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アルカナイック・スーサイド  作者: 諸葛ナイト
第一章 戦いの始まり

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目的

 高く跳び上がった修也は剣の切っ先を死神へと向けながら降下する。

 地面に結び付ける勢いで迫る刃をかわした死神は即座に大鎌で薙払い。


 首を切り落とそうと伸びるそれを着地直後のしゃがんだ状態からバク転する事で回避、続けてさらに大きく後ろへと跳んだ。


 今度こそしっかりと着地した修也は剣を握り直すとさながら獅子のようにぐっと腰を下げる。

 そして、抑えていたバネの力を解放するように勢い良く飛び出し、開いた距離を一息で詰めて切り上げた。


 半身逸らすことで事でかわされたが、彼は構わず剣を振り下ろした。

 死神は大鎌でその一撃を受け流し、距離を取ろうとしたがその足に修也の蹴りが入る。


「ぐッ!」


 咄嗟に放たれた攻撃だったが、死神が苦悶の声を漏らすには十分だ。


 そのまま追撃へと移りたかったが、姿勢も不安定で動きの流れも作れていない。


 怒りが支配する脳でもそう判断した修也は歯がゆさを感じながらも後ろへと2回跳ぶ事で距離を作り、剣を構え直す。


 状況は修也が押している。

 死神はただ修也の猛攻を防ぎ、かわし、受け流すことに注力するしかなかった。


 大きな理由は武器だ。

 死神の武器は大鎌であるためどうしても大振りになり、見極められやすい。


 対して修也の武器は剣。

 リーチに多少の不利はあれどそれをカバーできるだけの機動力があれば問題がないどころか小回りが利く分有利になる


 そして、それが修也のアルカナにはあり、加えて戦闘での体の動かし方に慣れている。


 まるでそのことを示すかのようにジグザグに跳びながら距離を詰めると跳び上がり、剣を振り下ろした。


「そんなもん!」


 わかりやすいその攻撃に当たるわけがない。

 死神は心の中で嘲笑いながらわざとすれすれでかわした。


 しかし、それは修也が誘った行動だ。


「ッ!」


 彼は即座に左手を伸ばし、大鎌を掴み思い切り振り上げさせる。

 両手でそれを握っていた死神の両腕は当然それにつられるように上へと挙がる。


 それはつまり、胴体がガラ空きになるということだ。


「なに!?」


 その胴体に向け修也は剣を突き出す。

 切っ先が死神の体を捉える直前、その体は黒い煙に包まれた。


 本来であれば手に何かを貫く感触があるはずなのだが、修也が貫いたのはただの煙であるためそんなものはない。

 同時に大鎌を掴んでいたはずの腕もするりと抜けた。


 煙は彼から見て右側へと移動すると大鎌を振り上げた死神を形作る。


 それが大鎌を振り下ろす寸前で修也は伸ばした腕を引っ込めると同時にすり足で正面に捉えてタックルを繰り出た。


 ダメージらしいダメージはないが仕切り直すには十分だ。


「ちっ!?」


 タックルの衝撃を和らげるように後ろへと跳んだ死神は再び大鎌を構え、修也を見据える。


(クソ、クソクソ! なんなんだよあのガキ)


 真正面から戦うにはあまりにも相性が悪い。

 このまま逃げるべきなのだが、あの怒り狂った獣から逃れられるのは簡単ではない。


(復讐はまだ始まったばっかりなんだ。俺はまだ、こんなところで終わらねぇぞ)


 死ぬわけにはいかない。

 全てを失い一度捨てかけた命だが、今は目的がある。


 復讐という目的。

 それを果たすまではこの力と命を失うわけにはいかないのだ。


 死神は大鎌を構えて修也と対峙する。

 その構図はさながら闘牛のようであった。


 だが、そこに観客はいない。

 つまりはそのままどちらかが倒れるまで戦う必要はないのである。


 悔しく、憎たらしく、認めたくはないが目の前の存在を殺すには不意打ちの強烈な一撃しかない。


 逃げるための一撃。

 死神がそのチャンスを伺う中で修也は足を踏み出した。


 そのまま再び2体のアルカナが衝突する直前のことだった。


「「ッ!?」」


 2体の視界に飛び込んできたのは3つの影。

 唐突に現れたその乱入者たちにより、アルカナ同士の戦闘は幕が落とされた。


◇◇◇


 修也の姿は駅から少し離れた駐輪場の隅にあった。

 彼を見つけた凛は駆け寄り無意識に抱きしめる。

 生きていることを示すような温かみを感じ、安堵の息をつく。


「よかった……紫原君!」


 しかし修也から返事が来ることはなかった。

 それどころか驚いた様子すらもない。


 凛は戸惑いながら体を離し、修也の顔を見上げる。

 そこには悔しさが滲み出ていた。


「紫原、君?」


「ごめん桑田さん。ごめん……」


「な、なんで紫原君が謝るの?」


 修也は目を逸らし、拳を握りしめる。

 これを言えば凛は死神と同じように復讐に縛られることになる。それが分かっているからだ。


 彼女にはそうなってほしくはない。

 しかし、この状況からできる自然な言い訳も彼の中には浮かばなかった。


 奥歯を噛み締めながらきゅっと閉じた目を開いた修也はその一言を口にした。


「……桑田さんのお母さんを殺したのはアルカナだ」


「……えっ?」


 凛は返す言葉を見つけられず、鳩が豆鉄砲を食ったような顔を浮かべるしかなかった。

 そんな彼女を見て歯を食いしばった修也は疲労困憊の様子で言う。


「どこか移動しよう。ここじゃゆっくり話せない」


「う、うん」


◇◇◇


 そうして2人がたどり着いたのは公園だった。

 子どもの笑う声と元気に走り回る姿がある景色とは不釣り合いな雰囲気を纏わせるのは修也と凛だ。


 戦った相手のこと、その目的を話し終えた修也の耳に凛の声が響く。


「そう、なんだ……」


 その声からは悲しみや怒りといったものは感じられない。

 少し意外だった修也はポツリとその事をこぼす。


「落ち着いてるんだな」


「今は、ね。色々ありすぎて一周回って冷静になってるだけよ。

 実際に相手を見たらたぶん私も紫原君みたいになるわ」


 そのことを頭に浮かべた凛はそれを吹き飛ばすように首を横に振る。

 さらに浮かんだ光景を忘れるように微笑んだ凛は空を見上げた。


「今は紫原君が生きてるってことにすごく安心してるから」


 オブラートもない真っ直ぐな言葉に修也は少しの照れを感じ「そうか」と呟く。

 そんな彼を横目で見て少し「してやった」ように感じた凛は気持ちを切り替えるように小さく息を吐いて問いかける。


「紫原君とその死神の間に入った影ってなに?」


「……わからない。あまりにも一瞬で姿もまともに見えなかったんだ」


「スカアハの新しい兵かしら?」


「たぶんな。すごく強かった……」


 3つの影に乱入された修也は死神への攻撃を中断するしかなかった。

 死神もそれは同じだったようで素直に撤退。


 次の攻撃に備えていたのだが、どれほど待ってもそれが来ることはなかった。


 少し前の戦いが嘘のようにしんと静まり返ったそこに残された修也はこれ以上はなにも起きないと判断。

 アルカナを解除できそうな場所、人影のない駐輪場で解いて今に至る。


「……ごめん、桑田さん。俺はあいつを──」


 続く言葉を遮るように修也の手に凛は自分の手を重ね、首を横に振る。


「ううん。紫原君が謝ることじゃないわ。

 それに、その役目は私よ」


 その顔には笑みが浮かんでいたが、修也はその語調に既視感を覚えていた。


「桑田さん……」


 そう考えることもなく彼はその正体に気がつく。

 凛の口から出る声は死神が発していたものと似た復讐に染まった者の声だった。

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