「私は修也さんにはお兄ちゃんとお別れをきちんとしてほしいって思ったんです。

 理由は……私にもよくわかりませんけど、でも、そう思っちゃって動いたんです」


 そのわがままのために連れてきた修也の姿は見ていて辛かった。


 どこか心ここに在らずといった様子でぼーっと棺桶を見つめている姿はいつも見るものとはあまりにも違い過ぎた。


 ここまで連れて来なければ、葬式に参加などさせなければ彼にあのような顔をさせることはなかったのではないか、とずっと後悔していた。


 だから、学校を休んでいる修也に対してメッセージを送る以上のことができなかった。

 もしかしたら彼は自分に透の姿を重ねるのではないかという懸念があったため直接会いに行くことを躊躇わせたのだ。


「修也さんにももう会えないのかもしれないって思って……。

 お兄ちゃんの次は修也さんとも会えなくなったらどうしようって思うともっと苦しくなって……!」


 次第にその目に涙が浮かぶ。

 瑠衣も自分のやったことを後悔して自分を責め続けていたのだ。


(あいつならこういう時……いや、違うな──)


 修也は頭に浮かんだ透に「大丈夫」と微笑むと瑠衣へと近寄る。


「ごめん」


 一言挟んだ修也は迷わず彼女の震える体を抱きしめた。

 そのまま安心させるようにその頭優しく撫でる。


「へ?」


「はは、ごめんな。俺、あいつみたいに言葉が浮かばないからさ。こうやって行動で言うしかないんだよ。

 嫌、だよな?」


「い、いいいや!? あ、いやこれはその嫌っていうかことじゃ、あの……」


 突然抱き締められるなど予想だにしていなかった瑠衣の目から涙は綺麗に吹き飛んでしまっていた。

 それと入れ替わるように耳まで真っ赤になっている彼女へと修也は言う。


「俺はさ。透じゃないからわからないこと山ほどあるし、できないこともあるけど。話を聞くぐらいはできる」


 そこまで言った修也は瑠衣から体を離すとその肩に手を置いて続けた。


「それ以外にも俺ができることはする。だから、笑っていてほしい」


「笑、う……」


「ああ、俺は瑠衣ちゃんが泣いてる顔より笑っている顔の方が好きだからさ」


 慰めたり励ますような言葉は思いつかない。そもそも言う資格がない。


 だから、自分が好きなものを、望むことを真正面から屈託のない笑顔と共に修也は伝えた。


「す、好き!? わ、私の、笑ってる顔が!?」


 これ以上ないほどに顔を真っ赤にさせた瑠衣は気恥ずかしさから修也と視線を合わせることすらできなくなり、俯いた。


「だ、大丈夫か? なにか──」


「な、なんでもありません! 大丈夫、全然全く大丈夫です!」


 食い気味に言った瑠衣は自分の気持ちを落ち着かせるように深呼吸。

 まだ顔が火照っているような気がするがどうにか言葉を返す。


「あ、ありがとうございます。修也さん。

 まだ、ちょっと気持ちは落ち着いてませんけど、少し安心しました」


「……そっか。なら、よかった」


 修也は微笑むと足に力を入れて立ち上がった。

 そして振り返り写真の中の透を見つめる。


(俺に任せるのは不安だろうけど、ちょっとだけ頑張るから。まぁ、任せてくれ)


 そんな言葉を送った彼を現実に引き戻したのは首を傾げる瑠衣だ。


「修也さん?」


 急に立ち上がったことを不思議に思っていることを自然と首を傾げていることから感じ取った修也はいつもと変わらない口調で言う。


「少し用事があるんだ。

 ごめんね。色々急になっちゃって」


「い、いえ、それはいいんですけど……」


 そうは言うが突然の変化に瑠衣は戸惑いの表情を浮かべていた。

 修也も本来ならばこんな急に帰る気はなかったのだが、状況が変わってしまった。


「ごめんほんと。今度きちんと色々持って、おばさんたちにも挨拶するから」


「は、はい。わかりました。お母さんたちにも言っておきます」


 それに「ありがと」と返した修也は慣れたように玄関へと向かう。

 靴を履いてさぁ出ようとしたそんな時、後ろから声がかけられた。


「あの! その……私は格闘ゲームそんなに上手くないですけど、お兄ちゃんが生きていた時みたいに、いつでも来てください」


「うん。ありがとう。また来るよ」


 修也は微笑みながらそう言って外へと出た。


 そしてそのまま歩みを進めて門扉の外へと出ると同時に呟く。


「ダイン・スレイヴ」

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