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アルカナイック・スーサイド  作者: 諸葛ナイト
第一章 戦いの始まり
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苦戦

 もはや見慣れ始めた白黒の世界。

 そこにある自分の異様な姿にも慣れてしまった。


「い、つっっっ……!」


 しかし、未だにアルカナを纏う時に生じる痛みだけは別格だ。

 地面に真正面からぶつかり、打ち付けられたような痛みとその痛みから発生する熱には慣れない。


 いつか慣れるかも、という予感すらまるでしないその痛みと熱を修也は歯を食い縛り、全身に走る痛みと熱を無理矢理に抑え込んだ。


 そうして軽く息を吐いて辺りの気配を探る。


「……ん?」


 そこで気がついた修也は疑問符を浮かべた。

 彼が気がつくということは当然、隣にいる凛もその違和感を覚えている。


「妙、ね」


「ああ、2体だけ?」


 感じられる気配は2つだけだ。

 スカアハの兵士たちは最低でも4体で行動している。

 度々1体が先行することはあれど、その近くには複数の気配があるのがいつもだった。


「どう動く?」


「その数でいい理由、なにか浮かぶかしら?」


「めちゃくちゃに強い、とか?」


 2人はしばし無言で視線を交わせる。

 それだけで初めての事態で困惑し、どう対処すればいいのか浮かんでいないことなど互いに理解できた。


 戦い方はわからない。

 相手の能力もわからない。

 わかるのは自分の力と隣に立つ者のある程度の能力のみ。


 しかし、逃げるという選択肢はない。

 放置した結果どうなるかはまだ知らないが、それでも相手は侵略者。ただでは済まないことは察して余りある。


 ならばやることは1つ──


「強くても、戦うしかないよな」


「何か策はあるのかしら?」


 二つ返事で頷いた凛から出された質問に対して修也は少し唸り、頭の中で行動を組み上げる。


「各個撃破で行こう。分断して確実に1体ずつ倒す」


「……いいわ。その案でいきましょう。でも最初の偵察はどうするの?」


「もちろん俺がやる。足は俺の方が速いし、身軽だからな」


「ふふっ、わかってるわね。悪いけど任せるわ」


「任される。でももし失敗しても責めるなよ? あと少し助けてくれ」


「当然。安心してくれていいわよ」


 2人は頷き合うと気配のする方向へと足を向けた。


◇◇◇


 陽の国に住む者たちは影の国では黒点となる。

 そのため、先ほどまで人がごった返しているように見えた商店街もその賑わいを失っている。


 しかし、なにもいないわけではない。


(あいつら、か……)


 修也はとある店の屋根に伏せて商店街の道、その真ん中を歩く存在を見つめる。


 そこにいたのは2体の人型の影。

 いつも彼らが見るソルジャーと見た目の質感は似ているが、その姿は違いが目立った。


 彼の目に最初についたのはゆらゆらと揺れながら歩いている全体的に細身な影。名称はファイター。


 頭部は赤い2つの目。手足が不気味なほどに長いことに加えてさらに目を引くのはその腕、肘から手に至るまでに大きくなっている。

 それはまるで「これが己の武器」とでも言いたいようだった。


 2体目、それの一歩後ろを歩くのはアーチャー。

 全体的に日本甲冑を思わせるが、左腕や左胸は特に鎧が厚くアシンメトリーとなっている。

 しかし頭にあるぎょろりとした1つの赤目にどこか生物的な鎧は不気味だ。

 次いで、否、その影で最も目を向けさせる左手に持つ大きな弓だ。長さは2メートル近くはあるだろう。


 姿が大きく違うことも合わさっているせいか発せられるその気迫とでも呼ぶべきものが違うように修也は感じた。


(遠距離と近距離って感じだな。あれは、強──)


 修也が感想を心の中で言葉にするよりも早く体が動いた。


 四肢を屋根に付けるとそれらに力を込めて一息に跳び上がる。

 瞬間、彼が先ほどまでいた場所を矢が通り抜けた。


(今のでバレた!? なんで!?)


 音も立ててない。姿も見られていない。

 だが、偵察は失敗した。


 理由は分からずとも失敗ということは事実であり、バレたのならば次の行動を起こすしかない。


「桑田さん!」


「先頭を止めるわ! 紫原君、合わせて!」


 言いながら建物の陰から飛び出した凛は構えていた巨大な車輪を駆動、刃を回転させるとファイターへと射出した。


 それに合わせて修也は籠手に短剣を擦らせて長剣にして振り下ろそうとしたが、それを妨げるように彼へと矢が放たれる。


「くっ!」


 修也はファイターへの攻撃を中断、放たれた矢を弾き落としながら着地。

 その隣には放った車輪を装置に戻していた凛がいた。


「攻撃は?」


「見てわかるでしょ?」


 言われてみた方向には無傷のファイターが立っている。

 おそらくその拳で防いだのだろう。右の拳を突き出していた。

 ゆっくりとその拳を下ろす後ろには大弓を持ち、矢をつがえているアーチャーがいる。


「……これ、手強そうだな」


「でも、やるしかないわ」


「ああ、そうだな!」


 修也は答えると長剣を短剣に戻し、逆手持ちにするとファイターとの距離を一息に詰める。

 そして、それを振るった。


 しかし、彼の手に切る感覚はない。

 かわりに得られたのは固い何かに剣が当たる感覚、響いたのは固い金属同士がぶつかり合った音。


(弾かれた!?)


 かわすのではなく、防ぐのでもなく、弾かれた。

 的確に修也の攻撃に合わせて放たれたのはファイターの左拳。


 奥歯を噛み締めた修也は軽く仰け反った体を無理矢理に戻しながら順手に持ち替えた短剣を振り下ろす。

 その攻撃は弾かれることはなかった。


「ガァッッ!?」


 なぜなら刃が切るよりも速く修也の懐に入り込んだファイターが彼の腹部に強烈な右ストレートを叩き込んだからだ。


 衝撃で吹き飛ばされ、その最中に短剣も手からこぼれ落ちる。

 短剣が地面に触れるのとほぼ同時に修也も地面を転がった。


(な……ん、見えな、かった?)


 視界外から一撃ではない。

 ただファイターの攻撃を修也の目が追えなかったというだけの話だ。


 たったそれだけの事実。

 しかし、今まで苦戦というものをまるでしていなかった修也にとって回避が出来ない見えない攻撃というのは恐怖を覚えるのには十分だった。


 何をするにもまずは立ち上がらなくてはならない。

 じわりと広がる痛みとともに明確な形となり始めた恐怖を押し殺すように修也は歯を食いしばりながら立ち上がる。


 そんな彼の目の前にいたのはいつのまにかすぐそこまで近づいていたファイターだ。


「ッッ!!」


 まずい。

 そう思った頃には修也の視界はファイターが放った左拳によって揺らされていた。


 歪む視界にはっきりとした衝撃と痛み。

 それらに対する苦悶の声すら許さぬように続けて放たれた右の拳が彼の左胸を捉える。


 大きく姿勢を崩した修也への攻撃がそこで終わるわけもない。

 さらに続く膝蹴りの追撃で膝をつきかけた彼へと強烈な右ストレートが頭部に入った。


(こ……れ、死──)


 文字通り為す術なく修也は再び殴り飛ばされると2回ほどバウンドして地面を転がった。


「紫原君!!」


 声を荒げた凛はそのまま修也へと駆け寄ろうとしたが当然それを的も許すわけがない。


 彼女の鼻先を1本の矢が駆け抜けた。

 それが飛んできた方向を見るとそこには自分の存在を誇示するかのようにアーチャーが睨み据えていた。


 この状況の打開策を必死に思案するが形にならない。

 当然だ。修也と比べてアルカナを纏っていた時間はたしかに長いが、彼女もこのような事態に陥ったことがないのだ。


(どうすれば……!)


 このままではどちらか一方が生き延びることすらも難しい。


 そして、そんな中でも攻撃が止むことはない。

 アーチャーは矢筒から矢を3本取り出すとそれを弓に番えた。


 普通の人間ならばそんなそんな方法で矢を射てるわけがないのだが、もちろんアーチャーは人間などではない。

 そのため、その3本の矢を同時に放つことができる。


 向かってくる3本の矢。

 1本はかわし、2本は肩から放った車輪で防いだ。


 その流れのままに巨大な右腕の巨大な車輪を放つ。

 甲高い駆動音を尾に引きながらアーチャーへと一直線に向かったが、それはファイターの拳によって弾かれた。


「強いとは予測していたけどまさかここまでなんて……!」


 帰ってきた両肩と巨大な車輪を装置に戻した凛は改めて構えを取る。


(ここから、どうする……。私は、どう動けばいい!?)


 今の凛には未だに闘争心があった。

 地面に転がる彼からは消えかけているものを彼女は未だ持ちながら敵を見据えていた。

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