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アルカナイック・スーサイド  作者: 諸葛ナイト
第一章 戦いの始まり
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自答(上)

 剣戟の音が響くそこは駅前の広場だった。

 いつもならばタクシーが並び、人々がごった返すその場所。


 しかし、今はそれらは影を潜めており、代わり白と黒のコントラストで景色が作られていた。


 そんな場所で甲高い金属音を鳴らし戦うのは夕焼け色の甲殻をもっと獣と美女を足して割ったような姿をした修也のアルカナと黒い人影、ソルジャーだった。


 ソルジャーが振り下ろす剣に合わせて修也は長剣で薙ぐ。


 再び辺りに剣戟の重く、それでいて甲高い金属音が響いた。

 2体の力量差か、あるいは技術のせいか鍔迫り合いは起こることなく一方的にソルジャーの剣が弾かれる。


 大きく上体を逸らすことになったその隙に素早く長剣を構え直した長剣を喉に突き刺した。

 それを斜めにすると胸部へと切り進めていき、そのまま脇腹へとさらに進めて刃を抜く。


 少し離れた場所にポツポツとある他のソルジャー同様に完全に沈黙したそれは崩れるように倒れた。


 修也の意識にはすでにその姿はなく、視線は自分のアルカナの腕へと向けられていた。

 まじまじとそれを見ていた彼は小さく溢す。


「……やっぱり、白いな」


 透たちと出かけて約1週間。

 あれから数度アルカナを纏ったがただの一度も縁取りの色は白から変わることはなかった。


 2人で出した考察が正しければそれは修也の戦う意思が弱い、ないしは揺れているということなのだろう。


 あたりを軽く見回しながら気配を探るがそれらしいものは感じず、そしてそれを示すように静まり返っていた。

 確認した修也は長剣から短剣に戻し、それをナイフシースに仕舞って肩の力を抜くように息を吐いた。


(1週間……1週間か)


 それは凛とまともに話さなくなったのと同じ期間であった。


 新入生のために図書委員会で催していたイベントはすでに終盤に差し掛かっている。


 そのイベント時に受付の手伝いをしたがメインは栞を作ったりポップを作ったりといった準備であった。

 そして、それは凛も同じだ。


 仕事がなければ別クラスの凛と会うことなどほとんどない。

 トークアプリのアカウントは知っているがこれといった話の切り出し方がわからない。


 次に出されたため息が響くと同時に修也はアルカナを解除して駅に向かった。


◇◇◇


 翌日の昼休み。

 つい先日開放された屋上にはそこそこの生徒が集まり、会話をしたりスマホを触ったりしながら和気藹々と食事を取っていた。


 そんな者たちと共に修也と透は並んで座り、昼食を食べていた。

 適当な雑談を交わしながら食事を続けていた頃、ふと透がその話を切り出した。


「そういやお前最近は桑田さんと帰ってないな」


 痛いところを突かれたような気がした修也は一瞬だけ箸を止めたがすぐに再開させながら答える。


「そりゃ、委員会の仕事終わったからな。別クラスだし、こんなもんだろ」


「そうかぁ? それにしては互いに触れないようにしてるような気がするけどなぁ」


 言いながら食べ終えたパンの袋をコンビニのレジ袋に突っ込んだ。

 そして新しいパンに手を付けながら続ける。


「まぁ、何があったかは知らんけど仲直りはしといた方がいいと思うぞ」


「仲直り、なぁ。でもどうすりゃいいのか……」


 どうすればいいのか、そんなものはその日のうちに修也は分かっている。


 自分の戦う理由、アルカナを纏う理由を見つければいい。

 他の誰かではなく、自分のため“だけ”に戦える理由を掴めばいいのだ。


 そう、どうすればいいのかは分かっている。

 分かっているからこそ、問い続けているからこそよりもどかしいと思って今まで足掻いている。


「なぁ、知ってるか?

 自問するときって大抵もう答えが出てるらしいぜ」


「ならなんで自答ができないんだよ」


「それはな……」


「それは……?」


 期待を集めるように勿体振る透へと修也が軽く身を乗り出したところで彼は唐突にニカッと笑うとはっきりと言う。


「さぁ? 知らね」


「お前なぁ」


 友人から小さくとも何かしらのヒントでも得られると思い少し期待していた修也は肩透かしをくらい食事へと戻る。

 そんな彼を見て透はまた笑うと口を開いた。


「まぁ、でも何か取っ掛かりはあるもんじゃねぇのか?」


「そりゃお前からしたら他人事だろうけど、他人事みたいに言うなよ」


「これでも考えてるぞ?

 ただ俺は経緯とか諸々よく知らないし」


「む……そら、そうだ」


 だが、かと言って話して信じてもらえるとは思えない。

 そのせいで友達という関係が崩れることはないだろうがなんとなく躊躇してしまう。


 その理由は分からずとも事情を話すことに修也が躊躇っていることだけは悟った透は安心させるように口を開いた。


「まぁ、話しにくいなら話さないでいいけどな。

 たださっき言ったけど多分お前は答えは見つけてるんだよ。それに気づいてないだけでな」


「……なら、その答えってどうやったら気づけると思う?」


 その切り返しは予想していなかったようで驚いた表情を浮かべた透はすぐに考え込む。

 視線を空へと変えた彼は1分弱ほど黙り込むと自信がないのか恐る恐るといった様子で言う。


「正面からぶつかる、とか?」


「何に? 自問って自分にする問いかけだろ」


 その問いかけには先ほどよりも少し短い沈黙を挟み、視線を修也へと戻すと首を傾げながら答えた。


「自分?」


 透の口から出たその言葉が彼らの話の流れを変えるものになった。


 自分たちがしている話が普段らしくないと気が付いたのだ。

 そして一度そう思えてしまうと元の流れに戻れることはできない。


 特に修也は自分が自分にする問いかけの答えには一切気が付けないのに、今していた話と普段の話の落差があることには気が付けたことがおかしいと思えた。


「ぷっ……んだよ、それ」


「さぁ? 俺もわかんねぇ」


 ひとしきり笑った透は箸を再開させた修也を一瞥するとどこか安心した声音で言う。


「なんかようやく安心できたよ。

 ここ最近なんか上の空だったしなお前」


 いつも通りの自分を意識していたつもりだったが、どうやら透にはお見通しだったらしい。

 それもおそらく数日前から今日までずっと。


 そう思うとバツが悪くなった修也は素直に謝罪を口にする。


「……なんか、悪い」


「悪いって思ってるなら瑠衣にも謝っとけ。

 この間の私のせいじゃないかってずっと不安がってたからな」


「ああ、そうする。ありがとうな。透」


「おう、感謝しろ。めっちゃ感謝しろ。

 礼はそうだな……飯奢ってくれたらまぁいいわ」


 清々しく笑う透に釣られて修也も笑みを浮かべながら二つ返事で頷いた。


「わかった。また4人で行こうか」


「おっ、いいなそれ!」


 あれ以来、久々にすっきりと笑ったような気がする。

 修也はそう思いながら昼休みの時間を過ごした。

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