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アルカナイック・スーサイド  作者: 諸葛ナイト
第一章 戦いの始まり

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26/39

離別(上)

 アルカナを纏った修也は短剣を順手に持つとソルジャーへと走る。

 彼が狙っているそれは剣を持っていたが、それが振るわれるよりも早く懐に入り込む。


 修也は一息に斜め上へと切り抜くと頭を掴み、顔を上へと向けさせる。

 無防備になったその喉へと迷いなく短剣を突き刺すとそれを90度回し、引き抜いた。


 ただの骸となったソルジャーを雑に投げ捨てた修也は別のソルジャーへ。

 数秒で屍となったのを見たせいかその攻撃は比較的速い。


 しかし、それが長槍を突き出したその頃には修也は頭上を跳んでいた。

 空中で身を翻して背後に着地、即座に短剣を脇腹に突き刺し引き抜くと頭に肘を落とす。


 グラっと姿勢が揺れる間に修也は左腕の籠手に短剣を擦り付け、刃を伸ばし長剣へと変化。

 息半ばの背中へと向けて突き刺した。


 敵を容易に貫いた剣を抜き取り、周りの気配を探る。


 最初に感じた気配は4体で今この場にいるのは2体。

 増援はないようだ。


(これなら白枠でも!)


 ソルジャーの1体が持つのは2本の手斧。

 そのうち右手に持っていたものをブーメランのように投げ飛ばした。


 飛んできたそれを弾き、掴んだ修也は投げ返す。

 それを前回りでかわしながらソルジャーは走り寄り、左手の手斧を振るった。


 その一撃を剣の腹で受け止めた修也は脇腹へと反撃の蹴りを入れる。

 体勢を崩したその体へと続けて剣を斜めに振り下ろし、続けて横一閃。


 よろけながら後ずさるソルジャーへと逆手に持ち替えた長剣で鎖骨の辺りを狙い突き刺した。


 突き刺したソルジャーを捨てながら長剣を引き抜き残りの1体へと足を向ける。


 最後のソルジャーが持つのは弓。

 本来ならば援護のための武器なのだが、今までそれを射る隙はなく、これからもない。


 なぜならばそれが矢を番える時にはその目前に剣の切っ先があったからだ。

 回避も防御も許さない速度で突き出された刃は頭部を貫いた。


 しんと静まり返った辺りに剣を引き抜く湿った音と修也の安堵が響く。


「……これで、よし」


 ふと辺りを見渡せば黒点がぽつぽつとあった。

 この時間は下校時間、戦っていた場所も駅への道ということでほとんどは同じ高校に通う生徒のものだろう。


 自分もアルカナを解いて彼らと同じように駅に向かおうと思った時だった。


 胸部に向かって爪が向かってくるのが見えた。


(は──)


 心の中ですら「速い」と言うことができなかった修也はその攻撃により吹き飛ばされた。


 地面を転がりながらもすぐに立ち上がった彼が正面を見たころには追撃の一撃が迫っている。


「ッ!」


 しかし、それは先ほどの完全な不意打ちではなくある程度は予測できた攻撃。

 すんでのところで反応し、受け止めることができた。


 そうして修也は唐突に現れた襲撃者の姿を知る。


(やっぱり新しい、スカアハ兵か!)


 彼を襲ったスカアハ兵の名前はクロー。

 大きな特徴は狼のような姿をしているということだ。


 攻撃自体はつい先日戦ったファイターと比べればそう重さはない。

 脅威となるのはその速さとそれを乗せた攻撃である。


 修也は剣で押し返されたクローは空中で器用にバランスを取り直すと四肢で着地するとすぐさま飛び掛かれるように体位を下げた。


 その間に中断に剣を構え直した修也は目の前の新しい敵を睨み据える。


(間違いない。あの時、間に割って入ってきたのはアイツだ……)


 あの時、というのは死神と戦闘した時のことである。

 それに考え至ると同時に覚えた直感に従い、後ろへと跳んだ。


 瞬間、先ほどまで修也がいた場所をクローの爪が切り裂いていた。


(やっぱりまだいた!)


 攻撃の失敗を見たそれは勢いよく跳ぶと最初からいたクローの隣に並ぶ。


 修也が次の攻撃に警戒している時、並んだクローが揃って距離を詰める。

 繰り出すのは前足の爪による斬撃。


 しかも繰り出されるのは2体揃っての波状攻撃だ。


 どうにか弾き、回避をしようとするが速度も数もクローの方が上。全てをいなし切れるわけもない。


(このままだと──)


 胸部に入った一撃に奥歯を噛み締めながら剣を振り下ろすがそこにはすでにクローたちはいない。


 すでに修也の左右に展開していたそれらはほぼ同時に修也へと飛びかかる。


 左から来る攻撃には上半身を軽く逸らして回避し殴り返すことに成功したが、右から迫る攻撃を抑えるために振るった剣は意味をなさなかった。

 クローの爪は修也の脇腹の甲殻を削り取る。


(──死ぬ!)


 2方向からの攻撃が有効だと理解したのかクローは続けざまに修也へと左右同時の攻撃を繰り返し始めた。


 そうなればもはや反撃の隙すらもない。


 為す術もなく翻弄され続ける修也の太ももを左から迫るクローの爪が切りつけ、右から向かうクローが胸部を切りつけ吹き飛ばした。


「がッ!?」


 全身に切り傷を付けられ、そこから青黒い血を流す修也は仰向けに倒れた。

 どうにか上半身を起こそうとするがその頭部をクローの前足が抑えつけられる。

 さらに胸部を抑えつける爪は甲殻に深く入り込む。


 もはや剣を握る余裕すら修也にはなかった。

 頭を抑えつける前足を両手で掴んで必死に離そうとするが、その行為に罰を与えるように胸部に刺さった爪がより深く突き刺さっていく。


「うぅっ……ぐ、ぁ」


 じりじりと胸部から痛みが広がるのと同時に意識が飛びかける。

 そしてそれを示すかのように修也のアルカナ、その甲殻の縁取りの色が白と黒の明滅を繰り返し始めた。


 どうにか意識を掴み続けてはいるがそれもいつまで持つかはわからない。

 この状況を打破する策も頭に浮かんでこない。


 そんな時、視界の端にその光景が映った。


「……!?」


 それは助けではない。

 希望でもない。


 彼をより絶望へと叩き落とす現実である。


 クローの1体が黒点に近付き、狼のような口をそこに突っ込んだ。

 ぬるっと黒点の中にその口が沈んだかと思えばなにかを引っ張り出した。


 引っ張り出されたのは人。

 それも見慣れた、ほんの数分前まで話していた人物。


「ど……う、して」


 クローに引っ張り出されたのは透だった。

 まるで人形のようにただ引っ張り出され雑に地面に置かれた彼を見て修也の中に悪寒が走る。


(やめろ……)


 ボロボロになった甲殻、そこから青い血をぽたぽたと流す腕を透へと伸ばすがその手は届かない。


「や、めろ……!」


 声を出そうともそれが聞き入れられることはなく、大きく開けられた口が透の腹へと向かう。


「ッ! やめろおおぉぉぉぉおお!!」


 修也の叫びは肉が食い千切られる音にかき消された。


 それを見ていたのは彼だけではない。

 満身創痍の修也を押さえつけていたクローは獲物を独り占めにされるとでも思ったのか慌てた様子で透の元へと向かうとその腕にかじりつく。


 まるで修也へとその事実を示すかのようにぐちゅぐちゅと水っぽい肉が掻き出され、ぐちゃぐちゃと噛み潰される音がそこからは響いていた。

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