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アルカナイック・スーサイド  作者: 諸葛ナイト
第一章 戦いの始まり

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無力

 透の葬式から2日が過ぎた金曜日。

 修也はリビングのソファで力なく転がっていた。


 今日を含めて3日間、修也は学校に行くことはなかった。


 いつものように日付が変わる少し前に眠り、7時に起きて弁当を作り、朝食も食べて歯を磨く。

 時間割りにある授業を受けるための教科書やノートの準備は終えて制服にも着替えている。


 しかし、玄関へと向かおうところで足が止ましまうのだ。


 スーパーへの買い物は行ける。

 しかし、学校へ行こうと考えるとドアノブへと手を伸ばせなくなってしまう。

 昨日は自分を騙して外に出たが、その足はどうしても駅へと向かわない。


 前の席にいた人物がいないという事実を直視したくないせいかもしれない。

 葬式に出たというのにまだ透が生きている可能性を探していた。


 もし透がいればこんな時になんと言ってくれるのだろうか。

 励ましてくれるだろうか、それとも笑い飛ばしてくれるのか。


 それを考える度に透の最後がフラッシュバックする。

 2体のクローに内臓を引き出され、腕や足を食い千切られる姿。

 その光景が思い起こされる度に自分の無力さを痛感する。


 そんな負の思考サイクルを修也は続けていた。


 何の気なしに付けているテレビを見ていた修也の耳にインターホンの音が届く。

 その音にはっとして時計を見ると時間は5時過ぎを示していた。


(……また、か)


 上半身を起こした修也は深いため息を吐く。


 ふと視線をダイニングテーブルの方に向けると、そこには空になった弁当箱が放置されていた。

 記憶にはないがどうやらきちんと昼食は食べていたようだ。


 少し安心した修也へと思い出させるかのようにインターホンが鳴る。

 催促する音に慌てて立ち上がった彼は早足で玄関に向かうと返事をしながらその扉を開けた。


 その向こうにいた人物を見て修也は少し驚いたようにその者の名前を呟いた。


「桑田さん……」


「久しぶり、だね」


 凛は言うと修也の顔と着ているものを交互に見ると思うと表情を緩める。


「よかった。少しやつれてはいるけど、ちゃんとご飯は食べてるみたいね」


「うん。まぁ、一応は……。

 桑田さんはその後、どう?」


「そうね。それにも答えたいけど私にも話があるの。

 よかったら上がらせてもらえるかしら?」


「あ、ああ、ごめん」


 修也は軽く謝ると凛が通れるように扉を大きく開く。

 凛は「お邪魔します」と言い彼の家に足を踏み入れた。


◇◇◇


 修也について行きリビングにたどり着いた凛は辺りを軽く見回して意外そうな声を漏らす。


「へぇ〜、結構綺麗にしてるじゃない。紫原君がしてるの?」


「うん。まぁ、ここ2日いや、3日はしてないけど」


 その答えを聞きながら凛は視線をダイニングテーブルの弁当箱へと向けると同時に修也は慌ててそれを手に取った。


「ご、ごめん。とりあえずそこ座ってて。お茶も取ってくるから」


「ええ、わかったわ」


 いそいそと流しに向かった修也は弁当箱を水に漬けるとコップを取り出してお茶を注ぐ。

 自分の分も用意してリビングに戻った修也はそれを凛の前に置くとダイニングの椅子に座った。


 一連の動作を終え息を吐いた彼を見て凛はあまり明るくはないが笑みをこぼしながら言う。


「あの後は、そうね……まだちょっとキツイわね」


 あれから凛とその父親は博部にある別のマンションに引っ越した。

 しかし、あのタワーマンションは引き払ったわけではない。

 もぬけの殻ではあるが、未だ主人を凛の父親としている。


「何だかんだ私が産まれる少し前からあそこにいるらしいから、思い出があるんでしょうね。

 住むのに不安はあっても簡単に捨てられる場所じゃないのよ、たぶん」


「桑田さんはないのか? そういう思い出とか」


「……あるようでないわね。私にとってはもしかしたらこれから先に出来ていたかもしれないって場所よ」


 凛の答えを聞いて修也が口を開こうとしたが、彼女はそれをやめさせるために人差し指を立てた。


「それ以上はいらないわ。今の私にはやるべきことがあるもの」


「そっか……」


 最初に聞いた時同様に復讐者、死神と似た雰囲気を纏う言葉に複雑な心境で頷く修也。


 それを素直な肯定としか受け取れなかった凛は「次は私の番」とでも言いたげな語調と真剣な面持ちで持って質問をぶつける。


「正直、今の紫原君にこれを聞くのは酷いことっていうのはわかってる。でも、教えてほしいの」


「何を?」


「透君を、殺したスカアハ兵よ」


 凛はクローたちについて何も知らない。

 その能力どころか数や姿の情報すらない。


 だから凛は問いかける。

 彼の中にも自分と似た感情があるはずと思ったから、苦しいことや思い出したくないことだろうと思いながらも問いかけた。


 もはや確信さえもあったが、返されたその言葉は予想を裏切るものだった。


「それを知って何になるんだよ」


 無気力とさえ感じられる声音と顔色の修也に対して凛が食い気味に言い返す。


「何って、戦うのよ。仇を取りたいって思わないの?」


「思うさ。思うけど、それでなんになる?

 仇を取ったって透は生き返らないんだぞ!」


 復讐しても死んだ者は帰ってくることはなく、守れなかったという事実は覆らない。

 その事実に押し潰されている修也にとっては仇討ちということに意味を見出せない。


 強い口調に凛は狼狽えたように一瞬だけ怯んだがすぐに口を開いた。


「ッ、でも、まだ紫原君は生きてるのよ?

 私だって今の紫原君と同──」


「桑田さんとは違う!」


 テーブルを叩いて凛の口を止めた修也は溜め込んだものを吐き出すように語気を強める。


「あいつは、透は誰かに殺されたんじゃない! 

 俺が守れなかったんだ! 守れたのに、届いたはずだったのに、できなかったんだよ!」


「それでも私たちには力があるのよ?」


「ああ、そうだ。力はあったんだ。なのに何もできなかった。

 友達すら守れなかったんだぞ、この力は!

 そんな力になんの意味がある!」


 返された言葉により凛は口を紡ぐしかなかった。

 修也からの涙混じりの声で彼女は自分と彼の違いを思い出したのだ。


 どこまでも自分のために力を使うと決めている凛からしてみれば自分があればいい。

 もちろん大切な者が亡くなれば悲しみもする。

 しかし、そこで膝を折ることはしない。


 まだこの手に力があるのならば歯を食いしばりながら戦う。

 手にしている力で仇討ちができるのならば、大切な者を奪った存在をこの手で殺すことにも躊躇うことはない。


 一方、修也は違う。

 未だ戦う理由を見つけられず、自分が持っている力の意味を問いかけていた時に透を目の前で殺された。


 大切な親友を守れなかった力に意味がないと判断を下すのもおかしくはない。


 そもそもアルカナに奪われた凛とスカアハ兵に奪われた修也とでは気の持ちように違いがあるのは当然だ。


 そのことを失念していた凛は下唇を噛むと俯きながらどうにかこうにか見つけた返事を口にする。


「ごめん、紫原君。私とは違うのに」


 彼女の謝罪と言葉に修也も頭に昇った血がさっと下がる。


「……俺も、ごめん。桑田さんに言っていいことじゃなかった。

 桑田さんも大切な人を亡くしてるのに」


 修也は自分を落ち着かせるようにお茶を飲むと息を吐いて口を開いた。


「透を……他にも4人食ったやつらは狼みたいだった」


「狼?」


「ああ、そうだ。死神と戦ってる時は3体で今回は2体だった」


「……もしかして1体は死神が?」


「かもしれない。いや、たぶんそうだろう。

 白枠だったってこと抜きにしてとにかく速い。一緒に天海に遊びに行った時に会ったあいつらよりずっと」


「一筋縄じゃ行かなそうね」


 顎に指を添えて考え込む凛に修也は先回りするように、しかし、躊躇いがちに少し言葉を詰まらせながら言う。


「桑田さん。その、ごめん。

 俺は、しばらく戦えない。この力を持つ俺を信用できないんだ」


「……そう」


 一瞬驚いたような表情を見せた後に出た短い答えからは慈しみのようなものが感じられた。

 責めるような色は微塵もなく、むしろ安心したような声色。


 怒られているわけではないが、修也はむしろ顔を上げられなくなっていた。

 そんな時、首を締め付けるような感覚が襲う。


 すっかり慣れてしまったそれを感じ、顔をばっと上げた先にいる凛は声音と同じような雰囲気を纏っていた。


「大丈夫。私は、1人でも大丈夫だから」


 にっこりと微笑んだ彼女は椅子から立ち上がると玄関へと向かう。

 慌てて修也も立ち上がりその後を追った。


「桑田さん……あの」


「いいのよ。これが私だもの」


 そう言った凛は靴を履くと振り向き、小さく手を振って家から出て行った。

 その姿がなんとなく別れるときに見た透の姿と重なる。


(俺は……こんな……)


 本来ならばアルカナを纏える、戦える修也がここでただ立ち尽くすなんてことはしてはいけないこと。


 だが、足が動かなかった。口も開けなかった。

 玄関扉を開けてその先へと進む凛の後ろ姿を見つめるしかできなかった。


 持っている力も、その力を掴んでいる自分の価値を認められない修也は何もできなかった。

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