助力
連休明けの木曜日。
今日と明日学校に行けばまた休みということで連休明けだというのに通学路を歩く生徒たちの顔は比較的に明るく見える。
だが、その中には一際に暗い顔をした修也がいた。
彼は無言で下駄箱で靴を履き替え、教室へ。
開きっぱなしになったそこを潜ると席に着く。
そんな彼へと透が少しためらいながらも声をかけた。
「なぁ、桑田さんの……本当か?」
「噂、なってるんだな」
「そりゃ、な……」
「……本当だよ」
「そう、か」
呟きながら透はポリポリと頭を掻いた。
言葉を探っているのであろう彼へと道具を準備しながら修也は言う。
「明日葬式をやるらしくて。その諸々の準備で今週までは休むってさ」
「その様子だと大丈夫、なんだな?」
大丈夫かどうか。
正直なところ修也には感じたものすらも素直に口にすることができなかった。
普通に意思疎通ができるという点だけを見れば「大丈夫」と言いきれるが、それは復讐というものがあるからだ。
それがあってどうにか奮い立たせている状況でなお「問題ない」や「大丈夫」と言い切ることは修也にはできない。
しかし、その無言からでも感じ取れるものはあったらしく透は「そっか」と溢して続ける。
「まぁ、頑張れよ。
桑田さんの助けになれるのってお前だからさ」
「……なんで断言できるんだよ。
桑田さんは1人でもしっかりして──」
「んなわけねぇだろ」
食い気味の反論に修也が続く言葉を失う中で透はため息を挟んで続けた。
「俺は今日ここにきてそのことを知った。
でも、お前は違った。色々落ち着いて真っ先に連絡したんだよ。たぶんな」
「だから、助けになれるって?」
「そう、信用されてるんだよ。頼ってもいいやつって思われてもいる」
「そうかな。俺は……俺には」
そのとき、死神の姿が脳裏に浮かぶ。
戦況は押していたと今になっても思うが、倒すどころか傷すらつけることはできなかった。
凛の復讐ということを考えればそれでよかったのかもしれないが、修也の中にはその復讐を成し遂げてほしくないという感情もある。
彼女のためにも、自分のためにも振るえない力を持て余す存在が果たして信頼などされていいものなのだろうか。
それが修也の疑問であり、透の言葉を素直に受け入れられない理由であった。
思考に耽っていた修也の頭を透の手が軽く叩いた。
別に痛くはないが反射的に「痛っ」と言った修也に透は笑いながら言う。
「そんな迷う必要ないだろ?
お前は桑田さんを助ける。んで、お前だけだと難しいってんなら俺も悩む」
それは修也を助けると言うことだ。
透の言葉を聞いてふっと浮かんだ疑問を彼は躊躇うことなくぶつける。
「じゃお前は誰が助けるんだよ」
「は? お前に決まってんだろ」
さも当然のように出された言葉に一瞬納得しかけた修也だったがすぐにそのことに気がついた。
「……待て。それ、俺だけ荷が重くないか?
2人を助けるってことだろ?」
「いやいや、お前は俺が助けるんだよ。協力だよ協力」
笑いながら肩を叩く透に釣られて修也もその日始めて笑顔を浮かべた。
「ま、ほんとなんかあれば言えよ?
なんでもはできないけど、話ぐらいは聞けるからな」
「ああ、もしもの時は頼ることにするよ」
そうは答えたがまだアルカナのことは言いたくはなかった。
死神のような存在を見た直後ということもあってあの陰鬱とした世界を知って欲しくはなかったのだ。
ここまで言ってくれる友人に嘘を言う。
そのことに心は痛むが今はその嘘を言うしか修也にはなかった。
◇◇◇
その日の放課後、修也と透はいつものように共に西古駅に向かっていた。
凛のことはなに1つない解決しておらず気がかりではあるが、朝の時と比べればやることはまだはっきりしている。
そのため、少し晴れやかな気分で修也は歩いていた。
ひとまず訪れた平和な日常。
しかし、それもそう長く続くことはなかった。
「今日の……」
唐突に違和感を覚えた修也は続く言葉を中断させ、首に指を当てる。
チョーカーが首を軽く締め付けるような感覚。
近くにスカアハ兵が現れる兆候だ。
(……あいつらはそりゃ待つわけないよな)
相手は侵略者。
当然ながら修也たちの事情などに構うわけがない。
むしろ今の修也たちと死神の関係はスカアハたちからすれば仲間割れの状況だ。
これを好機と捉えないほうがおかしい。
急に足を止めた修也の方へと透は自然と言葉を向ける。
「ん? どうした?」
問いかけられた修也は気がつかれないように息を吐くと可能な限り今思い出したように口を開いた。
「……悪い。忘れ物した」
「おお、そっか。あ、なら俺待って──」
「いや、先に帰ってろ。待たせるの悪いしな」
「んー、わかった。じゃ、また明日な」
「おう。今日はありがとな」
修也の礼に透は駅へと歩きながら手を振って答える。
その背中を見て彼は学校、より正確には近くの住宅街の細い路地の方へと足の向きを変えて走り出した。




